目次
はじめに
地図では、狭い面積の中に地物が錯綜した場合、人間が目で見て認識できるように表現しなければならないため、関連の地物を重要度に応じて転位(相対的な位置関係を崩さないように記号を真位置から移動)することになる。
道路や鉄道が並行している場合は、平面上で平行移動させるが、このほかにも地物の位相関係を正しく認識させるためにさまざまな編集が行われる。
道路地図に不可欠な誇張表現
道路地図関係でよく事例として取り上げられるのが、高速道路のインターチェンジ(IC)形状。
ICの形状を縮尺通りの真位置で表現すると、2.5万分の1レベルより小さい縮尺の地図では、まず団子状につぶれてしまうだろう。
そこでネットワーク性、交差部の上下関係を保持したまま、形状全体のイメージを周辺より局部的に拡大して表現する。つまり、誇張表現を行う。
5万分の1でも20万分の1でも、ICの大きさだけは図上での大きさが近づく現象が起きる。
しかし道路地図では、交差する道路どうしのつながりや、分岐状況、カーブの方向を視認させる必要があるため、ICの形状表現は極めて重要な措置であり、絶対に手を抜けないシーンである(図1-A、1-B)。
図1-A:MAPPLEデジタルデータ200,000
図1-B:MAPPLEデジタルデータ50,000
マップル社の2.5万分の1以下の縮尺の地図は、基本的に道路の位置・形状は、国土地理院の測量成果に準じるのが大原則だ。
しかし道路地図としての実用的な用途を想定しているため、地形図に対してIC形状の追加や、道路の交差状況の現況に即した追加補正を行ってきている。
地形図だけでは実用的な主題図たる道路地図にならないため、きめ細かな地図編集が不可欠なのである。
登山地図でも
路線の交差部の形状イメージを保持する点では、道路地図のみならず登山地図でも誇張表現が重要になってくる。
昭文社の「山と高原地図」シリーズは、縮尺2.5万分の1から5万分の1を標準にしているから、図上の1cmは実距離500m~250mにあたる。
この地図では、登山コースを赤色の実線(一部破線)で表示している(図2)。
図2:山と高原地図49「金剛・葛城」
たとえば現地にY字型に分かれる分岐点があったと仮定し、その地図上の表現を考えてみる。
この分岐点を大縮尺の地図で「真位置」的に描いた図を(図3-A)とする。
これを縮小編纂した地図にすると、Y字型にみえた分岐点はつぶれてしまい、T字型に直交する印象になる(図3-B)。
これだと現地でこの分岐に立ったとき、実景と図上の形状とのイメージがずれてしまう。
そこで、小縮尺の地図であっても、登山地図では現地の交差部の実景イメージを表現するために誇張表現の必要が生じる場合がある(図3-C)。
図3-A:真位置で形状を示した大縮尺地図
図3-B:真位置で形状を示した小縮尺地図
図3-C:交差部を誇張表現した小縮尺地図
このように地図では随所で地物を真位置に置くことができなくなり、転位、総描、誇張表現といった地図編集が生じている。
適正な地図表現を保持するためのこれらの編集は、地図の縮尺を変えると(特に縮小すると)、当然ながらそのつど必要になる。
マップル社の地図製品では、データを一元管理ではなく、1万・2.5万・5万・20万というように縮尺毎の別データとして保持している所以である。
【参考文献】『最新 地形図の本(4版2刷)』大森八四郎(国際地学協会発行)1997