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インフォマティクスは2021年9月29日をもって創立40周年を迎えました。
これを記念して、このたび空間情報クラブに空間時間人間(地図・歴史・人物)をテーマにしたコラムをスタートすることになりました。
第一回コラムのテーマは「リベラルアーツ」。参考書籍は『教養としてのギリシャ・ローマ ― 名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄』(中村聡一 著/東洋経済新報社)です。
教養としてのギリシャ・ローマ: 名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄
内容紹介
- 欧米の名門大学では、なぜ「古典的教養(リベラルアーツ)」が重視されるのか。
- なぜ、リベラルアーツが米国エリート教育の原点となったのか。
- プラトン、アリストテレスの思想・哲学を現代人が学ぶ意味とは何か。
グーグルやアマゾンも重視する「西洋的教養」の真髄を凝縮した意欲作。(出版社書籍紹介文より)
著者 中村聡一氏のプロフィール:
米国コロンビア大学学部課程を優等の成績で卒業後、同大グローバル政策大学院でファイナンスを専攻。国際畑でビジネス系のキャリアを積み、現在、甲南大学でリベラルアーツの研究と教育にあたる。
なぜリベラルアーツが重視されるのか
膨大なデータから人間には困難なパターン抽出や物体検知、予測などを高精度かつ高速に行えるAI。自然言語処理の精度も向上し、お問い合わせ・接客対応をはじめ、さまざまな業務で応用例が増えています。
そんな中、大学教育でもビジネスでも専門のみに終始せず、歴史、文化、哲学、芸術といった学問を学び、真の教養を身につけることの重要性があらためて見直されています。
リベラルアーツとは
リベラルアーツは日本語では「一般教養」や「教養教育」と訳されますが、3学(文法学・修辞学・論理学)と4科(算術・幾何・天文学・音楽)のことを指します。
リベラル・アーツとは、 ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、ヨーロッパの大学制度において中世以降、19世紀後半や20世紀まで、「人が持つ必要がある技芸の基本」と見なされた自由七科のことである。
具体的には文法学・修辞学・論理学の3学、および算術・幾何・天文学・音楽の4科のこと。
(出典:Wikipedia)
3学4科が自由7科(リベラルセブンアーツ)と呼ばれたのは、古代ギリシャ・ローマ時代、何ものにも束縛されない自由人として生きていくために必要な学問とされたからです。
十字軍遠征時代、拠点だったイタリアに戦利品として古代ギリシャ学問の文献が大量に持ち込まれ、それを翻訳するために発足した知識階層の組合が現在の大学の前身です。
その後、中世ヨーロッパで大学が誕生した際、自由7科が学問の科目として定められ、アメリカの大学では今でも重要な科目として位置付けられています。
コロンビア大学の授業では、ホロメスの『叙事詩』、ヘロドトスの『歴史』、トゥキュディデスの『戦史』、プラトン、アリストテレスの哲学など、古代ギリシャの文明や文化、オリエンタル文明、ヘレニズムなどを学び、ローマ帝国、ユダヤ教、ローマカトリック、イスラム教、ルネッサンス、宗教革命などを経て、近代の著作へと続いていきます。
リベラルアーツを学ぶ意味
著者は、リベラルアーツを学ぶ意味は以下の5つを知るためとしています。
- 「先人の思考」を知る
- 「学ぶ」ことの価値を知る
- 「自由・自立の精神」を知る
- 「哲学」と「倫理学」を知る
- 「ルネサンス」の意義を知る
さらに、コロンビア大学では教員は学生に以下の11の質問を投げかけるのが常だといいます。
正解のない哲学的な問いをすることで、深く思考し、本質を捉える知力をつけることを目的としているのでしょう。
- 階級や格差とは何か、なぜ存在するのか
- 自由とは何か、自由ではないとは何か
- 家政術や公共の政治とは何か、共同体の種類で特質は変わるのか
- 逸話や修辞が持つ力とは何か、歴史においてどのように作用したのか
- 真実を見抜くことはできるのか
