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AIによる衛星画像解析|自治体業務への活用例・課題を紹介

衛星画像解析にAIを活用するメリット

地球観測衛星に搭載された光学センサーやSAR(合成開口レーダー)から得られる衛星データの活用は、農業や漁業をはじめ防災や社会インフラなどさまざまな分野に広がっている。

特に近年、多数の人工衛星を連携して一体的に運用する「衛星コンステレーション」の構築が進みつつあることで、取得できる衛星データの量が増え、従来のような目視ではなくAIで自動解析する必要性が高まっている。

また光学センサーの場合、夜間や曇天時には観測できないが、SARを利用すれば天候や時刻に関係なく観測が可能となるため、SAR衛星の観測データが増加している。

しかしSARで取得できる観測データは光学センサーのデータに比べて目視解析が困難なため、新たなAI解析技術の開発も求められている。

こうした中、コンピュータやネットワークの進化により大量のデータをクラウド上ですばやく簡単に処理することが可能になったことやAI技術の向上により、衛星画像の解析処理をAIで自動化し、行政業務の課題解決に利用する取り組みが進んでいる。

AIによる衛星画像解析の事例

今回は、衛星画像のAI解析を自治体や政府のインフラ構造物や資源の維持管理に応用した例を中心に紹介する。

水道事業

漏水検知|神戸市

神戸市水道局は、SAR衛星データをもとに、AIを活用して地中の水道水特有の反射波を検出する漏水検知システムを導入している。

同システムでは地中3m程度までの漏水を半径100mの範囲で検出することができ、2024年度は神戸市内の一部(管路延長約75km)を対象に調査を開始する予定としている。

この取り組みは、デジタル田園都市国家構想交付金を活用し、県内20を超える水道事業体の市町・企業団と共に兵庫県が主体となって実施される「衛星データを活用した漏水解析委託事業」の一環である。

同システムの導入により、漏水箇所の早期発見と調査効率の向上を目指す。

(出典:https://kobe-wb.jp/news/20241031/)

水管橋の異常点検|札幌市

無償で利用できる衛星画像とAIを活用し、札幌市水道局管轄の水管橋の異常点検に関する実証実験が2024年6月から9月にかけて実施された。

国内では道路構造物の5年に1度の定期点検が義務化されているが、橋梁点検には人員不足やコスト増の課題がある。

水管橋の点検についても同様で、長大な水管橋に接近して目視点検を行うのは困難なため、特殊車両やドローンを使用する際のコストや人材確保が課題となっている。

実証実験では、札幌市の豊平川第2水管橋で鉛直変位や橋軸変位を誤差5mm程度で計測でき、疑似的な垂れ下がりも検知できることが確認された。

無償の人工衛星画像を使用し、過去8年分のデータ分析を行った結果、ドローンによる点検と比較してコスト削減と高頻度な計測が実現できた。

実証実験の流れ

(出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000731.000078149.html)

漏水調査|桑名市

三重県桑名市上下水道部は、漏水リスク管理業務を支援するシステムを導入して漏水エリアの検出に役立てている。

全国で上水道の水道管の老朽化に伴い、大規模な漏水事故が頻発している。国内の約16万kmの水道管が法定耐用年数を超えており、現行の点検維持・修繕方法では多額のコストがかかるうえ、広範囲かつ短期間での実施は困難である。さらに少子高齢化による人口減少により、料金収入や職員数の減少も予想される。

同システムでは、衛星データやオープンデータを活用して100m四方の範囲で漏水リスクが高いエリアを特定し、給水台帳や配水管図と連携して5段階評価の漏水リスクを管理。これによりリアルタイムのデータ確認と迅速な漏水検出・修理計画立案を支援する。

実証実験では最大で点検費用が65%、調査期間が85%削減できるとされている。

(出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000154.000045963.html)

固定資産

家屋異動判読調査|長野市

長野市では、高解像度衛星データ(光学衛星・SAR衛星)をもとに、AIを活用して固定資産異動判読調査業務を効率化する実証事業が実施されている。

同実証では、現在の航空写真データによる固定資産異動判読調査業務に衛星データと変化検出AIを導入することで精度を比較し、航空写真取得、解析コスト、職員の目視確認にかかる人件費の削減や業務効率化につながるかを検討する。

過去の家屋形状と最新の衛星画像をAI変化分析して調査対象を検出

(出典:https://www.city.nagano.nagano.jp/documents/16599/0607026.pdf、
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000026963.html)

データメンテナンス

地図データの更新|国土地理院

国土地理院は2024年6月、AIソリューションの変化検出AI機能(以下、AIモデル)を電子国土基本図の更新業務に採用した。

これまでは地図情報と空中写真を目視で比較して更新範囲を決定していたため、更新作業に多大な時間を要していた。更新範囲を決める際に変化抽出作業を行うが、1年でできる範囲は国土全体の約10分の1が限界だった。

同AIモデルでは、異なる2時期に撮影された画像から家屋や道路の変化を抽出でき、業務で活用されるwebアプリケーションも作成された。

これにより変化抽出結果が地図修正業務に直接応用できる形式で出力され、作業員が効率的に修正してアノテーションとして蓄積できるようになるため、AIモデルの精度向上と更新作業の効率化が進む。

今後AIモデルとwebアプリケーションの活用により国土全体の変化を網羅的に可視化でき、変化の多いエリアの更新を重点的に行うことでさらなる更新作業の効率化や自動化が期待される。

(出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000079.000026963.html)

課題と展望

上述のように全国各地の自治体で衛星データ分析サービスの活用が広がっている。ただし、このような技術の利用価値を活かすには課題もある。

人工衛星開発はこれまで政府によって実施されることが多かった。しかし将来民間事業者が独自に衛星を打ち上げて運用することが増えれば、品質にバラつきが生じ、運用が終了してデータを取得できなくなるケースも生じるため、いかに信頼性・継続性を担保するかが重要となる。

また現時点では衛星データとAI技術の両方のスキルや知見を備えた人材が少なく、人材育成も課題である。

こういった課題はあるものの、地球観測衛星の数は今後も増加し、より高解像度の衛星データが多頻度で入手可能となるとともに、衛星データのオープン&フリー化が着実に進んでいくことが予想される。

このような状況を踏まえ、衛星データを行政施策や自社ビジネスにどう活用できるかを検討してみてはどうだろうか。

 

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  • この記事を書いた人
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片岡義明(かたおかよしあき)様

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。

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