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経済学者アルフレッド・マーシャル
アルフレッド・マーシャル(1842-1924)はイギリスの経済学者です。ロンドンに生まれケンブリッジ大学で数学を専攻し、1865年第2位の成績で卒業し同カレッジのフェローに選ばれました。
1885年ケンブリッジ大学の経済学教授になり、1890年王立経済学会の設立に尽力しました。ケインズやピグーといった著名な経済学者を育て、ケンブリッジ学派を形成し、同大学の経済学科の独立にも尽力しました。
主著『経済学原理』(1890)により経済学者として不動の地位を確立しました。この本は長い間、イギリスで最もよく使われる経済学の教科書となりました。あわせて、『産業貿易論』(1919)、『貨幣、信用及び商業』(1923)がマーシャルの三部作です。
マーシャルの『経済学原理』は、スミスの『国富論』、リカードの『経済学および課税の原理』、マルクスの『資本論』、ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』とともに経済学の五大古典の一つとなっています。
新古典派経済学
18世紀後半から100年続いた、アダム・スミス、デヴィッド・リカード、ジョン・スチュアート・ミルらのイギリス古典派経済学の後に誕生したのが、新古典派経済学、マルクス経済学、そしてケインズ経済学です。
アルフレッド・マーシャルを中心とするアーサー・セシル・ピグー、デニス・ロバートソンらのケンブリッジ学派の経済学が新古典派経済学です。
新古典派経済学には次のような特徴があります。
- モノ・サービスの価値・価格が、人間の満足度(効用)で決まるとする効用価値説
- モノ・サービスの価値・価格が1単位増えるたびに満足度(効用)の増え方が減るとする限界効用(限界効用逓減の法則)
- 数学を経済学に本格的に導入
- 市場の均衡条件を分析
- 消費者と生産者は、合理的に行動し、満足度や利潤を最大化するように行動する
かくして、市場経済は放っておけば安定する、というミクロ経済学が誕生しました。
貨幣数量説
貨幣数量説は経済学の基本的理論で「物価水準は貨幣供給量(流通量)に比例する」ことを主張します。
貨幣数量説の歴史は14世紀エジプトまで遡ります。当時のエジプトでは、金・銀不足による銅貨のインフレが経済危機を招いていました。歴史家マクリージィーは銅貨供給と物価の相関に注目し、銅貨ではなく金・銀を取引の中心にした貨幣政策を提言しました。
20世紀初頭までは多くの中央銀行で貨幣数量説に基づいた金融政策が展開されていました。物価の安定には貨幣流通量の監視・管理が重要であるとし、中央政府・通貨当局による通貨管理政策の重要な理論背景となっています。
ケンブリッジ方程式
貨幣数量説「物価水準は貨幣供給量(流通量)に比例する」は「貨幣供給量(流通量)は物価水準に比例する」と言い換えられます。ケンブリッジ方程式は「貨幣供給量(流通量)は物価水準に比例する」を導く理論です。
アルフレッド・マーシャルが貨幣供給量と物価水準の相関関係に着目し、1871年頃に着想を得たのがケンブリッジ方程式です。
ケンブリッジ方程式とは、
「貨幣供給量(マネーサプライ)が名目GDP(国内総生産)に比例」…☆
して決定されることを表します。
貨幣供給量(マネーサプライ)をM、物価水準をP、実質GDPをY、比例定数をkとすれば☆は
貨幣供給量=k×名目GDP …★
と表されます。ここで、名目GDPは
名目GDP=物価水準×実質GDP
と表されるので
貨幣供給量=k×物価水準×実質GDP
すなわち、
M=kPY
が得られます。これが「ケンブリッジ方程式」です。
ケンブリッジ方程式の右辺は貨幣という資産に対する「貨幣需要量」を表し、左辺は「貨幣供給量」を表しているので、
貨幣供給量=貨幣需要量
という姿をしています。このような需要量と供給量が等しい状態を表す式を需給均衡式といいます。
マーシャルのk
ケンブリッジ方程式において比例定数としたkは「マーシャルのk」と呼ばれる正の係数です。★より
k=貨幣供給量/名目GDP
と表されるので、kは名目GDPに対する貨幣供給量の割合とみることができます。
さらに、
k=貨幣流通速度の逆数
とも説明されますが、わかりやすいのは、
k=貨幣保管比率
すなわち所得の一部を貨幣として保有する傾向を表すというものです。
ケンブリッジ方程式を微分してみると・・・
中央銀行はケンブリッジ方程式をどのように使っているのか。当然、ケンブリッジ方程式をそのまま──「物価水準PはマネーサプライMに比例する」──解釈することが基本です。
デフレとは物価水準Pの下落のことですが、マネーサプライMの増加が(GDP)Yの増加に追いつかない、すなわち貨幣が十分に供給されないことからデフレは起きます。理論上デフレを止めるにはマネーサプライMを十分に増やせばいいことになります。
さらに、ケンブリッジ方程式を使う──ケンブリッジ方程式を微分する──ことで得られる結論があります。その詳細な計算過程を次に紹介しておきます。計算が得意な方はチャレンジしてみてください。レベルは高校の微分です。
はたして、「インフレ率を0%にしたいならば、貨幣供給量増加率=GDP成長率」となるように貨幣供給量を調整すればいいという結論が導かれます。