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ピタゴラスと五角形
紀元前5世紀ごろ、古代ギリシャで活躍した数学者ピタゴラスは、10という数を「完全な数」として特別視していました。彼は数を別の何かと結びつけることで、その背後にある“意味”を真剣に探求していたのです。
1理性 2女性 3男性 4正義・真理 5結婚
6恋愛と霊魂 7幸福 8本質と愛 9理想と野心 10完全で神聖な数
2+3=5は女性+男性=結婚、2×3=6は女性×男性=恋愛といった具合です。これがピタゴラス数秘術です。
10が特別なのにはいくつかの理由があります。1は点(0次元空間)、2は線(1次元空間)、3は三角形(2次元空間)、4は四面体(3次元空間)と3次元空間までの最小構成図形の和が1+2+3+4=10であること。
おはじきを正三角形状に並べたときにできる個数は順に1、(1+2=)3、(1+2+3=)7、(1+2+3+4=)10となります。1、3、7、10、…を三角数といいます。10が三角数であることからピタゴラスは教団のシンボルをテトラクテュス(1から4までの自然数とその合計である10を図形化したもの)として神聖視しました。
ピタゴラスはペンタゴン(五角形)も特別視していました。彼が率いたピタゴラス教団のシンボルがペンタゴンです。そしてペンタゴンの中にも10が見つかります。頂点と交点を合わせた個数は10です。
5は特別な数
ピタゴラスはピタゴラス音律を発見したことでも知られています。音楽と数学の関係を語るうえで、ピタゴラスは欠かせない存在です。そして音楽と「5」の相性の良さも見逃せません。音律に加えて、何といっても五線譜の存在がそれを象徴しています。
詳しくは拙書『音楽と数学の交差』(桜井進・坂口博樹の共著、大月書店、2011)に譲ります。
5と相性がいいのは人体です。五体(頭・首・胸・手・足)、五感(触覚、嗅覚、視覚、聴覚、味覚)、五味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)、五臓(心臓、肝臓、肺臓、腎臓、膵臓)六腑(胃、小腸、大腸、胆嚢、膀胱、三焦)。
そして数学においても5は特別な数です。
- ユークリッド原論の公準は5つ
- 多面体は5種類(正4面体、正6面体、正8面体、正12面体、正20面体)
- グラフが非平面的であるのは、K₃,₃またはK₅をマイナーとして含むとき、かつそのときに限る。(ワグナー)
- 五角数定理(その1とその2)
4と5が分岐点になる例として
- 5次以上の代数方程式には解の公式は存在しない。(アーベルとガロア)
- 【物理学+数学】4次元空間が特別(ドナルドソンとウィッテン)、5次元以上の空間は似通った性質を持つ
五角数
おはじきを正五角形状に並べたときのおはじきの数が五角数1、5、12、22、35、51、…です。これをP₁=1、P₂=5、P₃=12、P₄=22、P₅=35、P₆=51のように数列Pnと表します。
五角数の定理(その1)
「すべての自然数はたかだか5個の五角数の和で表すことができる」
フェルマーの最終定理で有名なフェルマーは五角数定理も予想してこの世を去りました。その後、オイラー、ラグランジュ、ルジャンドルの研究を経て、1813年にコーシーが劇的に証明に終止符を打ちました。
五角数の一般項
五角数Pnをnの式で表すことができます。PnとPn+1の差に注目してみると、4、7、10という等差数列になっていることがわかります。このルールを用いることでPnが次のように計算されます。
五角数定理に驚く|左辺の総積を展開する
次が本命の五角数定理(その2)です。
五角数がわかったので五角数定理に驚く準備ができたことになります。次のステップは式の展開を手計算することです。五角数定理の左辺は、(1-xn) のnを1、2、3、…と代入したものをすべて掛け合わせたもので総積・総乗(product)と呼ばれます。pのギリシャ文字の大文字Πが記号として用いられます。nが1から4まで手計算にチャレンジしてみます。
n=1の場合、(1-x¹)=
n=2の場合、(1-x¹)(1-x²)=
n=3の場合、(1-x¹)(1-x²)(1-x³)=
