新型コロナウイルス感染症の防止対策として2020年4月8日に7都府県に発出された緊急事態宣言は、同16日には対象地域が全国に拡大された。
不要不急の外出自粛により、テレワークでの自宅業務を余儀なくされている皆さんも多いのではないだろうか。
先が見えない状況の中、今後の対応を決める指標となるのが感染者数の推移、そしてその感染対策の効果ということになる。
こうした指標をどのように視覚化するのかは、対策を立案する上でも、国民に外出自粛を啓発するうえでも大きなテーマとなる。
実際に発生状況を視覚化する試みはさまざまなサイトで行われている。今回はそれらのうちいくつかを紹介してみたい。
目次
日本における新型コロナウイルスの感染状況を知る
厚生労働省
まずは主管官庁である厚生労働省のサイトだ。
新型コロナウイルス感染症の国内でのサーベイランス報告に基づき、発生した患者の県庁所在地にプロットしたマップ、感染確定者数、そしてその推移をグラフで見ることができる。
グラフは日次確定者数、累計感染者数の切り替えが可能で、併せて症例の一覧も閲覧できる。
いわゆる3Dのマップグラフで、デザインとしての見栄えはいいものの、表現上の難点は高い値が出た都道府県の裏側が死角になってしまうこと。
もちろんマップは回転や角度を変えることも可能なので動かせばいい話だが、一覧性という点ではやや劣るか。
新型コロナウイルス感染症 国内事例(厚生労働省)
https://mhlw-gis.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/c2ac63d9dd05406dab7407b5053d108e
NHK
ほぼ同じ内容をNHKのサイトでも見ることができる。
マップは小さいものの、都道府県単位の感染者数によるシンプルな色分け図で、厚生労働省のサイトと比較すると地味ながら一覧性という意味では案外こちらの方が分かりやすい。
都道府県をクリックすると、県ごとの感染者数の推移を見ることもできるのもUIとして優れている。
ただし、都道府県単位の場合、面積や人口を考慮するのでなればあまり意味がなく、可能であれば何らかの正規化がされた(例えば人口に占める感染者数の割合など)コロプレスマップも併せて表示すればさらに良かったのではないか。
都道府県別の感染者数(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/
NHKは特設サイトを設けてさまざまな情報を発信している。
感染者数だけでなく、たとえば「街の人出は減っているか? 各地のデータ」という形でも数字を公開している。こうしたデータも重要な指標になる。
街の人出は減っているか? 各地のデータ(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/#infection-status
東洋経済オンライン
東洋経済オンラインもデータを公開している。
基本的には厚生労働省が発表しているデータながら、感染者数だけでなく患者数、退院者数、PCR検査人数、重傷者数、死亡者数、年齢別の感染者数のグラフを一覧できる。
都道府県別の状況も公開しており、感染者数、退院者数、PCR検査数、死亡者数をグラフと地図で見ることが可能。
地図は都道府県別の濃淡の塗り分けで、階級が少ないため地図そのものの情報量は薄いが、クリックすると各県のデータが出るのはUIとしてはむしろいいのかもしれない。
都道府県別の状況(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/
ジャッグジャパン
ビッグデータによる選挙コンサルティングを手がけるジャッグジャパンでも、新型コロナウイルス感染症に関するさまざまなデータを視覚化して公開している。
こちらは厚⽣労働省や地⽅⾃治体の公開する症例データを⼀元的に集約し可視化するデータビジュアルサイトとなっていることはもちろん、API(JSON形式)でも配信しているのが特徴。地図はヒートマップとして公開されている。
都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ(ジャッグジャパン)
https://gis.jag-japan.com/covid19jp/
また、厚生労働省がLINEと共同で実施した「新型コロナ対策のための全国調査」の結果についても、視覚化のうえ配信している。こちらはコロプレスマップになっている。
いずれも非常に良くできているが、どちらかといえば玄人向けという印象。
「新型コロナ対策のための全国調査」の結果(ジャッグジャパン)
インフォマティクス|GISベンダー自らマップを公開
GISソフトウェアの提供やシステム開発を手がけているインフォマティクスでも日本国内の新型コロナウイルス感染者数とPCR検査数を、都道府県別・日別に地図とグラフで可視化して公開している。
こちらはスライドバーで時系列が見られるUIも含め、地図・グラフと背景のデザインが見やすい点などインターフェースの良さが特徴。
「大きな地図で見る」ボタンで同社のWebGISサービス「GC Maps」で作成した地図を公開しているサイトにリンクする。
こちらは地理院地図の背景を選択できるほか、レイヤー分けによりさまざまなデータを切り替えられ、GISベンダーらしい凝った作りになっている。
新型コロナウイルス感染症 国内状況(インフォマティクス)
https://www.informatix.co.jp/covid-19/index.html(2023/6/14でサービス終了)
新型コロナウイルス日本の発生状況(GC Maps)
JX通信社|クラスター発生箇所の視覚化の是非
報道ベンチャーのJX通信社が提供する速報ニュースアプリ「NewsDigest」では、近所で感染事例が報告された場所や「クラスター」の情報を地図上でピンポイントに確認できる。
通常の都道府県別感染者マップのほかに、自治体が公表している感染者の出入りがあった店舗や事業所等の情報を地図化したもので、近隣の企業や施設に対する噂やデマ・フェイクニュースの拡散、風評被害などを抑止するための公開とされている。
感染事例が報告された場所の情報(NewsDigest)
iPhone 版 : https://itunes.apple.com/jp/app/id950527505
