地図・地理

大地震発生時の道路閉塞の危険性と避難への影響|地域住民と連携した避難地図づくり

こんにちは、インフォマティクスの空間情報クラブ編集部です。

今回は地震発生時に起きる道路閉塞対策として実施されたワークショップやGISを利用したシミュレーションについてご紹介します。

背景

大地震が起きると、建物や塀、電柱などが倒壊し道路が通れなくなる「道路閉塞」が生じることがあります。これは密集住宅市街地では特に顕著です。

建物や塀の倒壊は死傷者発生の要因となるほか、消火・救助・避難の障害にもなります。

交通が遮断されれば、医薬品などの物資が届かないことが原因で、地震直後には救われた命がその後奪われてしまうこともあります。[1]

道路閉塞が与える影響

道路閉塞が起きると以下のような問題が生じます。

  • 避難:安全な場所に避難できない
  • 消火・救助:緊急車両が通れない
  • 二次災害:余震による倒壊に巻き込まれる
  • 物資配達:物資が届かない

東日本大震災における物資配達

緊急救援物資の輸送経路は以下の3つに分けられます。[2]

  1. 域間幹線輸送を担う経路:被災地外から被災地内の県指定の集積場所まで
  2. 域内準幹線輸送:被災地内の県指定の集積場所から、市町村の集積場所まで
  3. 被災地への配送:市町村の集積場所から被災地まで

阪神淡路大震災の際にも避難者への物資の輸送は大変であり、当時はリュックに商品を詰めて運んだり50ccのオートバイで運んだりしていました。

市町村の集積場所から避難所などへの配送(上記3番目)が最も困難で、最後まで残る問題とされています。[2]

発災時に危険な密集市街地

地震時等に著しく危険な密集市街地

以下は、「延焼危険性又は避難困難性が高く、地震時等において最低限の安全性を確保することが困難である、著しく危険な密集市街地」として国土交通省が平成24年度に公表した情報です。[3]

大阪府が全体の約4割を占めています。

面積 割合
大阪府 2,248ha 39%
東京都 1,683ha 29%
神奈川県 690ha 12%
124ha 20%
合計 5,745ha 100%

 

大阪府内の「地震時等に著しく危険な密集市街地」区域は以下のとおりです。[3]

寝屋川市内の区域名 面積
香里地区 101ha
池田・大利地区 66ha
萱島東地区 49ha
合計 216ha

大阪府の「地震時等に著しく危険な密集市街地」の区域図[4]

大阪府では平成26年3月に策定した「大阪府密集市街地整備方針」(以下、本方針)にもとづき、令和2年度末までに「地震時等に著しく危険な密集市街地」を解消することを目標に、市や(公財)大阪府都市整備推進センター等と連携して密集市街地対策を進めてきました。

平成30年3月および令和3年3月には本方針を改定し、解消に向けた事業のスピードアップを図っており、まちの安全性は着実に向上しています。[7]

災害時のロジスティクス

地震直後に「車が通れた道」がわかる仕組み

大規模な災害後に深刻な問題となるのが物資の調達です。水や食料、日用品だけでなく医薬品も含めた救援物資を、必要な場所へ必要な分を迅速・スムーズに届けること(ロジスティクス)は生命線ともいえます。

東日本大震災での避難所までの配送について、以下のように報告されています。[2]

市町村の集積場所から各避難場所までの配送についても、地方自治体の対応には限界があり、物流事業者がトラックで輸送する体制に切り替えた。

場所によっては、道路の状況が悪く(陥没、破損、狭幅員など)、大型トラックが全く通行できない場所もかなりある。

<中略>

GPS を搭載した車が走れば自動的に情報がアップされ、そこが通れるということがわかる仕組みは有用であった。

しかし、この場合、備蓄拠点、避難所の位置情報も共通の電子地図で確認できる環境を作るとともに、さらに携帯電話でも見られる地図、情報入力できる地図にしていく必要があるだろう。

通行実績情報マップからの学び

上述の『GPS を搭載した車が走れば自動的に情報がアップされ、そこが通れるということがわかる仕組み』は通行実績情報マップといわれるもので、我々はこのマップから以下のような学びを得ました。

Before

これまで道路閉塞の情報をまとめた地図は、発災後、実際に道路閉塞が生じた道路を集計しプロットして作成されたものでした。

これらは道路閉塞の発生箇所は把握できますが、該当していない箇所は、発災時に実際に通行できたかどうかわかりませんでした。

After

安全で効率的な通行に着目すると、以下が重要であることがわかりました。

  • 平常時:発災後に「通れそうな道」を考えておく
  • 発災後:「通れた道」情報を地域に詳しい住民が集約する

道路閉塞への対策

こういった状況を受け、摂南大学 住環境デザイン学科 空間情報デザイン研究室では、大阪で大地震が起きたら甚大な被害が生じるのではないか、なにか事前にできることはないかという思いから、道路閉塞をテーマに取り上げ、事前対策に向けた取り組みを行いました。

地域住民とともに行う「地震時避難地図づくり」

具体的な活動として、地域住民を対象とした「地震時避難地図づくり」(ワークショップ)を企画・開催してきました。[5]

  • 2015年度 門真市 五月田小学校区
  • 2016年度 寝屋川市 清水町[池田・大利地区]
  • 2017年度 寝屋川市 萱島東[萱島東地区]
  • 2018年度 寝屋川市 寿町[香里地区]
  • 2019年度 寝屋川市 大利町[池田・大利地区]

