コラム 地図を編む 地図制作の舞台裏

これからも伝えたい地図編集の心(1)

地図の企画編集の3大要素

地図の企画編集では、

①図取り
②縮尺
③図式

この3大要素が基本であり、この3つがうまく決まれば見やすく使いやすい地図が完成する。

公共測量や基本測量の地図作成では、①~③のすべて、または一部が規則で固定されているが、一般の実用に供される道路地図や都市地図、ガイドブックの観光地図など各種主題図では、地図の作成意図、対象地域によって慎重な判断とセンスが求められる。

私が以前いた地図編集部では、商品企画を進める際、担当者の起案に対して「図取」「縮尺」「図式」は、商品ごとにすべて編集長(役員待遇)の決裁が求められたほどである。

加えて2つの要素も

さらに、広範囲の地図の提供で内容量が多くなると1枚のペラ地図では収まらなくなるので、書籍スタイルの地図帳(ブックもの)の体裁となる。

すると企画編集の要として①~③に加えて、④ページ建て ⑤造本(開き)という要素が加わる。もちろんこれも編集長決裁である。

⑤の造本であるが、書籍や雑誌には右開きと左開きがある。文学書や週刊誌は縦書きの文章を収録するので、書物としては右側が綴じてあって、ページを右手で右へ開いていく右開きとなる。

一方、欧文書籍や科学書、電話帳など横書きの文章を収録するものは、左側が綴じてあって、ページを左手で左へ開いていく左開きとなる。

地図帳の開きは左右どっちがいいか

地図を主体とした地図帳ではどうだろうか。

地図帳を左開きで作ると、ページの繰りやすさの関係から図1のように、横に連続する図郭については、必ず左(北が上の地図帳では西のほう)から右に進むことになる。

逆に右開きで作ると、今度は図2のように右(北が上の地図帳では東のほう)から左に進むことになる。

地図中に配置される注記が原則横書きであること、地名・事項索引などのリストも横書きであることという自然の流れに従い、当社で刊行している地図帳の大半は左開きである。

図1:左開きの地図帳におけるページの進行
(一般的に大半の地図がこちらを採用)

図2:右開きの地図帳におけるページの進行
(東を巻頭側に置きたい場合にこちらを採用)

しかし地図帳を使いやすく、読者の注目するエリアをなるべく巻頭に置こうとする観点から、あえて右開きを採用する場合もしばしばある。

あえて右開きを採用した地図帳

全国SA・PA道の駅ガイド

たとえば『全国SA・PA道の駅ガイド』(図3)。

この地図帳では、高速道路を路線ごとに道路台帳的に連続して紹介するページ立てになっているが、東名高速や中国自動車道など東西に連続する部分が多くを占める。

かつ、東名高速を紹介する場合、本を開いた巻頭に起点たる東京を置きたくなる。また中国自動車道も大阪圏から西へ進む紹介としたくなる。したがって右開きが採用されている。

箱根駅伝まるごとガイド

数年前に出版した『箱根駅伝まるごとガイド』(図4)。

コースを東京から箱根を東海道に沿って紹介する144ページほどの地図帳だが、東西に連続する図郭のうち東京を巻頭に置きたいことから右開きとした(別途用意した復路の図は、巻末からスタートして収録)。

図3:全国SA・PA道の駅ガイド(昭文社) 右開きの地図帳の一例

図4:箱根駅伝まるごとガイド(昭文社) 右開きの地図帳の一例

ここまで紙の地図、出版物としての地図帳の話をしたが、こうした地図帳のページを繰るときの使い勝手の工夫は、デジタルデバイスにおける地図閲覧サービスのユーザーインターフェイスに十分受け継がれているのだろうか。

地図調製業界で培われてきた地図の企画編集3大要素(プラス2要素)のエッセンスを、いま一度現代の地図技術開発に従事されている皆さんと共有させていただければと願っている。

【参考文献】 『地図ジャーナル』 (No.176) 新春号~特集:地図と縮尺~(一般社団法人地図調製技術協会発行)2015年1月

 

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飯塚新真(いいづかにいま)様

東京生まれ。1986年、昭文社入社。編集部都市地図課、大阪支社勤務を経て、地図編集部情報課長、SiMAPシステム部長、地図編集部長を歴任。現在、ソリューション営業本部長。

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