Android 版: https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.newsdigest
この地図の評価はちょっと微妙だ。そもそも「感染事例があった場所」というのは偶発的な要素も強い。
数多ある「三密」が発生しがちな場所の中で、たまたまその場所(施設)で生じたに過ぎず、感染予防対策という点でどれほどの意味があるのだろうか。
風評被害の抑制を目的としながらも、かえって風評被害を呼び込む懸念がある点はひっかかる。
そもそもその情報自体が本当に知るべき情報なのかという点でも疑問だ。不動産の事故物件を特定するウェブサイト「大島てる」と似たような立ち位置で、興味本位の需要はあるとしても必然性はないように感じる。
同じようなアプローチをとるのであれば、「三密」が発生しそうな場所にすべてアラートを出すべきではないか。
Yahoo Japan
この点においては、ヤフー地図が提供する混雑レーダーが役に立つのではないか。
人が集まっている場所がヒートマップで表現されており、直感的に分かりやすく、上手く使えば人が集まる場所を避けることもできる。
ヤフー地図を立ち上げて地図レイヤーの中から混雑レーダーをオンにすることで表示される。
混雑レーダー(Yahoo!地図)
世界における新型コロナウイルスの感染状況を知る
新型コロナウイルス感染症の猛威は世界中に及んでおり、今後グローバルな社会・経済のあり方にもさまざまな影響を及ぼすことになるだろう。
そうした意味で世界の動向にも目を向けておく必要がある。
NHK
NHKでは、世界の国別の感染者数を公開している。
データソースはWHO(世界保健機関)。表示は国単位で、感染者数に応じた円の大きさにより表現しており、円にカーソルを当てると国名・感染者数・死者数が表示される。UIとしてはスタンダード。
縮尺の関係もあるだろうが、国境の表示がないのでパッと見た時の国の区分が分からないほか、メルカトル図法なのでエリア(面積)との関係がつかみにくいのが難点。
またヨーロッパのような国が密な地域ではデータ円が重なってしまい分かりにくい。
世界の感染者数(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/
WHO(世界保健機関)
データソースとなっているWHOのサイトでも世界各国の感染状況をマップで公開している。
こちらも国単位の円の大きさで表現しているが、国境線は表示されている。
Coronavirus (COVID-19)(WHO)
ジョンズ・ホプキンズ大学
アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学システム科学工学センターによる感染状況報告は、アメリカでは都市レベル、カナダ、オーストラリアでは州レベル、中国は省レベル、それ以外の地域は国レベルでの情報が地図・グラフで表示される。
表示やUIがジャッグジャパンのものと似ているのは、同じプラットフォームを使用しているゆえか。それにしてもアメリカが都市単位で表現されていることには驚愕する。
Coronavirus COVID-19 Global Cases by the Center for Systems Science and Engineering (CSSE) at Johns Hopkins University (JHU)
https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6
Googleも国別のデータを地図化している。
地域によっては細かい行政単位にまとめられている(日本は都道府県単位)が、データソースはWikipediaとなっているので非公式なものであり、単位や時点などが不揃いなのが難点。
Coronavirus (COVID-19) map(Google)
https://news.google.com/covid19/map?hl=ja&gl=JP&ceid=JP:ja
日本経済新聞
日本経済新聞のサイトも優れたビジュアルでマップやグラフを公開している。
データソースは日本も含めてWHOに統一されている。中国での省ごとの感染状況を表す地図も用意されている。
Coronavirus infection tracker -World Map-(NIKKEI ASIAN REVIEW)
https://vdata.nikkei.com/en/newsgraphics/coronavirus-world-map/
上記で紹介した以外にもボランタリーなものも含めてさまざまなマップが公開されているので、自分がもっとも見やすい、分かりやすいマップを探してみることをお薦めしたい。
人口や人流変化を視覚化する
また、AIによる人流ビッグデータの解析などから、国内の外出自粛状況などを定量化・可視化する取り組みも行われるようになっている。
以下は代表例。
AppleとGoogleが技術提携
2020年4月10日にはAppleとGoogleが新型コロナウイルス対策として、濃厚接触の可能性を検出する技術での協力を発表した。
APIとOSレベルのテクノロジーからなる包括的なソリューションを確立して濃厚接触の可能性を検出しようという取り組みだ。
公衆衛生当局が提供するアプリを通じて、広範なBluetooth ベースの濃厚接触の可能性を検出するプラットフォームの実現を目指すというもので、位置情報の追跡により、接触者を検出することで感染拡大防止に貢献する。
プライバシーの問題があるものの、位置情報を使った直接的な取り組みとして今後期待がかかる。
デリケートなデータでもあり、ユーザーの信頼を勝ち取れるのかどうかは大きな課題だが、世界がこうしたソリューションに頼らざるを得ない状況になっていることもまた事実である。
書籍紹介
ビジュアル パンデミック・マップ
本書ではコレラ、天然痘、エボラ出血熱、SARSなど、これまで大流行した伝染病を解説。当時のイラストや写真、最新データをもとに感染経路や終息例、感染地域がわかりやすく地図化されています。
感染症疫学 新版 感染症の計測・数学モデル・流行の構造
初版(1994年)以来、世界的に読まれてきた書籍の最新版。
疫学の基礎から応用まで表やグラフを交えながらわかりやすく解説されています。
スウェーデンの「集団免疫戦略」をリードする専門家会議「スウェーデン・カロリンスカ感染症疫学研究所」のメンバーであるヨハン・ギセック氏による著書。