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数式鑑賞劇場|第1回 共振周波数の公式


数式を鑑賞する

教科書では数式は計算する対象です。「等式を変形する」「多項式を展開・因数分解する」「方程式を解く」「恒等式を証明する」「公式を導く」といったように数式といっても種類があり、それぞれに特有の計算が付随します。

式をハンドリングすることは技の習得、すなわち技能です。技能には修練が必要です。音楽とスポーツも同じです。技のかたまりが音楽でありスポーツです。技の習得には長年のトレーニングが必要です。はたして、そうして出来上がった技の披露を私たちは鑑賞して楽しみます。

楽器が演奏できなくともコンサートを楽しむことができ、野球をしたことがない人でも試合観戦を楽しむことができます。ならば、数学も同じようにできるはず。それが「数式を鑑賞する」ということです。

数学だけではなく、様々な学問においても数式は使われます。筆者がこれまでに出会ってきた数式の中から選りすぐりのものを紹介してみようと思います。エレクトロニクス、物理学、経済学、情報科学、コンピューターサイエンス、そして数学。筆者にとって、数式には思い出が詰まっています。

そもそも数式に驚かされることは、膨大な思考がたった一行の数式に結実することです。一枚の絵画の中に物語が隠されているように、一行の数式にも秘められたドラマがあります。完成した数式を出発点として、筆者自身の思い出を巡る旅と数式自体の源流に遡る旅に出かけます。

共振周波数の公式

筆者自身、初めての数式との出会いが共振周波数の公式です。10歳当時、ラジオを聴くのが好きだったことが高じてラジオ製作に熱中していきました。ラジオのチューニングの仕組みはLC共振回路で説明されます。Lはコイルのインダクタンスで単位はH(ヘンリー)、Cはコンデンサーの静電容量で単位はF(ファラド)を表します。

するとその回路に流れる交流電流の周波数がLとCで決まります。それが共振周波数の公式です。この初出を探してみたもののわかりませんでした。そこで、この公式を使ったであろうエンジニアを代表としました。ニコラ・テスラ(1865-1943)は交流システム、テスラコイル、誘導モーターなどを発明した電気エンジニアです。

例えば、L=300(μH)、C=239(pF)であれば、共振周波数はf=594(kHz)と計算されます。これはAM、NHK第一放送の周波数です。ラジオのチューニングダイアルは可変コンデンサー(バリコン)の容量を変化させることで受信周波数を選ぶ仕組みとなっています。

なぜ円周率πがあるのか

公式を見た時の筆者の第一印象は「なぜπがあるのか」という疑問でした。ここから筆者の公式探究の旅が始まることになります。現在まで続く長いものになろうとは夢にも思いませんでした。

連載では順を追って紹介していきます。始めての証明が高校物理の中で与えられました。LC共振回路に流れる電流、電源の電圧を変数とすれば1つの微分方程式を満たします。これを解くことで共振周波数の公式が現れます。

交流の電流、電圧は三角関数、コイルは微分、コンデンサーは積分という具合に電気の世界が見事に数学に翻訳され、微分方程式に結実する風景は見事という他ありません。なるほど、ラジオの電波は波、波は三角関数、三角関数は円、だから円周率πと繋がっていたのです。

ここで一件落着となりませんでした。微分方程式を経由せずに共振周波数の公式を導出する驚きの考え方がありました。

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桜井進(さくらいすすむ)様

1968年山形県生まれ。 サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。 (略歴) 東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。 理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。 公益財団法人 中央教育研究所 理事。 国土地理院研究評価委員会委員。 2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。 全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。 著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。 サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

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