DX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタル技術を活用して業務改革を図る取り組みである。
本コラムでは行政や観光をはじめ、消防、防災、インフラ、建設・製造業などさまざまな分野におけるDXの取組事例や課題を紹介してきた。
今回は森林・林業分野のDXについて背景や取り組み事例、課題を紹介する。
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目次
背景
水源涵養や土壌保全、土砂災害防止、CO2吸収といったさまざまな役割を持つ森林。そのような森林が持つ機能を適切に管理し、持続的な環境保全と木材生産を実現するために欠かせないのが「林業」だ。
日本では国土面積の3分の2を森林が占めており、そのうち約4割が人工林である。戦後植林した人工林のうち半分が伐採適齢期を迎えているが、近年適齢期を過ぎても伐採されず放置林となるケースが増えており、老木の増加が課題となっている。
一方、少子高齢化のため林業従事者の減少が続いており、昨今の円安影響による輸入木材高騰で国産木材の需要が高まっているにもかかわらず、深刻な人手不足に悩まされているのが現状だ。
このような状況の中、森林・林業分野においてデジタルトランスフォーメーション(DX)を図る「森林・林業DX」が注目されている。
森林・林業DXとは、デジタル技術を活用して森林管理や林業の作業効率向上を図る取り組みであり、地理空間情報も林業DXを実現する上で重要な要素の一つといえる。
森林情報の標準化・クラウド化を推進
林野庁は森林・林業DXの取り組みの一環として、森林管理の基礎となる資源情報のデジタル化を推進している。
森林を適切に管理するには、森林計画制度の運用、森林整備の促進、保安林の管理などさまざまな業務を行う必要がある。そのため各都道府県では、森林簿や森林基本図といった基礎情報をデジタル化して一元管理している。
このようなデータ整備にあたっては、標準化とクラウド化を進めることで、自治体間の連携や林業事業者へのデータ提供を効率的に行えるようにしておくことが必要となる。
そのため林野庁ではベースとなる「標準仕様書」を作成し、標準仕様書に基づく「森林クラウド」の導入を促進している。
森林クラウドとは、自治体や事業者が保有する森林に関するさまざまな情報をクラウド上のサーバーに集約・共有するためのシステムのことで、これを活用して申請業務のデジタル化も目指している。
林野庁「森林資源情報のデジタル化/スマート林業の推進」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/smartforest/smart_forestry.html
ドローンによる森林のレーザー計測
森林情報をデジタル化する上で、人手不足対策に有効とされているのがレーザー計測の導入だ。
森林の資源量は林木の成長に伴って変化し続け、伐採や造林、林地転用が行われるたびに大きく変化する。
そのため、林野庁では森林の動向変化を全国統一的な調査手法で把握するとともに、都道府県では、日々の業務の中で得た情報を森林簿や森林基本図に反映している。
従来は木の種類や本数、高さの情報は目視で調査されており、多大な人的リソースや時間を要していたが、レーザー計測を導入すれば大幅な省力化・低コスト化が図れる。
レーザー計測は地上計測とドローン計測を組み合わせることで樹高や地形を詳細に把握でき、調査結果は森林管理や林業経営ほかさまざまな用途に活用できる。
林野庁では林業関係者によるレーザー計測を支援しており、「森林資源データ解析・管理標準仕様書」を作成。これにより計測時点や計測者が異なるデータの統合を比較でき、森林・林業関連のアプリ開発も可能になる。
前述した森林クラウドにレーザー計測データを搭載し、森林簿に反映できるように森林クラウドの標準仕様書の見直しにも取り組んでいる。
全国12地域でスマート林業のモデル事業を実施
林野庁では、データや最新技術を活用した「スマート林業」も推進。林業の効率化や省力化を図るモデル事業を全国12地域で実践している。
各地域でテーマを設定して技術実証を行った上で、成果を全国に普及させていく方針だ。最新技術を取り入れたスマート機器の導入も支援している。
各地域で行われている事業は以下の通りである。
- 北海道
ICTハーベスタの最適採材技術の活用やSCMシステムの構築による需給円滑化や採算性の向上の検証 - 福島県
準天頂衛星を用いた境界情報の取得と森林クラウドへの取り込み・情報共有による測量の効率化の検証 - 埼玉県
ドローン・地上レーザー等を活用した資源量把握やWEB入札システムによる木材流通効率化の検証 - 東京都
航空レーザ計測データの活用による経済性ゾーニングやタブレットを活用した施業提案の効率化の検証 - 長野県
ドローンによる資源量把握や需給マッチングシステムによる木材流通効率化の検証 - 石川県
空中写真から作成した立体視画像での森林境界の推定、所有者の現地立会の省力化の検証 - 愛知県
航空レーザ計測データの活用による林道設計や木材需給情報システムによる木材流通効率化の検証 - 和歌山県
GNSSやAR技術を活用した架線系施業支援システムを構築した木材生産の効率化の検証 - 山口県
地上レーザ計測を活用した立木在庫の見える化や施業集約の効率化、省力化の検証 - 愛媛県
ICTを活用した原木市場の管理システムや製材所の受発注管理システムによる業務効率化の検証 - 熊本県
航空レーザ計測データの活用による森林経営計画作成の効率化や現地調査の省力化の検証 - 宮崎県
伐採箇所の位置情報等をGISと連携させ、木材の合法性を担保・補強するクラウドシステムの検証
出典:林野庁「スマート林業実践マニュアル(総集編)」https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/smartforest/attach/pdf/smart_forestry-1.pdf]
スマート林業
スマート林業とは、GISやAI、IoT、ロボットなど先端技術を活用して林業における業務効率化・省力化、安全性向上を図る施策を指す。
GISを活用すれば、森林基本図・計画図、森林簿などの基本情報をデジタル化することで、従来バラバラに管理されていた図面・帳簿を一元管理できるようになる。
自治体が保有する森林基本データと位置情報を連携させることで、森林状況をすばやく把握し、関連業務への対応も迅速になる。
さらにGIS、地理空間情報とAI技術を組み合わせれば、衛星写真から特定樹種や森林の変化量を自動抽出することもできる。
森林GISデータのオープンデータ化
2023年10月、林野庁は「高精度な森林資源情報等の公開について」として森林・地形に関する全7種類のデータを公開した。(今回のデータ公開の対象エリアは栃木県・高知県・兵庫県の3県)
このデータはG空間情報センターから自由にダウンロードして利用できる。
林野庁によるプレスリリース発表文はこちら(2023年10月4日付)
課題
森林・林業DXの主な課題としては以下が挙げられる。
- システムや機器の導入コストが高い
- DX化を図るための人材が不足している
森林情報の管理にはドローンやAI、衛星データなど多種多様な新技術が関係するため、技術知識を持つ人材の獲得・育成に取り組む必要がある。
また、森林管理や林業の分野では行政、民間企業、関連団体の連携も不可欠であり、複数組織間で連携しながらDXを進めていくことが重要である。
適切に管理されないまま放置林が増え続けると、木材の価値低下を招くだけでなく土砂災害の発生リスクも増大する。
将来的に持続可能な森林管理、環境保全や地域創生につなげていくためにも、森林・林業分野でも着実な変革が求められている。
GISやAI機械学習、XR技術を活用した業務DX化に関するご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
<参考>林野庁ウェブサイト