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空間時間人間を探す旅|スペシャル

連載10回を終えて|執筆後記

コロナ禍、2021年神無月(10月)から読んだ書籍の紹介を始め、霜月~師走~2022年睦月~如月~弥生と、半年が過ぎました。

パンデミックは続き、戦争勃発、経済悪化など、あまり良いニュースはありません。

歴史を学ぶと、人間の考えや行動に大きな差異はなく、いつの時代も同じようなことを繰り返していることがわかります。

科学技術は蓄積が進み人間生活を豊かにする多くの発明が繰り返されていますが、反面、武器は強力な殺人兵器として威力を増しています。

すべて人間の知恵と道徳にもとづく判断により、結果が異なってきます。歴史の探求は、良い知恵も悪い知恵も授けてくれることを改めて感じます。

アウトプットの大事さ

読書を始めて、書籍、絵画、音楽など確かなアウトプットがない限り人は後世に名を残せないのだと感じました。

情報が影響し合い、後世の人、他地域の人の活動を左右すること、学問が分野や地域、時代を超えて繋がっていることも学びました。

これからも私の読書は続きますが、読書から得た知識や情報をどのように活用すればよいのかを思案中です。何にせよ書いたり話したりして直接伝えることが重要だと考えています。

空間時間人間を探す旅

特別展 ポンペイ

https://pompeii2022.jp/

特別展で、ポンペイ遺跡からの出土品の実物を見る機会がありました。

紀元後79年、イタリアのナポリ近郊のヴェスヴィオ山で大規模な噴火が発生し、ローマ帝国の都市ポンペイが火山噴出物に飲み込まれました。

18世紀の発見後に発掘が進み、当時の姿が蘇っています。

特別展では、『発酵食品の歴史』(クリスティーン・ボームガースバー 著、井上 廣美 翻訳/原書房)に記載されているようなパン、ワイン樽などを見ることができます。

古代ギリシャの彫刻家ポリュクレイトスが制作したブロンズ像の傑作『槍を持つ人』の複製品が、住宅からほぼそのままの形で発掘されています。

これは当時の富裕層が有名な彫刻の複製を購入していたことを表すものです。

研究では、複製技術が発達しており、1mm以下の精度でコピーが作られていることがわかっています。

顔や肉体のプロポーションの美意識も引き継がれており、現代人が見ても均整のとれた造形は美しく、そのポーズやプロポーション(黄金比)はルネッサンス期の彫刻にも継承されています。

犬は、番犬として床のモザイクタイルに描かれています。奴隷制度の時代ですが、優秀な奴隷は市民になれるなど、社会制度も紹介されています。

ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展

窓辺で手紙を読む女(修復前) [1]

https://www.dresden-vermeer.jp/

今回のオランダ絵画展では、フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』の修復前と修復後の作品が比較展示されていました。

17世紀オランダ黄金時代には、フェールメールをはじめ多くの画家が活躍し、家庭でも装飾品として絵画が飾られていました。

『フェルメールとそのライバルたち 絵画市場と画家の戦略』(小林頼子 著/KADOKAWA)では、当時の絵画市場の事情が詳しく紹介されています。

この時代から画商やコレクターが活躍し始め、画家たちが類似するテーマで表現を競い合うなど、風景画・風俗画から当時の様子をうかがい知ることができます。

フェルメールの作品に地図が多く含まれていることも、オランダの海外進出の成功を物語るものといえるでしょう。

鎖国下の江戸時代、(時差はありますが)オランダとの交易により双方の情報が伝達され、相互の文化や国民性を理解し合っていることがわかります。

『日本1852:ペリー遠征計画の基礎資料』(チャールズ・マックファーレン 著、渡辺惣樹 翻訳/草思社文庫)は、来日経験のない歴史学者が西欧に伝わる日本について考察した書籍で、ペリー来日の4ヶ月前に発行されています。

オランダ東インド会社が伝えた情報がもとになっていますが、江戸時代の日本人の教養と文化レベルの高さは、海外から正当な評価を受け、現代日本の基盤になっていることがよく理解できます。

しっかりした考察と開港を求める外交戦略が語られています。

江戸後期から明治維新までの時代に多くの偉人が登場し、その人たちの色々な生きざまや功績を知れるのも楽しいです。

伊能忠敬記念館

伊能忠敬旧宅(佐原市) [2]

https://www.city.katori.lg.jp/sightseeing/sitemap.html

日本の地図と言えば、伊能忠敬の業績抜きには語れません。

千葉県佐原の造り酒屋を営んでいた忠敬は49歳で家督を息子に譲り、江戸に出て天文学を学んで1経度の長さを測定します。

それはまさにオランダから入手した書物にもとづき測定したもので、彼の導き出した長さは書物に記載の値とほぼ同じになります。

その後、全国の測量を始め、17年間作業を続けます。地図の完成を待たずに亡くなりますが、完成時には孫を伴い幕府に納品に行きます。

『伊能忠敬の日本地図』(渡辺一郎 著/河出文庫)にこれらのいきさつや伊能図の正副が消滅してしまったこと、コピーを求めて海外に探しに行ったことなどが書かれています。

