コラム ジオ三昧のススメ 地図・地理

自然災害の教訓を伝える|国土地理院「自然災害伝承碑」の取り組み

2011年3月11日に発生した東日本大震災から今年で13年。

国土地理院は、このような大規模災害の教訓を後世に伝えるための取り組みとして、「自然災害伝承碑」の情報をウェブ地図サービス「地理院地図」や2万5千分の1地形図(紙地図)などで公開している。

自然災害伝承碑の概要

自然災害伝承碑とは、過去に発生した自然災害(水害や土砂災害、火山災害など)の被災状況が記載されている石碑やモニュメントのことである。

被災場所に建てられていることが多いため、地図を通じてこれらを伝えることにより地域住民の防災意識の向上につながる。

「地理院地図」で自然災害伝承碑を表示させるには、左メニューの「災害伝承・避難場所」の中にある「自然災害伝承碑」を選択すると、災害別のメニューが表示される。

  • すべて
  • 洪水
  • 土砂災害
  • 高潮
  • 地震
  • 津波
  • 火山災害
  • その他

項目は上記の8種類で、「その他」には豪雪や雪崩、台風、ため池決壊、降雹、大火などの石碑やモニュメントが含まれている。

メニューのいずれかを選択すると、自然災害伝承碑を表す地図記号が地図上に表示される。

自然災害伝承碑 [1]

地理院地図上にアイコンが表示 [2]

詳しい伝承内容が記載

地図記号を選択すると、写真とともに詳細情報がポップアップ表示される。

詳細情報に記載されているのは以下の6項目。伝承内容には、石碑やモニュメントに刻まれた文章が記載されていることが多い。

  • 碑名
  • 災害名
  • 災害種別
  • 建立年
  • 所在値
  • 伝承内容

古い石碑の場合、写真を見ても何と書かれているのかわかりづらいことがあるので、これを地図上で確認できるのはとても便利だ。

国土地理院では、自然災害伝承碑の情報について以下のような利活用を想定している。

  • 身近な災害履歴を学ぶための学習教材として、小中学校で活用してもらう
  • 地域探訪の目標物として活用し、参加者が地域を歩きながら災害情報に触れる機会を創出する
  • 児童生徒が自然災害伝承碑について現地調査し、防災地図の素材として活用してもらう

石碑やモニュメントなどの所在地は、細かい地番が記載されていないことがあるため、スマホで地理院地図を見ながら場所を確認すれば、目的地の石碑やモニュメントまで迷わずにたどり着ける。

旅行に行った際に、現地で周辺を散策しながら自然災害伝承碑の場所を探すことで、どのような場所で被害が発生したのかを知ることができ、その災害について理解を深めることができるだろう。

アイコンを選択すると写真を見られる [3]

自然災害伝承碑の詳細情報 [4]

自然災害伝承碑と地形の関係

国土地理院は2019年から地方公共団体と連携して自然災害伝承碑の情報収集をスタートし、地理院地図や2万5千分の1地形図への掲載を開始した。このときに自然災害伝承碑を表す地図記号も制定されている。

自然災害伝承碑の地図記号が制定される以前は、これらの碑は人の功績などを記念して建てられた碑やモニュメントを表す「記念碑」に含まれていた。

しかし自然災害の教訓を後世に伝えることが未来の災害による被害の軽減に貢献すると判断し、「記念碑」とは別に新しい地図記号を制定することにしたという。

国土地理院では引き続き追加公開を続けており、2024年10月31日現在、公開総数は全国637市区町村2,206基となっている。

地理院地図では前述したように伝承内容まで詳細に知ることができるほか、地理院地図の機能を使って現地の地形の凹凸を際立たせることで、どのような環境で災害が発生したかを調べることができる。

また、自然災害伝承碑はベクトル地図タイルを使った「地理院地図Vector」でも確認することが可能だ。地理院地図Vectorでは、地図を3Dでさまざまな角度から見ることが可能なため、より詳細に現地の様子を調べられる。

全国の自然災害伝承碑(2024年10月31日現在) [5]

地理院地図Vectorに表示 [6]

「重ねるハザードマップ」にも掲載

2021年11月から自然災害伝承碑は「ハザードマップポータルサイト」の「重ねるハザードマップ」への掲載も開始している。

「重ねるハザードマップ」は、洪水や土砂災害、津波など災害種別ごとのリスク情報を地図上で可視化できるサイトで、各地の指定緊急避難場所を表示させることもできる。

左メニューの「すべての情報から選択」の中にある「自然災害伝承碑」を選択すると、ハザードマップ情報の上に自然災害伝承碑の情報を重ねることができる。

これにより、自宅や会社周辺など身近な場所で起きた大規模災害を知ることができ、防災意識の向上につながる。

地理院地図やハザードマップ上で自然災害伝承碑をチェックして、身近な場所のリスクを確認してみてはいかがだろうか?

「重ねるハザードマップ」に表示 [7]

■URL

自然災害伝承碑
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html

※本記事で紹介した取り組みに関する詳細は、国土地理院様あてにお問い合わせください。

【画像出典】
[1] 筆者撮影
[2]~[7] 国土地理院ウェブサイト

 

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

片岡義明(かたおかよしあき)様

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。

あわせて読みたい

-コラム, ジオ三昧のススメ, 地図・地理
-,