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数式鑑賞劇場|第4回 共振周波数の公式 ~ラプラス変換の魔術~

共振周波数fの公式鑑賞も今回で4回目。原風景を求める計算の旅はまだまだ続くのですが、切りがないのでここでいったん締めとします。

前回、ばねの単振動とLC共振回路を記述する微分方程式は同じ2階線形微分方程式であること、その解から共振周波数fの公式が現れる風景を眺めました。そこで省略した微分方程式の解法を取り上げます。

2階線形微分方程式の解が三角関数で表されることをザックリ理解する

三角関数sinとcosの微分は次のように三角関数sinとcosです。

cos t(tで微分すると)-sin t(tで微分すると)-cos t

そこで、2階線形微分方程式の解がx=cos kt(kは定数)だとします。xをtで微分すると、定数倍のsin kt、さらにこれをtで微分すると、定数倍のcos ktすなわち定数倍のxとなります。

つまり、「xの2階微分=定数倍のx」すなわち「xの2階微分+定数倍のx=0」となり、これは与えられた2階線形微分方程式に他なりません。2階線形微分方程式の解はx=cos kt(kは定数)の形をしているということです。

ラプラス変換による2階線形微分方程式の解法

2017年の連載「ラプラス変換|微分方程式・フーリエ変換との関係」にラプラス変換およびオリバー・ヘヴィサイドについて紹介しました。ぜひ参照してください。

そのときのラプラス変換の解説図が詰め込みすぎだったので、見やすく作り直しました。

まず2階線形微分方程式をラプラス変換してX(s)について解きます。2階線形微分方程式を構成するパーツごと対応表をみて置き換えます。その中に初期条件を使うものがあるのでその部分を代入します。

するとX(s)についての1次方程式が出来上がります。それを解けばX(s)が得られます。

 

あとはX(s)を逆ラプラス変換することで微分方程式の解が得られて完了。

ラプラス変換および逆ラプラス変換は対応表に従って機械的に当てはめるだけ、そしてラプラス変換された方程式が1次方程式なのでその解法は至って簡単。面倒な微分方程式が簡単に解けてしまう様子は魔術のようです。

最後に、変数aとω(角周波数)と√(1/LC)の関係から共振周波数fの公式が現れます。

共振周波数fの公式がおしえてくれた数学のリアリティ

10歳のラジオの製作で出会った共振周波数fの公式。実際にラジオを手作りして、ざっくりではあるが公式の計算通りにチューニングができていることを確認できたときには驚きの一言。圧倒的な数学のリアリティを実感した瞬間です。

なぜ公式に円周率πがあるのか? そもそもなぜ公式はこの形になるのか? 解決には6年かかりました。ちょうど高校数学で知る数学──三角関数と微分積分とエレクトロニクスの見事なマッチングに驚かされました。

後にこの解決は“最初の”解決だったことになります。数学とエレクトロニクスの相性の良さは想像以上でした。交流回路と虚数の関係がそうです。

そして、物理学の単振動とLC共振回路が同じ2階線形微分方程式であること。エレクトロニクスは電流や磁気といった物理学を基本としているので微分方程式により現象が記述されるのは当然のことですが、それはそれぞれをそれなりに学んだ後になってわかることです。

微分方程式と物理学、微分方程式とエレクトロニクスの関係は微妙に異なります。物理学にとって微分方程式の理解はクリティカルです。エレクトロニクスでは数学(公式と言い換えてもいい)を使いながら付き合っていくことができます。

エレクトロニクスの学びにとって数学をマスターすることは必ずしも必要ないということです。したがって、エレクトロニクスを目指す人にとって数学との付き合い方は人それぞれ。

筆者の場合、エレクトロニクスを通して数学にも興味を持つようになったということです。それは数学を知らない10代前半の筆者が数学を知る大きな機会となりました。

共振周波数fの公式を計算する関数電卓との出会い

共振周波数をはじめ電子回路の計算をするために購入した関数電卓との出会いも数学に興味を持つ大きなきっかけでした。それが関数電卓SHARP EL-514です。小学6年生で購入したそれは45年経った今でも現役で使い続けています。

本連載はその関数電卓との出会いの物語から始まりました。「三角関数・三角比との出会い|関数電卓から始まった数学の旅」をぜひご覧ください。

関数電卓を使い始めてすぐに三角関数の計算アルゴリズムに興味を持ち始めました。共振周波数fの公式と直接は関係ないので共振周波数fの公式のシリーズは今回で終わりにしますが、関数電卓の三角関数計算アルゴリズムも実に長い時間をかけた謎解きの計算の旅になったのです。

共振周波数fの公式を巡る計算の旅は続く

共振周波数fの公式の原風景を求める計算の旅はまだ続きます。LC共振回路のL(ヘンリー)のヘンリーはコイルのインダクタンスの単位です。このLにフォーカスするとそこには驚きの公式が待ち受けていたのです。関数電卓の三角関数計算アルゴリズムとあわせていずれ機会を改めて紹介したいと思います。

これにて、数式鑑賞劇場、その1「共振周波数の公式」全4回を終わりにします。次回数式鑑賞劇場はその2「アインシュタイン方程式」へと進みます。

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桜井進(さくらいすすむ)様

1968年山形県生まれ。 サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。 (略歴) 東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。 理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。 公益財団法人 中央教育研究所 理事。 国土地理院研究評価委員会委員。 2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。 全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。 著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。 サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

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