地図・地理 地理教育 導入事例

高校「地理総合」必修化に向けた地図・GIS活用の実践事例|品川女子学院

本記事は、空間情報シンポジウム2021に登壇された品川女子学院 河合豊明様の講演内容を、ご本人の承諾を得て書き起こし編集したものです。

学校現場でのGISを取り巻く環境

最初に、学校現場でのGIS(地理情報システム)を取り巻く環境、いま学校がGISに関してどんなことをやっているのかについて簡単に触れておきます。

中学校

中学校は今年度から学習指導要領が新しくなっています。

2020年までは「地域に関する情報の収集、処理にあたっては、コンピューターや情報通信ネットワークを積極的に活用するなどの工夫を」と書かれていました。

これは別に地図のことではなく、統計データを参照するとか、インターネットを使って調べ学習をしましょうと書かれていただけでした。

2021年からの新しい指導要領では、「人口の偏在に関わる人口動態を推測したりする際には、縮尺の大きな地図や統計その他の資料含む地理空間情報を適切に取り扱い、その活用の技能を高めるようにすること」とあるように、地理空間情報という言葉が出てきています

これにより、GISを使っていこうと思われている先生方が少しずつ増えてきているのが現在の中学校の現状です。

高等学校

高等学校は、2021年までは地理Aと地理Bの授業があり、地理Aについては「諸資料の地理情報化や地図化などの作業的、体験的な学習を」というふうに書かれていました。

ここでもGISという言葉ではなく、データを地図化しましょうという表現になっています。中高一貫校にいる立場としては、高等学校の方が中学校より遅れているのかもしれないなと思いました。

そして2022年から、地理総合と地理探究の授業が始まります。必修科目なので全国の高校生は全員地理総合の授業を受けることになります。

新指導要領には「地図や地理情報システムなどを用いて、調査や諸資料から地理に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる」と、地図や地理情報システムという言葉が書かれています。

ここで初めて「地理情報システム」という言葉が出てきたので、やっと我々の時代が来たとGISの活用に取り組んでおられる先生方が多いです。

しかし一方で、「や」と書かれているので地図を使えばいいんでしょう、とおっしゃる先生方がまだ大半だということも知っておいていただければと思います。

ただ「地図や地理情報システム」はあくまでも目標とする大きな言葉であり、その下には内容が表記されています。

ここでは「地図や統計などの地理情報の収集・分析には、地理情報システムや情報通信ネットワークなどの活用を工夫すること」とGISが明記されるようになりました。

実際今年5月頃から出ている新しい教科書は、必ずGISのことに触れています。

時期的に新しい教科書の中身をここでご覧いただくわけにはいかないのですが、本校におけるGIS活用の取り組みの方向性と内容をご紹介します。

ハード面での課題

本校に限らず、学校の現場では現状ハード面において次のような課題があります。

使用するGISはWebGISに限定

学校のコンピューターは情報漏洩やその他の問題から、シャットダウンと同時に初期化されるため、ソフトウェアを入れるのは非常にハードルが高いです。

神奈川県藤沢市では、随分前から全ての中学校のPCに地図太郎(GISソフトウェア)が入っていますが、これはかなりレアケースです。

したがって、GISとして使用するのはWebGISに限定されます。

タブレット端末での利用を求められる

現在、高等学校では情報科の授業が必修となっていますが、今後は中学校でもプログラミング教育を必修化する動きがあるので、情報科以外の教科でパソコン教室を使える時間が非常に少なくなっています。

情報科以外にあたる社会科、地理歴史科の授業ではパソコンはなかなか使えないため、タブレット端末でGISを使っていくしかない状況です。

地理授業でのGIS活用事例

授業環境

地理の授業は本来週4回となっていますが、本校は私立校なので1回分は他の教科に単位を使っており、週3回しか地理の授業がありません。

3回のうちの2回は教科書ベースの授業を行い、週1回あるいは隔週1回の頻度で実習を行っています。実習ではタブレット端末を使ったりコンピューター教室を借りたりしています。

実際の授業内容

OHPシートで仕組みを理解

最初に20分ほど、OHPシートを使ってGISの仕組みを理解する授業を行なっています。

OHPシートを使ってGISの仕組みを理解するため、これをそのままゲームとして生徒にやってもらいます。

4人1組でチームとなり、生徒の誰も岐阜市の土地勘はないだろうという前提のもと、以下のものを配布します。

  • 岐阜市の地図
  • 保育園・幼稚園の場所をプロットした図(電話帳から調べたもの)
  • 病院の場所をプロットした図(電話帳から調べたもの)
  • 犯罪発生場所をプロットした図(警察署が公表しているもの)

