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エレクトロニクスと数学の見事なマッチング
10歳で出会った共振周波数の公式は多くのなぜを筆者に与えてくれました。16歳、三角関数と微分積分による公式の導出を知りました(前回記事)。電気回路の基本法則であるオームの法則とキルヒホッフの法則が、一本の微分方程式に変身する様子はまさにマジックを見ているようでした。エレクトロニクスと数学の見事なマッチング──交流が三角関数、コイルが微分、コンデンサーが積分──の風景には只々驚かされるばかり。
10歳の疑問「なぜラジオの公式にπがあるのか」。謎解きのヒントは電波と三角関数の関係にありました。電波は同調回路(LC共振回路)に取り込まれると交流電流が発生、交流は波、波は三角関数sin、sinの定義は円、円といえば円周率π。
これで一件落着となると思いきや、公式の原風景を求める新たな計算の旅の始まりになるとは…。
虚数マジック
代数に登場した虚数が、エレクトロニクスにこれほど役に立つとは! 微分・積分とはまったく異なるアプローチです。謎解きのポイントは、オームの法則と合成抵抗の公式。中学理科の公式(オームの法則と直列回路の合成抵抗)と虚数の簡単な計算さえ出来れば理解できる考え方です。
交流のLC直列回路の合成“抵抗”Zを求めるためにいちいち微分・積分を使うのは手間がかかります。直流の直列回路の合成抵抗のようにシンプルに求めることができれば便利です。それを可能にする数学が虚数です。
LとCの抵抗に相当するもの(リアクタンス)に虚数を組み合わせればいいのです(次の図参照)。虚数を使えば交流回路でも直流回路と同じように合成抵抗の計算ができます。まさに虚数マジック。
LC直列回路の合成抵抗(リアクタンス)が0になるとき、回路は共振します。すると、条件「リアクタンス=0」から共振周波数が得られます。
リアクタンス|交流回路の抵抗
抵抗は英語でレジスタンス(Resistance)なので頭文字Rが使われます。電池のような直流電源による直流回路では抵抗R(Ω)に流れる電流I(A)と電圧V(V)の間にオームの法則V=IRが成り立ちます。
家庭のコンセント100Vのような交流電源による交流回路でも直流回路と同じように抵抗に対してオームの法則が成り立ちます。交流回路におけるコイルL(H:ヘンリー)とコンデンサーC(F:ファラド)も抵抗の働きをします。これがリアクタンスです。
コイルのリアクタンスはωL、コンデンサーのリアクタンスは1/ωCで表されます。ここでω(オメガ)とは、交流の角周波数、単位は(rad/s)。周波数はよく知られています。100V交流の50Hz(東日本)、60Hz(西日本)やラジオの周波数1242kHzです。交流は電気の流れる方向が周期的に変わります。1秒間に何回変わるか、その回数が周波数(振動数)です。
周期運動は回転運動に置き換えて捉えることができます。1秒間にどれだけの角度(rad)回転するかが角速度と呼ばれます。したがって角速度の単位は(rad/s)です。現象の違いで角速度は、角振動数、角周波数と呼ばれます。角周波数ωは周波数(振動数)fを用いて、ω=2πfと表されます。
電気回路では虚数はj
交流回路は流れる電流が交流という波であることで直流回路のようにシンプルに表現することができなくなります。抵抗、コイル、コンデンサーに流れる電流は位相がずれます。位相とは波の進み具合の違いのことです。
コイルに流れる電流は抵抗に流れる電流より90°すなわちπ/2(rad)だけ遅れます。コンデンサーの場合には逆に90°すなわちπ/2(rad)だけ進みます。虚数を使うことでこの位相のずれを表すことができます。数学の複素平面の考え方です。本連載「虚数とは」が役に立ちます。
電気回路ではIは電流(Intensity:強さ)に用いられます。そこで虚数には代わりにjが用いられます。コイルのリアクタンスωL、コンデンサーのリアクタンス1/ωCに対して虚数jを付加したjωL、1/jωCを用いることで、LCR交流回路の合成抵抗が直流回路のように計算できます。
インピーダンス|交流回路の合成抵抗
LCR交流回路の合成抵抗はインピーダンスと呼ばれます。コイルとコンデンサーのリアクタンスに虚数が含まれることから抵抗R(実数)との和は、実数+虚数となります。すなわち、インピーダンスの正体は複素数です。
インピーダンスは複素インピーダンスとも呼ばれます。複素インピーダンスZの実数部分(実部)が抵抗R、虚数部分(虚部)がLとCのリアクタンスという関係になります。リアクタンスやインピーダンスさらには複素インピーダンスと、登場した用語の多さが交流回路の面倒さを物語ります。
共振周波数の公式を探る計算の旅はまだまだ続きます。次回は共振について見ていきます。