人々がいつどのような場所にいるのかを全体的に把握できるデータとして、さまざまな分野で活用が進んでいる「人流データ」。
本記事では、コロナ禍で注目が高まっている人流データの取得方法や活用用途について解説する。
目次
人流データとは
人流とは人の移動のことであり、人の移動を表したデータのことを人流データという。
地図上で可視化することで、人々がいつ、どこからどこに移動しているかや、特定エリア内にどのくらいの人が滞在しているかといった情報を視覚的に把握できる。
人流データが注目されるようになったワケ
以前は手段やコスト面から人流データの取得は困難だったが、近年多くの人がスマートフォンを所有するようになったため、アプリ経由で位置情報を比較的簡単に入手できるようになった。
そんな中、きっかけは新型コロナウイルス感染症の流行に伴い緊急事態宣言が発令された2020年春頃。
スマートフォンの位置情報データをもとに各地を訪れる人の数がどれくらい増減したのかを報告するレポートが、さまざまな企業から相次いで発表されたことで注目され始めた。
これらの人流データは、膨大な数のスマートフォンから収集された位置情報データをもとにしている。では具体的にどのような方法で収集されているのだろうか。
人流データの取得方法
広域における位置情報の取得方法としては、以下のようなものがある。
なお、これらのデータはユーザーの許諾を得て収集された匿名の位置情報データであり、個人が特定できないように加工されている。
スマートフォンの衛星測位機能
行動履歴を記録できるライフログアプリやナビゲーションアプリ、見守り用の位置情報共有アプリ、SNSから収集される位置情報は、スマートフォンの衛星測位機能(屋内ではWi-Fi測位機能)を使って取得した位置情報が付加されており、これらのデータを収集してビッグデータとして活用している。
携帯電話の基地局情報
通信事業者は携帯電話の基地局情報をもとに各基地局で携帯電話を持つ人がどのくらいいるのかを把握し、各エリアの端末数をもとに人口推計し、人流データとして活用している。
スマートフォンのGPS機能がオフでも携帯電話の電源が入っていればデータを取得できる。
Wi-Fi接続
駅や空港、ショッピングセンター、観光スポットなど街中にあるWi-Fiスポットの接続情報をもとに、Wi-Fiアクセスポイントに接続した端末数から解析して人流データとして活用する。
Wi-Fiを利用するにあたって登録した性別や年代などの属性情報も、個人が特定できない形に加工して統計データとして使用する。
ほかにも、街中に配置したBluetoothビーコンを活用して位置情報を取得する方法がある。
交通系ICカードを利用し、駅の改札やバス乗降口などで読み取ったICカードの利用履歴を収集して人流データとして活用する取り込みも行われている。
特定の施設内で限定的に人流を計測する場合は、カメラやLiDAR(レーザースキャナー)を設置して、往来する人々の流れを計測する方法もある。
人流データをもとに各地の混雑具合がわかるYahoo!地図の「混雑レーダー」
(出典:https://map.yahoo.co.jp/congestion)
人流データの活用例
人流データを地図上で可視化して分析すれば、特定場所の施設の利用者数やその移動状況を把握でき、さまざまな分野に活用できる。
以下、その代表的な活用例を紹介する。
- 小売店や飲食店においてキャンペーンやイベントの集客効果を測定
- ユーザーの行動範囲にもとづいて広告を配信
- 施設や店舗、乗り物の混雑状況を利用客に向けて可視化
- 新規出店のエリア選定
- 災害時の避難ルート選定
- 通行実績情報をもとに通行不能な道路を把握
- 施設内レイアウトの改善
- バスルートの改善
- 工場内の作業工程の効率化
- オフィスビル内の空調や照明を調整
- タクシー乗車の需要予測
マーケティング分野では、キャンペーンやイベントの効果測定だけでなく、人流データをもとに特定地域のユーザーに限定した広告配信などのプロモーションも行える。
自治体が都市計画を行う際にも人流データを活用する動きが見られるほか、工場や稼働率やショッピングセンターの混雑状況を可視化することで経済活動を推定し投資判断に活用するなど、さまざまな分野で活用が進んでいる。
各種データと組み合わせた活用
人流データは単体で使うだけでなく、統計データやPOS売上データ、SNSデータ、交通データ、気象データ、衛星データなどのデータと組み合わせることで、より多様な分析ができる。
