目次
都市交通調査プラットフォームの概要
国土交通省は、都市の交通実態を調査する「都市交通調査」を長年実施している。
中でも都市における人の移動に着目した「パーソントリップ調査(PT調査)」は1967年に広島都市圏で初めて調査が行われて以来、全国各地で実施されるようになり、交通需要予測や都市交通マスタープラン作成ほか、さまざまな用途に利用されている。
パーソントリップ調査は、アンケート調査世帯や個人属性に関する情報と1日の移動をセットで調べることで、どんな人がどんな目的で、どこからどこへ、どの時間帯に、どの交通手段で移動しているかを把握でき、公共交通や自家用車、徒歩といった交通手段の乗り継ぎや使い分けの状況もわかる。
このパーソントリップ調査のデータを可視化・分析するツールを提供しているのが、ウェブサイト「都市交通調査プラットフォーム」だ。
背景
国土交通省の発表によると、これまで都市交通調査は交通施設の必要性を検討するような場合に利用されてきたが、近年テレワークの普及やデジタル化により移動を伴わない活動が増えたことから人々の移動と活動に乖離が生じている。
加えて、ビッグデータを活用したシミュレーション技術が進化していることも踏まえ、都市交通調査の統合プラットフォームの必要性が生じたため同サイトが設置された。
都市交通調査プラットフォーム
調査データを地図上で可視化・分析
都市交通調査プラットフォームでは、データ分析に詳しくない人でもパーソントリップ調査データを簡単に扱えるように「可視化・簡易分析ツール」が提供されている。
同ツールは「マップでみる」「グラフでみる」の2つから構成されている。
2024年10月現在、公開されている都市圏データは以下通り。
- 第5回仙台都市圏PT調査(2017年度)
- 第5回北部九州圏PT調査(2017年度)
マップでみる
ゾーン(エリア)ごとの傾向について地図上で比較することが可能で、以下の6つの指標を表示できる。休日調査を実施した都市圏では、平日・休日の切り替えも可能だ。
- 外出した人の割合(外出率)
- 移動回数(外出した人)
- 発生量(ある地域を出発するトリップ)
- 集中量(ある地域に到着するトリップ)
- 発生集中量(ある地域の発生量と集中量を加えたもの)
- 移動時間(発地/着地を選択可能)
なお、パーソントリップ調査における「トリップ」とは、「ある1つの目的での出発地から到着地までの移動」を意味する。また、ゾーンの区分けは市区町村別であることが多いが、1つの区や市で複数に分かれることもある。
可視化したいデータを絞り込むためのフィルターが用意されている。フィルターは以下の5種類で、一度に設定できるのは1項目のみで同時に複数項目の設定はできない。
- 年齢(5~14歳/15~24歳/25~44歳/45~64歳/65~74歳/75歳~)
- 就業者(就業者/学生/無職)
- 目的種類(通勤・通学/帰宅/業務/私事)
- 代替交通手段(鉄道/バス/自動車/2輪車/徒歩・その他)
- 時間帯(~7時/7~9時/9~12時/12~17時/17~19時/19~22時/22時以降)
背景地図はオープンストリートマップを使用しており、データ可視化領域の透過度を調整することも可能。画像をキャプチャしてダウンロードする機能も搭載している。
「マップでみる」
グラフでみる
都市圏および表示するゾーン、フィルター(発生量/集中量/発生集中量)を指定すると、全域またはゾーン別の指標値とグラフが表示される。表示される指標値とグラフは以下の通り。
指標値
- 総合的な指標(外出した人の割合/移動回数/トリップ数)
- 公共交通(トリップ数/平均移動時間)
- 自動車(トリップ数/平均移動時間)
グラフ
- 外出率(年齢別/就業・就学状況別)
- 移動回数(年齢別/就業・就学状況別)
- トリップ数(年齢別/就業・就学状況別)
- 代表交通手段別トリップ数および構成比
- 目的種類別トリップ数および構成比
- 移動の長さ別トリップ数(総合/自動車/公共交通)
- 移動時間帯別トリップ数(総合/自動車/公共交通)
「グラフでみる」
集計データダウンロードツールや調査支援ツール集も提供
集計データダウンロードツール
このほか、パーソントリップ調査の集計データを任意の表示項目で抽出し、ダウンロードできる「集計データダウンロードツール」も提供されている。