- 「人間」であることは先天的なのか、後天的に形成されるべきものなのか
- 性別による差異はどうか。どこまでが先天的で、どこから後天的に形成されるものなのか
- 正しいとは、公正であるとは、美徳とは、何なのか
- 苦労すること、困難に立ち向かうこと、失敗に直面することは「善」をもたらすのか
- 真実は存在するのか、存在するのなら、どうやって観ることができるのか
- 真実は感じるものなのか、理性で認識するものなのか
日本もヘレニズムの影響を受けていた
リベラルアーツはヘレニズムを起源として生まれた学問です。
日本でも江戸時代の藩塾・寺小屋で中国や日本の古典を学んだり、蘭学塾があったり、明治維新で西洋文明を学んだりと、独自のリベラルアーツが脈々と続いていました。
日本でも「ヘレニズム」の影響を受けて大きく変化した時期が2度ありました。
1度目は戦国時代。ポルトガルから鉄砲、オルガン、時計などの物品、医学、天文学、航海術などの学問が伝えられました。これらを主導したイエズス会の神学思想の中核にはヘレニズム哲学がありました。
2度目は明治維新からの文明開化。政治、経済の仕組みから社会、文化などあらゆる分野で西洋風として取り入れた文明は、もとを辿ればヘレニズムでした。
ドイツの宰相ビスマルクの言葉に「愚者は経験に学び、賢人は歴史に学ぶ」とあるように、歴史・古典を学ぶ重要さがリベラルアーツを生み、教養人の重要なテーマとなったのです。
歴史の父、ヘロドトス
古代ペルシャ戦争の要図(紀元前5世紀)[1]
古代史を学ぶうえで欠かせないギリシャ人の歴史家、ヘロドトス。
ペルシャ戦争後、ヘロドトスが古代オリエント諸国を訪ね歩いて見聞きした情報をまとめた『歴史』は、完全な形で現存する「人類最古の歴史書」とされています。
『歴史』にはその土地の歴史、地理、政治や習俗など膨大な量の情報が詳細に記述されています。史実だけでなく、登場人物の嫉妬や欲望、恨みや驕りなど、さまざまな感情が歴史を動かす様子が書かれています。
ヘロドトスは、歴史という概念の形成に大きな影響を与えたことから「歴史の父」と呼ばれています。
『歴史』の中にある「エジプトはナイルの賜物」という言葉は有名ですが、以下をはじめ、たくさんのことばが格言として残っています。
『偉大なことは大いなる困難から勝ち取るものです。』
『無知ほど恐ろしいものはない。』
『人間の運命とは自分の魂の中にある。』
インフォマティクスとヘロドトス
インフォマティクスは、歴史の父にちなんで命名した「ヘロドトス」というデータベースシステムを開発したことがありました。
「ヘロドトス」は、システム上で実行された処理をすべて記録することで、お客さまが登録した情報を改ざんや消失から守る仕組みを取り入れていました。
以下がヘロドトスのロゴです。頭文字のH、時間を表す砂時計、データを忠実に記録しつづけることを表す無限マークをイメージしてデザインされました。
おわりに
今回はリベラルアーツ教育で最高峰とされるコロンビア大学で学んだ中村聡一氏による著書から思考の旅をしましたが、リベラル教育の恩恵を受けてきたものとして、その意味や意義をあらためて考える良い機会になりました。
リベラルアーツは、ビジネスあるいは人生において、異なる価値観を持つ人間を理解したり、根源的問題をどのように捉え解決していくかの視点を養うのに重要な学問だと思います。
【参考文献】
『教養としてのギリシャ・ローマ ― 名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄』(中村聡一 著/東洋経済新報社)
・地球の名言ウェブサイト https://earth-quote.org/archives/1573
[1] 出典:Wikimedia Commons/Trabajo propio. Datos de Image:Perserkriege.jpg por Captain Blood, que usó el dtv-Atlas Weltgeschichte. Von den Anfängen bis zur Gegenwart, p. 56. Mapa en blanco de Image:Map greek sanctuaries-fr.svg. User:Juan José Moral