n=4の場合、(1-x¹)(1-x²)(1-x³)(1-x⁴)=
中学数学で習った式の展開と指数法則
(a+b)(c+d)=ac+ad+bc+bd
xm×xn=xm+n
を用いて結果を昇べきの順(次数が大きくなっていく)に整理します。
結果は次のようになります。
これ以上の計算は手作業では大変なので、計算機の力を借ります。Pythonを使えば代数の計算もあっという間にできます(とは言えPythonで計算した結果をLaTeXに渡して綺麗な数式出力をつくり、データをDTP編集にかけるので相当な手間がかかっています)。
本連載でのPythonシリーズをご覧ください。次はnが5、10、50の場合の結果です。
五角数定理に驚く|右辺の総和を展開する
続いて右辺に取りかかります。総和Σの下付きがn=−∞になっているところから説明していきます。先ほど求めた五角数Pnのnは1以上の自然数でした。五角数定理ではこのnを0および負の整数まで範囲を拡げる必要があります。
nが0および負の整数に対する五角数をペンタゴンに対応させることはできなくなりますが、計算ならば問題ありません。nに0および負の整数を代入させるだけです。ここではnを-5から5までの整数にします。五角数Pnを計算して表にまとめておきます。
総和Σ(下付きn=−∞、上付きn=∞)を総和Σ(下付きn=−5、上付きn=5)として計算してみます。結果を昇べきの順に整理したのが次の結果です。
五角数定理に驚く|両辺を比較する
これで左辺と右辺、それぞれの計算ができたことになります。一同に並べて見比べてみます。はたして右辺のnが5の場合はx⁵まで、nが10の場合はx⁷まで、そしてnが50の場合はx40まで左辺の式と合っているではありませんか!
そして何より、(1-xn)を順にかけた積の係数に五角数が現れることに驚かされます。
オイラーの約数関数
オイラーは五角数定理以外に五角数が現れる公式を発見しています。自然数nの約数の総和をσ(n)で表すと次の公式が成り立ちます。なんと右辺に五角数定理でも登場したnが正負の場合の五角数が現れます。
σ(1)=1、σ(2)=1+2=3、σ(3)=1+3=4、σ(4)=1+2+4=7、σ(5)=1+5=6、σ(6)=1+2+3+6=12なので、オイラーの公式を確かめてみます。
σ(4)=σ(4-1)+σ(4-2)=σ(3)+σ(2)=4+3=7
σ(5)=σ(5-1)+σ(5-2)−σ(5−5)=σ(4)+σ(3)−σ(5−5)=7+4−5=6
σ(6)=σ(6-1)+σ(6-2)−σ(6−5)=σ(5)+σ(4)−σ(1)=6+7−1=12
確かにオイラーの公式が成り立っています。
オイラーの発想の原点|分割数
自然数を自然数の和で分割することを考えます。例えば、4の分割は
4、 3+1、 2+2、 2+1+1、 1+1+1+1
の5通りです。5の分割は
5、 4+1、 3+2、 3+1+1、 2+2+1、 2+1+1+1、 1+1+1+1+1
の7通りです。
自然数nの分割の総数をp(n)で表し、分割数(partition numbers)といいます。したがって、p(1)=1、p(2)=2、p(3)=3、p(4)=5、p(5)=7、p(6)=11、p(7)=15、p(8)=22、…となります。
オイラーは分割数を精力的に研究しました。その中でオイラーはマジックのような公式をいくつも発見していきます。
右辺の式をよく見てみるとxnの係数が分割数p(n)ではありませんか!
そして、左辺の分母は五角数定理の左辺にも現れる1-xnの総積です。これが1-xnの総積を考えるスタートになりました。
1-xnの総積を計算すると分割数や五角数が現れることをオイラーは発見しました。この背後にある数学をオイラーは探し続けます。かくして、1741年に発見された五角数定理は、10年後の1950年に証明されました。
インフォマティクスからのお知らせ
今回のコラムでは、数や図形が生み出す不思議なパターンに、空間とのつながりを感じた方も多いのではないでしょうか。ピタゴラスやオイラーが探求した「形」と「数」の世界は、現代の地図やデータの世界とも深く結びついています。
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