そのうえで、「皆さんは岐阜市の職員さんだと仮定します。新たに公立の保育園を設置するミッションを与えられました。あなたならどこに保育園を設置しますか?ここにあるデータを全て使って構わないので、どこに設置するのが最適か考えてみてください」という授業を15分ほど行います。

その後、どうしてその場所に保育園を設置すべきだと考えたのか、各チーム5分間で説明してもらいます。

その際、新たな保育園設置を考えるにあたって以下を取捨選択してもらいます。

  • 3枚の OHP シートはすべて必要だったのか?
  • 使うべきデータはどれだったのか?
  • 不要なデータは何だったのか?

これはオープンデータを使おうとする際、どんなデータを使えばいいかわからなくなる場合があるので、最初にデータを取捨選択しておく必要があることをわかってもらうためです。

岐阜市の例では手作業で下調べを行ったのですが、これがもし東京都の職員だったと仮定して、23区全部の範囲を調べて提案してくださいと言われたらどうでしょう。

岐阜市の場合は電話帳で調べて3時間くらいで終わりますが、東京都23区という広大な範囲になると、いったい何日かかるのやらとなるわけです。

GISを使い始める前に、アナログの作業はとても非効率だということを実感してもらうようにしています。

自分ごととして何を重ね合わせるかをイメージ

次に、自分だったら何を重ね合わせるのかをイメージしてもらいます。

たとえばコンビニエンスストアの出店担当者だったら、あるいは何かのお店や病院を開く場合だったらというふうに、どこに何を作るかを考えてもらいます。

高校生ともなると将来どういう道に進みたいかを何となく考えていたりするので、キャリアと結びつけながら自分だったら地図化するときにどんなデータがあったら楽なのかな、便利なのかなということを考えてもらいます。

それにより、教科書だけでの学習よりもGISの活用で自分ごとになることを知ってもらいます。

防災をテーマにデータを見る

実際にGISを活用した授業例の1つ目は、「防災をテーマにデータを見る」です。

地理総合の授業には「防災」「GIS」「グローバル」という3つの柱がありますので、本校でも先行して防災をテーマにした授業に取り組んでいます。

以下は広島の地図になります。私が広島出身で、前任校がちょうどこのピンク色のところに位置しており、集中豪雨の際に災害に巻き込まれたこともあって授業でこれを出しました。

生徒にとっては全く土地勘がなく自分ごとではないのですが、これをどうやって自分ごとにしていくかをお話しします。

重ねるハザードマップを見ていただくと、海沿いよりも内陸の方が深く沈んだことがわかります。

旧版地形図(明治時代発行)を重ね合わせてみると、干拓地と埋立地では干拓地の標高の方が低いので、より深く沈んでしまうことが理解できます。

ここから、さらに模擬フィールドワークを行います。

Google Earthに国土地理院の航空写真を重ね合わせてもらいます。

2014年8月20日に集中豪雨があったので、上側はその約2ケ月半後の写真ですね。たくさんの崖や斜面が崩壊しているのがご覧いただけると思います。

白線は生徒に描いてもらったのですが、白線より下は平坦なところ、白線より上は斜面です。

品川女子学院の大半の生徒は都内の斜面があまりない場所に住んでいるので、これを見るとまず「斜面のところに住むから土砂崩れに巻き込まれるんだ」という発想をします。

そこで、40年前に撮影された航空写真をGoogle Earthに重ね合わせたものを使って、白線の街に重ね合わせます。

すると、斜面のところには人がたくさん住んでいますが、平坦なところには全く人が住んでいないことがわかります。

ここから生徒は何かを考えていくのですが、考えを深める前にさらに別のデータを入れていきます。

以下はデータ入力を例示したものです。現在と過去の航空写真を見比べながらどこに砂浜があるかのデータをカチカチ入れていきます。

1974年と2010年を比較すると、砂浜(黄色い点)がかなり減っています。

なぜか?