本人の歴史だけでなく、成果物(地図や絵画)にもその後の歴史があることがわかります。

佐原市は小江戸と呼ばれ、古い家屋を店舗やレストランに改装して利用している古い美しい町並みですので、ぜひ一度訪れてみてください。

江戸時代、利根川水運として関東を繋ぎ、地方から多くの物資を江戸に運んだ足跡を知ることができます。

おわりに

古代ギリシャの民主主義は、スパルタの暴力によって滅んでいます。

専制君主、独裁者の権威はいずれ腐敗し滅ぶことを歴史は物語っていますが、その歴史を学ばない権力者が現在も将来も多く存在し、文明を破壊する愚かな行動をとるのでしょう。

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」(ドイツ宰相ビスマルク)の格言どおり、自分で失敗しないと理解できない人間が多すぎるのかもしれません。

語りたいことは尽きませんが、ご興味のある方と情報交換できる日を楽しみにしております。

書籍まとめ

この半年間で読んだ書籍と主な登場人物、年代を記しておきます。

1~10までの書籍は「空間時間人間を探す旅」の連載記事でご紹介しました。

11~20については記事にはしていませんが、いずれも興味深い書籍ばかりですので、皆さんもぜひ読んでみてください。

  書籍 登場人物/年代
1 教養としてのギリシャ・ローマ ― 名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄』(中村聡一著/東洋経済新報社) ヘロドトス(BC500)
2 福沢諭吉が見た150年前の世界 『西洋旅案内』初の現代語訳』(福沢諭吉著/武田知広訳・解説/彩図社) 福沢諭吉(1835-1901)
3 ピラネージの世界(建築巡礼)』(岡田哲史著/丸善株式会社) ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ(1720-1788)
4 松浦武四郎 入門 幕末の冒険家』(山本命著/月兎舎) 松浦武四郎(1818-1888)
5 漱石と鉄道』(牧村健一郎著/朝日選書) 夏目漱石(1867-1916)
6 フェルメールと天才科学者 17世紀オランダの「光と視覚」の革命』(ローラ・J・スナイダー著、黒木章人訳/原書房) フェルメール(1632-1675)
7 オランダ商館長が見た 江戸の災害』(フレデリック・クレインス著、磯田道史解説/講談社現代新書) オランダ東インド会社(1602-1800)
8 データ視覚化の人類史 グラフの発明から時間と空間の可視化まで』(マイケル・フレンドリー著、ハワード・ウェイナー著、飯嶋貴子訳/青土社) ウィリアム・プレイフェア(1759- 1823)
9 カントの生涯-哲学の巨大な貯水池』(石井郁男著/水曜社) イマヌエル・カント(1724-1804)
10 東インド会社とアジアの海』(羽田正著/講談社学術文庫) オランダ東インド会社(1602-1800)
11 中村屋のボース』(中島岳志著/白水社) ラス・ビハリ・ボース(1886-1945)
12 発酵食品の歴史-ビール、パン、ヨーグルトから最新科学まで』(クリスティーン・ボームガースバー著、井上廣美訳/原書房)
13 茶の本 日本の覚醒』(岡倉天心著、道添進解説/日本能率協会マネージメントセンター) 岡倉天心(1863-1913)
14 日本1852:ペリー遠征計画の基礎資料』(チャールズ・マックファーレン著、渡辺惣樹訳/草思社文庫) マシュー・ペリー(1794-1858)
15 古地図に憑かれた男-史上最大の古地図盗難事件の真実』(マイケル・ブランディング著、森夏樹訳/青土社)
16 若い読者のための科学史』(ウィルアム・F・バイナム著、藤井美佐子訳/すばる舎)
17 50のドラマで知るヨーロッパの歴史-戦争と和解、そして統合へ』(マンフレッド・マイ著、小杉尅次訳/ミネルヴァ書房)
18 フェルメールとそのライバルたち 絵画市場と画家の戦略』(小林頼子著/KADOKAWA) オランダ黄金時代(1600‐1700)
19 中濱万次郎 「アメリカ」を初めて伝えた日本人』(中濱博著/冨山房インターナショナル) ジョン万次郎(1827-1898)
20 伊能忠敬の日本地図』(渡辺一郎著/河出文庫) 伊能忠敬(1745-1818)

【画像出典】
[1] 『窓辺で手紙を読む女』ヨハネス・フェルメール作、アルテ・マイスター絵画館所蔵(ドレスデン)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AA%93%E8%BE%BA%E3%81%A7%E6%89%8B%E7%B4%99%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%82%80%E5%A5%B3#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Jan_Vermeer_-_Girl_Reading_a_Letter_at_an_Open_Window.JPG
[2] 筆者撮影

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睦月はじめ

建築学科卒業。照明デザイン、雑誌編集、空間情報、ITビジネス企画などの実務経験あり。歴史、アート、テクノロジー関連の書籍から空間時間人間のテーマを考察していく。

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