こんにちは、インフォマティクスの空間情報クラブ編集部です。
時空間をめぐる思考の旅を続けてきたこのコラム。最終回となる今回は、「未来」について考えてみたいと思います。
時間が与える情報
時間は、私たちが暮らす空間情報を形成する最も大きな軸の1つですが、時間そのものを目で見ることはできません。しかし、世界が絶え間なく変化していくプロセスを通じて、私たちは確かな時の存在と、その流れを感じ取っています。
時間は常に、一瞬の現在を私たちにもたらし、過ぎ去ることで「過去」へと変えていきます。一瞬たりとも止まることはありません。
ほんの少し前まで「未来」だった世界が、次の瞬間には「現在」になり、あっという間に「過去」へと流れていく。そう考えると、現在という時間は、過去が積み重なった最終形であると同時に、未来が始まる入口であるとも言えます。
しかし、空間情報として私たちが目撃できるのは、あくまで過去と現在の姿だけです。現在がどれほど未来の入口であったとしても、私たちはその先を覗き込むことはできません。
もし私たちが、時間の流れるスピードよりも早く移動することができて、時間をパッと追い越してから振り返る....なんてことができたら、そこには一体どんな未来が映るのでしょう。
今のところそれはSFの中のお話ですが、私たち人間には、まだ見ぬ時間を思い描く「未来を想像する能力」が与えられています。

過去は目の前、未来は背後なのか
私たちは普段、「過去を振り返る」「目の前に広がる未来」という言葉を使います。なんとなく、過去は自分の後ろに去っていったものであり、未来は自分の前方に待ち受けているものと考えているわけです。
ところが面白いことに、旧約聖書の時代(紀元前6世紀頃)を生きた古代のヘブライ人たちは、これとは真逆の感覚を持っていたそうです。彼らにとって、過去は「自分の前方(目の前)」にあり、未来は「自分の背後(後ろ)」にあると考えていました。
実際、過去を意味するヘブライ語の「ケデム」は「前」を意味する言葉であり、将来を意味する「アハリート」は「背後」を意味します。
言われてみれば、過去に起こった出来事はすべて動かしようのない事実であり、隠すことも変えることもできない確かな情報として、私たちの「目の前」に存在しています。見たくなくても、そこにある。
一方で、これから起こる未来のことは誰にも分かりません。未来に向かって進むということは、彼らにとっては「まだ見ぬ未知の世界へ向かって、後ろ向きに歩みを進める」ということだったのです。
後ろ向きに歩くのは少し不安で怖いですが、同時に「背後には一体何があるのだろう、何が起こるのだろう」という、なんとも言えないワクワク感があります。
われらはいかにあるかを知るも、われらがいかになるかを知らず
シェイクスピア『ハムレット』より
空間情報で未来を可視化
さて、古代ヘブライの時代から現代へと針を戻し、私たちの暮らしに欠かせない「地図」について考えてみましょう。
地図の最も大切な機能とは、刻々と変わる「現在」の状況を、いかにリアルタイムかつ正確に表示するか、という点にあります。正確さを欠いた地図は、役に立たないだけでなく、時に大きな混乱を引き起こしてしまうからです。
昨今のIT技術の目覚ましい発展は、渋滞情報や台風の進路予測など、刻一刻と変化する動的なデータを正確に地図上に表現してくれます。空間情報は常に新しいデータで追加・上書きされ、もの凄いスピードで「過去の記録」へと流れていきます。
もちろん、過去の地図も大切な記録であり、科学の発展や歴史の研究には欠かせません。古地図を大切に保管するだけでなく、現代の最新地図に重ね合わせて、その土地の歴史のレイヤーを楽しむ人たちも増えています。
リアルタイムの正確な「現在」と、蓄積された膨大な「過去」の記憶。
ここに、私たち人間にしか与えられていない「未来を想像する能力」を掛け合わせることができたら――。地図の上に、これからの未来が鮮やかに見えてきたら、どんなに素晴らしいでしょうか。

現代を生きる私たちは、ITとインターネットという強力な翼を使って、空・海中・地中から集められた3次元の地図の上に、未来の姿を描き出すことができるようになりました。
あたかも「どこでもドア」のように世界のどこへでも瞬時にアクセスし、それぞれの地域や人が持つ未来のビジョンを持ち寄る。それを地図上に再現して、現在・過去の情報と同じように、あるいはそれ以上に価値のある「未来の空間情報」として蓄積し、可視化していく――。
すでに、震災復興のスマート化プロジェクトや、スマートシティ構想の現場では、デジタルツインなどの技術を使って、この未来を可視化する試みがスタートしています。
空間をデザインすることは、まだ見ぬ未来をこの世界に描き出すことに他なりません。
私たちは、未来という果てしない大空を駆ける飛行機のような存在です。
過去の確かな航路を見つめながら、あなたはこれから、この空間にどんな素晴らしい未来をデザインしていきますか?

他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる
エリック・バーン氏の名言より