たとえば、気象データと組み合わせれば晴天と雨天での人の流れの違いを分析でき、これをもとにマーケティング施策を検討できる。
オープンデータとして公開されている人流データ
人流データは有料で提供される場合が多いが、オープンデータとして公開されているものもある。
たとえば国土交通省提供の「全国の人流オープンデータ」は、産学官の地理空間情報を扱うプラットフォーム「G空間情報センター」で公開されており、無料でダウンロードできる。
「全国の人流オープンデータ」は、株式会社Agoopが提供するSDK(ソフトウェア開発キット)を組み込んだスマートフォンアプリで取得した位置情報データをもとに作成されたもの。
各エリアの滞在人口は、Agoop社が作成した換算人口値に基づいて、アプリユーザーごとに地域に応じて拡大推計し、地域ごとのデータ量のバラつきを解消している。
この拡大推計したアプリユーザーの位置情報データをメッシュまたは市区町村単位で集計したうえで、人口値を滞在時間で按分し換算人口値を算出している。算出された換算人口値は、GISソフトを使って地図上で可視化できる。
国土交通省は人流データの活用を促進するため、地方公共団体と民間事業者が協働して人流データを取得・活用した地域課題解決を目指すモデル事業も実施している。
G空間情報センターで公開されている全国の人流オープンデータ
(出典:https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/mlit-1km-fromto)
手軽に扱える人流解析サービス
上記のような人流オープンデータを入手したり、データプロバイダーから購入したりして、自らGISソフトを使って分析することも可能だが、最近ではウェブサイト上で人流解析を手軽に行えるサービスも登場している。
以下、代表的な人流解析サービスを紹介する。
人流アナリティクス
人流データの分析を簡単かつ安価に行えるクラウドサービス。
あらかじめ用意された位置情報ビッグデータを用いて、分析するためのウェブアプリ(ウィジェット)をユーザーごとに作成したダッシュボード上に配置することで、ユーザーの利用目的に合わせて自由に人流データの分析を行える。
クロスロケーションズ株式会社
https://www.x-locations.com/
モバイル空間統計
携帯電話ネットワークの仕組みを使用して作成される人口の統計情報で、1時間ごとの人口を24時間365日把握できる。
国内居住者だけでなく訪日外国人のデータも利用可能。有料サービスのほか、無料で利用可能な「モバイル空間統計 人口マップ(モバ空マップ)」も提供している。
株式会社NTTドコモ
https://mobaku.jp/
CITY INSIGHT
SNS解析データをはじめ携帯電話の基地局データやスマホアプリのGPSデータ、車両走行データを組み合わせてさまざまな分析レポートを提供するほか、これらのデータをもとにウェブ上で解析する分析ダッシュボードも提供する。
分析ダッシュボードは- SNS解析プラン
- 滞在人口分析プラン
- 車両走行データ分析プラン
の3つのプランを用意している。
株式会社ナイトレイ
https://cityinsight.nightley.jp/
V-RESAS
V-RESASは新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響を把握し、感染症拡大の収束後に地域経済を再活性化させていくための施策の立案・遂行・改善を行うための分析ツール。
消費・飲食・宿泊・イベント・雇用・企業財務などに加えて「人流」カテゴリが設けられており、全国の移動人口の動向や代表的な観測地点における滞在人口を調べられる。
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進室
https://v-resas.go.jp/
※V-RESASは2024年3月31日をもって公開終了され、後継サイトとしてRAIDA(レイダ)が公開されています。
クロスロケーションズの「人流アナリティクス」
(出典:https://www.x-locations.com/news/pr20220803/)
※本記事で紹介したサービスに関する詳細は、各提供会社様あてにお問い合わせください。