ビジネスや社会の様々な課題をデジタル技術によって変革することを意味するDX(デジタル・トランスフォーメーション)。
前回はこのDXを消防分野に適用する取り組み「消防DX」について紹介した。今回はDXを防災分野に適用し、デジタル技術で防災対策を進化させる取り組み「防災DX」について紹介する。
インフォマティクスはデジ田交付金を活用したDX化を支援するため、自治体・消防機関・警察機関に向けた「デジ田空間情報メニューブック」をご用意しています。GISや地図を使ったデジタル化の施策検討に、ぜひご活用ください。
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目次
背景
防災分野におけるDXは、2022年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」や「経済財政運営と改革の基本方針 2022」において、消防DXと同様にデジタル化の推進による拡充・強化が掲げられている。
さらに2022年12月には、防災・消防関連の省庁や地方公共団体、民間事業者による「防災DX官民共創協議会」が発足した。
この協議会は、防災DXの課題を整理した上で実現に必要なデータ連係基盤のあり方を官民で検討し、その構築に向けて必要となる施策を提言。
これにより、実現に資するアプリケーションやサービスの開発・流通を促進し、エコシステムや市場を共創することを目指している。
防災DX官民共創協議会
(出典:https://ppp-bosai-dx.jp/)
地理空間情報に関連した防災DXサービス
防災DX官民共創協議会には2023年5月17日現在、77の地方公共団体と254の民間事業者が会員として参加しており、民間事業者はスタートアップから大手企業まで多彩な業種が名を連ねている。
デジタル庁は様々な企業が提供する防災DXサービスを
- 平時
- 切迫時
- 応急対応
- 復旧・復興
の4局面に分けて整理した「防災DXサービスマップ」を公開している。
このサービスマップの中から、地理空間情報に関連したサービスをピックアップすると以下のようになる。
平時
防災学習
- VRを使用した津波・洪水の可視化や避難体験シミュレーション
- 動く3Dハザードマップ
- 避難確保計画の策定支援
災害リスク
- 液状化、地震時揺れやすさ、土砂災害リスクのスコア化
- 災害リスク評価と可視化
切迫時
情報通知
- 災害情報共有
- 災害時に要避難支援者の位置を確認
- ARを用いた危険区域の可視化
被災予測
- 建物被害のリアルタイム予測
- 河川水位のリアルタイム予測
- 水災害発生リスクのマッピング
計測・情報収集
- 水位計を使った河川、ため池観測
- 冠水・浸水モニタリング
- 衛星、伸縮計を使った地盤観測
災害対策本部運営
- 発災後の情報収集、災害対策本部運営支援、住民の避難誘導、被災者生活再建に至る全体サポート
- 災害状況の情報収集、可視化
応急対応
避難生活支援(避難所運営)
避難所の混雑状況可視化
被害情報の収集・共有
- クラウド型の被害情報収集・共有
- SNSなどを活用したリアルタイムな情報解析、可視化
- ドローンを活用した災害状況の把握
- AIを活用した被害状況の解析
- 人工衛星からのマイクロ波(衛星SAR)を活用した、浸水範囲・浸水深の観測・把握
復旧・復興
復旧支援
- 住居や建物の被害認定調査支援
- ドローンを活用した点検
防災DXサービスマップ
(出典:https://bosai-dx.jp/)
【ニュースリリース】
インフォマティクスが提供する「消防水利充足率分析結果作成サービス&消防地図クラウド」が、デジタル庁公開の「防災DXサービスマップ」に掲載されました。詳しくはこちら
技術革新で生み出される新たな防災サービス
以上のように、防災関連のDXサービスには様々な種類があり、技術革新により新たなサービスが次々に生まれている。
たとえば被害情報収集の新サービスとしては、日本版GPSである準天頂衛星「みちびき」による「衛星安否確認サービス(Q-ANPI)」がある。
Q-ANPIは災害時に避難所の情報をみちびきの衛星経由で管制局に送信するため、モバイル通信網が途絶した状態でも使用することが可能だ。
Q-ANPI
(出典:https://qzss.go.jp/overview/services/sv09_q-anpi.html)
ほかにも、測位衛星が発する信号をもとに地震の前兆を捉えたり、高精度測位によって地殻や水位の変動を捉えたりする取り組みが始まっている。
今後も生成型AIやビッグデータ解析、ドローン、IoT、自動運転、衛星測位、衛星通信、衛星地球観測など様々な分野の技術が進むにつれて、従来は実現不可能だった新たな防災サービスが生まれることが予想される。
GISベンダーによる防災ソリューション
一方、GIS(地理情報システム)の提供会社による防災ソリューションに対する取り組みも活発化している。
インフォマティクスもGISをベースに被害想定から発災時・発災後の対策までの様々なフェーズに対応した自治体向け防災システムを提供しているほか、災害時に要援護者や避難所情報をGISと連携して管理し、支援者向け安否確認地図や要援護者向け避難経路地図を作成できるシステムも提供している。
インフォマティクスの災害対策・防災ソリューションの導入事例はこちら
防災DXの課題
今後、防災DX官民共創協議会でも課題の整理・明確化が行われる予定だが、現時点では以下のような項目が課題として挙がっている。
- SNSやGIS(地理情報システム)を活用し、住民と自治体間で情報共有するための新しい情報伝達手段を構築する
- AIチャットボットなどを活用し、人員不足による業務負担軽減に効率的な事務処理を導入する
- 避難所でのQRコード読み取りなどIT技術を活用することで、住民の避難状況を迅速に把握し、行方不明者や救助対象者を特定する
もちろんこのような新しい仕組みを構築するためには、官民が保有する様々な防災関連のデータを共有し、相互利用を促進することが不可欠であり、デジタルに強い「DX人材」を確保する必要もある。
災害大国である日本がこのような取り組みを加速させることで、防災分野で世界に貢献していくことにもつながるだろう。
インフォマティクスでは、GISを活用した災害対策ソリューションを提供しています。動画で詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください!
<参考>内閣府ウェブサイト、デジタル庁ウェブサイト、防災DX官民共創協議会ウェブサイト