人と星とともにある数学 第23回

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2017年12月26日


地図と数学 三角測量

三角測量から三辺測量そしてGPS測量へ

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三角関数が地球上と天球上における測量のために作られた言葉であることを、これまでの連載で取り上げてきました。基線の距離だけを計測すれば、その後は角度だけを繰り返し測ることで到底計測できないエリアの正確な地図を作り上げる方法こそ「三角測量」です。「角度」を測量し、測量不可能な遠く離れた2地点の距離を数値としてはじき出してくれる道具が三角関数だということです。

そこにあるのは、できるだけ大きな領域かつ正確な地図を作りたいという人類の願いです。二千年続いた「三角測量」は、電磁波測距儀や光波測距儀による「三辺測量」にとって代わられ、地図の精度は大きく向上しました。そして現在、「GPS測量」が誕生し、数cmの精度で地上の位置を知ることができるようになり、「G空間(Geospatial空間)」と呼ばれる紙の地図を超える新しい情報が誕生しました。Google Earthがその例です。誰もが地球上の正確な位置を瞬時に知ることが可能になりました。

ここでその詳細を語るのは私の役目ではありません。なぜ二千年続いた三角測量が終わりGPS測量が実現したのか、測量の発展の流れを俯瞰することで、私の中に見えてくる風景をスケッチしてみようと思います。

三角関数が導いたもの

そもそも三角関数は関数などではありませんでした。古代ギリシャと古代インドで誕生したのは三角比であり、その数表です。16世紀になっても三角関数はまだ三角比のままでした。ただ三角比の数表の精度は格段に上がり、10桁のものも珍しくないほどに発達を遂げていました。そのせいで三角比の計算量が処理しきれないほどに膨れあがり、そのことがネイピアによる対数誕生のきっかけになりました。ネイピアが作り出したのも対数関数ではなく、対数のアイディアと数表でした。

ネイピアの対数の神髄がようやく解明されたのは、ネイピアが亡くなって130年後のことです。天才オイラーの手によって、ネイピアの対数の中からネイピア数eが発掘されました。ネイピア数eとともに微分積分が本格的に発展していくことになり、オイラーは関数概念の完成へ向けた思いを強くしていくことになりました。しかしそれでもまだ関数概念の完成には到りませんでした。オイラーに先立つニュートンとライプニッツは、微分法と積分法というそれぞれに発達してきた理論が実は表裏一体であることを見抜き、「微分積分学」を作り上げました。微分積分学の創始者であるこの2人でさえ、関数概念がほとんどない中で微分と積分を行っていました。

19世紀になると、微分積分学は一段と発展し「すべての関数は三角関数の無限級数で表すことができる」というフーリエの革命に到りました。三角関数はすべての関数の「基底」になるという驚異の大発見です。その後に続くディリクレが、「全く任意の関数」がフーリエ級数に展開できることを厳密に証明し、今日の大学の数学で教えられる次のような関数の定義が誕生したのです。

「XとYを空でない集合とせよ。任意のx∈Xに対してただひとつのy∈Yが対応しているとき、関数f:X→Yが定まるといい、y=f(x)と記す」

こうして、三角比は二千年近くかかり三角関数に変身しました。さて、この変身の原動力こそ「抽象化」です。具体的な三角比はそれなりに十分に役立つ道具でした。しかし、三角関数はその比較にならないほど強力な道具です。数学の二千年の歩みとは「関数」という抽象概念完成への歩みだったということです。

抽象概念「関数」「集合」「論理」が生み出した「コンピューター」

そもそも人類が「数」という抽象概念を発見するのに、数万年という途方もないオーダーの年月がかかっています。「数」と「数」の橋渡しをするさらなる抽象概念が「関数」です。見えない「数」を橋渡しする「関数」はさらに深遠なる見えないものだったのです。

19世紀、「関数」の概念の成熟は、「集合」と「論理」という次なる新しい概念誕生の引き金になりました。微分積分学の根底にあるのが「無限」の考え方ですが、カントールは無限には大小2つの大きさがあることを集合論を用いて証明しました。そして、1844年に29歳の青年が発表した論文によって人類の未来は決定付けられることになりました。ブールによるブール代数の発見と記号論理学の誕生です。ここにきて数学は計算とは何かということを考える段階に登り詰め、100年後の20世紀、ブールの理論が実装されたマシン「コンピューター」が出現することになりました。二千年、三角比という具体的な計算を続けてきた人類は、ついにその源流にある「関数」「集合」「論理」という抽象概念にたどり着きました。そしてそれら抽象概念が作り上げた最強の道具こそ「コンピューター」です。

実は、古代ギリシャから営々と続く数学者の夢こそ「計算機」の実現でした。1901年にアンティキティラの沈没船から、歯車らしきものがさび付いた機械「アンティキティラ島の機械」が発見されました。根気強い研究によって、この機械が古代ギリシャ時代に作られた最古のアナログコンピューターであることがわかりました。アルキメデス、ヒッパルコスといった数学者兼天文学者が、太陽、月の天体位置を計算するための計算機として設計したと考えられています。ネイピア、ライプニッツ、バベッジ、チューリング、ノイマン、シャノンといった歴代の数学者たちは、実際に計算機を製作してきました。

すべては「地球を測る」に始まり「地球を測る」に終わる

「地球を測る(Geometry)」ためには膨大な計算が必要であることを身をもってわかっていたのが、天文学者であり数学者です。人類がずっと追いかけてきたこと、それは「自分たちがいったいどこにいるのか」です。

「地図を作ること(Geography)」こそ、時空を超えた人類共通の夢であり願いです。
すべてはここから始まりました。かくして地図と数学と計算機の夢は絡み合いながら発展し、今日、究極の地図を手に入れることになりました。何も描かれていない地上に緯線・経線を描き、地図を作るためにすべての数学が投入されてきました。同時に地図作成の中から新しい数学が作られました。

「地球を測る」ための三角比の計算、それは二千年近く続き、そのおかげで抽象概念「関数」を手にし、長年の夢「コンピューター」が実現し、コンピューターのおかげでGPS測量が誕生しました。はたして新次元の「地球を測る」ことが実現しました。

見える地図は、見えない数学とともにある。

「最大のリアリストは最大のロマンチストであり、最大のロマンチストとは最大のリアリストである」

地図を作る人こそロマンチストでありリアリストであると私は思います。
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執筆者ご紹介  桜井進(さくらいすすむ)様
1968年山形県生まれ。
サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役。
(略歴)
東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。東京理科大学大学院、日本大学芸術学部非常勤講師。
理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。
2000年、日本初のサイエンスナビゲーターとして数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。
東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。