これは、都市を洪水から守るために上流にダムが建設された結果、上流から砂が流れてこなくなり、砂浜に砂が供給されなくなって砂浜が消滅しそうになっているからなのです。

生徒には上記の黄色い文字は隠し、白い文字だけを見せて、どういうストーリーになるかを説明してもらいます。

単なる数字データをもとに可視化することで、生徒自身がストーリーを説明できるようになる練習に取り組んでいます。

これを身近な例に置き換えて考えようということで、こんどは地史まっぷを使っていきます。

以下は東京メトロの南千住にある車庫ですが、荒川が氾濫した場合、地図だけ見ると、ここは完全に沈むことになります。

実際には東京メトロの水害対策はしっかりと行われているのですが、生徒がこれを見ると「沈むことはわかった。でもどれくらい沈むのかがわからない」「画面右上の赤枠に26と書いてあるが、26メートルも沈むのか?」いうことをまず考えます。

GISの見方、使い方をここで生徒に経験的に知ってもらいます。

リスクは何かをわかったうえで、どこに車両を避難させたらいいのか、北陸新幹線の車庫が沈んでしまったことを例に、東京メトロでも同じようなことが発生しかねないのであれば、どこまで避難させればいいのかを考えます。

GISをゲーム感覚で触れながらこの課題に取り組み、最終的に上野あたりまで車両を避難させないと沈む可能性があることを知っていきます。

この作業を生徒全員タブレット端末を使って行ないます。

データを使って説得力を高める

GIS活用例の2つ目は「データを使うことで説得力を高める」です。

以下はearthというウェブサイトで、PM2.5(微小粒子状物質)がどのような形で日本列島に流れてきているかを示したものです。

生徒にこういうものもあるということでearthに1~2分触ってもらいます。

次にオゾン層破壊、オゾンホールの話をします。

オゾンホールは南半球で顕著に現れますが、原因物質のフロンはほとんど北半球で排出されています。

北半球で排出されたフロンが、なぜ南半球に悪影響を及ぼしているのかを生徒に考えてもらいます。

特に理系の生徒はこのことは考えたこともなかったので、科学を使って説明してください、と実際に定期試験にも出しています。

説得力を高めるためにGoogle Earthで北極中心、南極中心の図を見せて、ここから何か考えられることはないかと問いかけ、教科書をいろいろ参照してもらうと「偏西風」という言葉が出てきます。

それと同時にウェブサイトを見ていくと気象庁のウェブサイトにたどり着く生徒が多く、ここで「-78度」という数字が出てきます。

南極は-78未満になるが北極はそこまで寒くならない。これがオゾンホール発生の鍵を握っているらしいことまではわかるのですが、なぜ北極が暖かいのかがわからない。

教科書にある偏西風の図を使うと、北極側だけこんな風に蛇行していることはわかる。では、南極はどうなのか?実際に吹いているのはこんな感じなのではないか?山脈がないから風の影響は受けない、というところまでは予想されます。

ただ、これらはあくまでも案でしかないので、これだけで説得することはできません。

授業で使ったほかのサイトを使えば説得できるのではということで、生徒はそのサイトで北極中心の地図を見てみました。

このキャプチャは両方とも冬で左側(北極)は12月、右側(南極)は6月、ちょうど授業の日に生徒がスクリーンショットを撮ったものを使っています。

南極の周りをぐるっときれいな形で偏西風が吹いているので、蛇行して湯かきのような形になっている北極周辺(左)と、エアカーテンのような南極(右)が見えてきます。

ここまでくれば、これはデータそのものなので説得力の塊だということが生徒にもわかります。

RESASの活用

3つ目は、もっとビッグデータを使おうということでRESASの活用例です。

以下は、2014年と2016年の金沢市への観光客がどこの都道府県からやってきたかを示した地図です。

これを見ると、だいたい40人クラス中3人くらいの割合で、2015年の北陸新幹線開通と関連があるなとピンとくる生徒がいます。

この状態で生徒に見せても、最初は関東からの観光客が増えて関西からの観光客は減ったと、色だけを見ます。

色の塗り分け区分の数字を見ると、実は関西からの観光客は減っているわけではなく、関東からの観光客が非常に増えたことで、相対的に大阪からの観光客が減っているように見えているのです。

それに気付いてもらうために、どのような現象が起きるのかを例示したうえで理解してもらうようにします。その後タブレット端末でRESASを見てもらったあと、パソコンでjSTAT MAPを開いてさらに細かいデータを見ていきます。