地震時避難地図とは

地震時避難地図とは、大地震発生後の通行可否を予想し、地域内の道路を色分けした地図のことをいいます。

発災時に通れる/通れないの可能性が可視化され、住民どうしで情報共有できます。

ワークショップの目的

  • 減災の視点から「いつもの道」を見直す
  • より安全性の高い避難路を自身で把握する
  • 発災後に通れる道を増やすため、ハード面・ソフト面の課題を共有して対策につなげる

地震時避難地図づくりの内容

  1. 通行可否予測
    大地震発生を想像して人の通行可否を予測して道路を色分けする。
    ⇒まちあるき前:道路幅は意識するが、沿道の状況(建物や塀やオープンスペースなど)はあまり意識していなかった。
  2. まちあるき
    避難に役立つもの・妨げになるものをチェックして地図に記入する。
    ⇒まちあるき後:道路幅員だけでなく、沿道状況を意識するようになった。
  3. まとめ
    住民が安全に避難できるまちを目指して個人や地域ができる取り組みを共有する
    ⇒新たな視点でまちあるきをしたことで、普段見逃している危険性を意識するようになった。

課題

まちあるきワークショップの結果から、同じ道路を歩いても人によって通行可否予測の色分けが異なる、あるいは「通れる」と予測して青色に塗られた道路にも「通れなくなりそうな道」が含まれていることがわかりました。

これにより、人の感覚による予測だけでなく、客観的・相対的な手法で通行可否の可能性を示す必要があると考え、GIS(地理情報システム)を活用したシミュレーションを行い比較検証しました。

GISを使ったシミュレーション

GISソフト「SIS」とVB.NETを使って、通行の可能性を客観的・相対的に示すシミュレーションを行いました。[6]

道路閉塞予測に関する先行研究

道路閉塞予測に関する先行研究[8][9]
「車の通行」を想定 ⇒ 幅の狭い道路の大半は「閉塞」する結果

先行研究の結果、密集市街地では大半の道路が「閉塞」と判定されました。

本研究では「人の通行」 に適したシミュレーション手法を開発し、徒歩避難を想定して人が通行できる空間を可視化しました。

人を対象とした道路閉塞シミュレーション

車の通行を想定した先行研究[9] を参考にして、人の通行を想定した1mメッシュを使った道路閉塞シミュレーションを実施しました。

閉塞確率(P)の算出

  1. 震度の想定
  2. 建物倒壊率(K)の設定
  3. 瓦礫流出モデルの設定
  4. 閉塞判定基準の設定
  5. 閉塞確率(P)の算出

瓦礫流出範囲との位置に基づいて各メッシュの閉塞確率(P)を算出

手法の違いによる結果の比較

人の通行を想定し、道路閉塞箇所を詳細に可視化することができました。

まとめ

住民による予測の問題点

GISを使ってデータにもとづく客観的な予測シミュレーションを行った結果、人による予測には以下のような問題があることがわかりました。

  • 閉塞危険性を理解している道 ≠ 通れない道
    閉塞可能性をわかったうえで「通るしかない道」
    ⇒地域にとって大切な道は、重要性を共有して安全性を高めることが必要である。
  • 道路幅員 > 道路閉塞要素
    「広い」と思っている道(幅員4~6m)は沿道の危険性を見逃してしまう。
    ⇒客観的な視点から、正しいスケールで予測できる工夫が重要である。
  • 建物の築年数(築40年以上)を見分けるのは困難
    1981年以前に建てられた建物を見分けるのは難しい。
    ⇒具体的な特徴を伝えるなどの工夫が重要である。

ワークショップを発災後につなぐ

平常時に実施したワークショップが発災時に少しでも役立つよう、ワークショップの成果とGISシミュレーションの結果を比較検証し、最終結果を地図にまとめて地域住民(自治会全戸)と自治会(A0版)に配布しました。

各家庭用地図には避難に関する情報を、自治会用地図には発災後、実際に「通れた道」情報を書き込めるようになっています。

当研究室は、地域住民と連携したこれまでの活動をさらに発展させ、専門家ではない教育者や子供でも防災教育で活用しやすいARアプリの開発や実証実験も行っています。この取り組みについては、また別の機会にご紹介できればと思います。

【参考文献】
[1] 2014~2018年度:内閣府 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「被災者のヘルスリテラシー向上を目的とした地域の医療防災ネットワークの構築 ―避難所・病院・自治体・薬局をつなぐ新たな試みー」
[2] 日本物流学会:http://www.logistics-society.jp/saigai1.pdf(2021.11.07参照)
[3] 国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000102.html(2021.11.07参照)
[4] 国土交通省『大阪府の「地震時等に著しく危険な密集市街地」の区域図 』を元に一部加工、https://www.mlit.go.jp/common/000226571.pdf(2021.11.07参照)
[5] 2015年度五月田校区での実施には、あいまち門真ステーションと摂南大学建築防災研究室の皆様にご協力頂きました。2016年度以降のワークショップは、大阪府、大阪府枚方土木事務所、寝屋川市、寝屋川市消防団、各自治会との共催です。
[6] 情報提供:寝屋川市
[7] 大阪府公式HP:https://www.pref.osaka.lg.jp/jumachi/misshu/misshu_hoshin.html(2021.11.07参照)
[8] 石橋ら:大規模震災時における指定避難所への緊急物資輸送に関する基礎的研究 -緊急輸送道路と指定避難所・小学校校区の空間的相互関係- ,日本建築学会大会学術講演概論集,2010年9月,pp.787-788
[9] 熊谷樹一郎ら:災害時の道路閉塞に着目した避難経路の変化について,平成23年度土木学会関西支部年次学術講演会講演概要集,2011,Ⅳ-10

※本記事は摂南大学 住環境デザイン学科 空間情報デザイン研究室 榊愛様のご承諾を得て、空間情報クラブ編集部にて記事化したものです。

 

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