このツールを使えば、さまざまな切り口で交通指標を集計でき、集計結果をダウンロードして加工することも可能だ。利用にあたってはアカウント登録(無料)が必要となる。
集計できるのは以下の5つの指標で、平休日やゾーン、性別、年齢など10項目とクロス集計できる。
- 外出率
- 原単位(1人・1日あたりの平均トリップ数)
- 発生集中量
- OD交通量(どこから出発してどこに到着したかをまとめたデータ)
- 鉄道駅交通量
集計データダウンロードツール
調査支援ツール集
地方公共団体に向けた調査支援ツール集も用意している。提供されている調査支援ツールは以下の通り。
- 都市交通調査ガイダンス
都市交通調査実施時の指針となる手引き書 - マニュアル作成のポイント
都市交通調査のマニュアル作成時の参考となる解説書 - 標準調査項目及びデータレイアウト解説書
データ品質確保と調査効率化を目的とした解説書 - 調査票や調査配布物のサンプル
調査支援ツール集
パーソントリップ調査データの活用支援ツール
現況推計データの生成やシナリオ分析に活用できる「標準的なアクティビティ・ベースド・シミュレータ」のプロトタイプも紹介している。
開発を行った国土技術政策総合研究所(国総研)都市施設研究室ではプロトタイプのシミュレータを試用するフィールドを探しており、希望者にはシミュレータの貸与を行っている。(2024年10月現在)
パーソントリップ調査データの活用事例
同サイトでは、パーソントリップ調査の活用事例を紹介するコーナー「調査事例・活用事例・Tips」も設けている。
このコーナーでは松山市と山形市の事例インタビューを掲載しているほか、近年の調査実施都市圏の一覧も載っている。(2024年10月現在)
松山市
1979年と2007年にパーソントリップ調査を行った松山市では、16年ぶりとなる2023年5月に3回目の調査を実施した。
今後は集計データをもとにマスタープランを作成し、まちづくりに活用していく方針である。
同市では商店街とともに賑わい創出に取り組んでいるが、歩行空間や広場整備のような賑わい創出事業は費用対効果が見えづらいことが課題のため、パーソントリップ調査の結果で人流の変化を可視化できるようになることに期待を寄せている。
山形市
山形市では2017年に初めてパーソントリップ調査を行い、調査結果を都市計画などに活用している。
調査実施以前は、市民の移動や行動の実態に関する参考データがなく、市民に対して客観的な根拠に基づく説明ができなかった。
パーソントリップ調査を実施したことで、個人の属性や移動手段、目的を具体的に把握できるようになり、それをもとに様々な分析を行うことで地域の現状や課題を明確にできるという。
例えば山形市では近くのスーパーやコンビニに行く際にも自家用車を使う人が珍しくなく、また保育園に子どもを預けたり高齢者を病院や商業施設に送ったりする送迎トリップも多いことがわかった。
このような実態が具体的に可視化されたことで、公共交通の利用促進など市が取り組んでいる様々な施策や方針につなげられた。
ほかにも、まちづくりや交通分野に直接関わる部署だけでなく、観光や健康分野の部署でも活用されているという。
事例インタビュー
上記のような自治体による都市計画への活用のほか、民間企業でもGIS(地理情報システム)で扱うデータとして、エリアマーケティングや観光事業支援などさまざまな用途に活用できる。
課題
課題としては、現時点で本プラットフォームの可視化・簡易分析ツールが扱っているデータは「仙台都市圏」と「北部九州都市圏」のエリアのみであることが挙げられる。
今後はほかのエリアにおいてもデータ公開が進んでいくことを期待したい。
■URL
https://ptplatform.mlit.go.jp/
インフォマティクスからのお知らせ
インフォマティクスはデジ田交付金を活用したDX化を支援するため、自治体・消防機関・警察機関に向けた「デジ田空間情報メニューブック」をご用意しています。GISや地図を使ったデジタル化の施策検討に、ぜひご活用ください。
ダウンロードはこちらから >>
地図や3Dデータを活用した解析、シミュレーションに関するご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
<参考>国土交通省ウェブサイト、都市交通調査プラットフォームウェブサイト