ここまでは生徒全員で同じデータを見ながら、データリテラシーを身につけること、データをもとに文脈(ストーリー)を作ること、説得力を持たせるデータの取捨選択を考えることをやってきました。

ここからはデータを通して実感したことが自分ごとになり、さらなる探究意欲につながった例をご紹介します。

GIS活用能力の評価

その前に、全員が同じことをやってどのような力が身についたかの検証を行う必要があります。

以下は私が定期試験用に作ったものです。

地理院地図から標高ごとに塗り分ける地図を作りました。標高が高いほど濃い青で塗っています。

あえてこのことを説明せず凡例だけ載せて「2019年新幹線の車両が水没しました。これと同じような被害が発生する可能性が最も高い場所はどこですか?」という設問を出します。

データをしっかり見ることに慣れた生徒は「エ」と回答します。凡例を見るとこの中で標高が一番低いのが「エ」だとわかるからです。

データを見ることにあまり慣れていない生徒は、青い色が一番濃いから「ア」だと思い、「ア」と回答します。結局この問題の正答率は50%でした。

この前の中間試験では、ストーリーを作るということで、エジプトのナイル川上流にダムを建設した理由と、ダム建設と海岸線後退の関係を説明してくださいという問題を出しています。

データリテラシーと文脈づくりということで、RESASを使って都道府県ごとにこのような歪みが生じているが、ここからどんな課題が発生しているかを説明してもらい、生徒どうしで検証評価をしています。

そのあと、自分ごとにつなげるワークに入ります。

RESASを触ったあと、それぞれの生徒が自分の興味・関心のある街、おじいちゃんやおばあちゃんが住んでいる街、旅行で行ったことがある街、関東以外の街などを選びます。

そして、その街、その自治体の課題をRESASやjSTAT MAPを使って見てみると「こんなデータがあるんだ」「自分はこんな街だと思っていたが、データを通して全国と比較すると、そんなにすごいものではない」とか、逆に「何ともないと思っていたが、この街にしかない」という独自データが見つかります。

このように課題を発掘して解決につなげることを各自で行っています。

自主的なGIS活用への発展

ある生徒は、人口当たりの医療従事者の数が東日本と西日本とでは明らかに違うことを何かの記事で見つけました。

本当にそうかな?と思って「地史まっぷ」にデータを入れてみたら本当にそうだったという結果が出て、それをもとに学会発表を行いました。

その際、どの地図をどのように使ったらよいのかがわからなかったので、いろいろな方にインタビューしたり、地図だけでは表現しづらいとか、ポスターに何枚もの地図を貼るわけにもいかないということがあり、最終的に右側のような形にして紹介しました。

《参考情報》
河合様の指導の下、地史まっぷを利用した品川女子学院の生徒さんたちが日本地理学会の「2021年春季学術大会 高校生ポスターセッション」で理事長賞を受賞されました。
https://www.ajg.or.jp/20210614/10746/
https://www.ajg.or.jp/wp-content/uploads/2021/06/c84ff969b64a32d2df959a4f2ea4a972-scaled.jpg

おわりに

私は地理総合・地理探究の授業には3つの段階があると考えています。

1段階目は、教員から生徒への提示。これは当然のことで、これまでも行われてきたことです。

2段階目は、生徒どうしで指示どおりの議論ができるということです。

地理総合では「このデータは〇〇なんじゃないか」「このデータは〇〇を示しているんじゃないか」「使うべきデータは〇〇なのではないか」ということをやっていく必要があると考えています。

3段階目は、生徒どうしのアイディアです。

学会で発表した医療従事者の地図がそうですが、地図探究では、生徒が自分で課題を見つけて地図を作ったらこんなことがわかった、というような取り組みを行う必要があると思います。

本校の活用例は先進事例でも何でもありません。

来年度から地理総合・地理探究を進めていかなくてはいけない。そのためにはハード面やソフト面、我々教員はもちろん、助けていただける部分は助けていただきながら、学校現場でGISの活用をどう進めていくべきか。

本日は地理授業の現状報告といいますか話題提供という形で発表させていただきました。

【講演者情報】
学校法人品川女子学院 教諭 河合豊明様

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空間情報シンポジウム ご講演動画を公開

空間情報シンポジウム2021に登壇された河合様の動画を視聴していただけます。
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また、質問コーナーにて、視聴者からの質問に回答いただいた内容をQ&A形式で公開しています。こちらもあわせてご参照ください。

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