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分数の割り算はなぜひっくり返してかけるのか 2023|その理由を解説

2022年の連載「分数の割り算はなぜひっくり返してかけるのか|その理由を解説」

2022年2月18日の連載は「分数の割り算はなぜひっくり返してかけるのか|その理由を解説」でした。おかげさまで記事は「分数の割り算」の検索結果1位となっています。(2023年9月現在、Googleの検索結果より)

映画『おもひでぽろぽろ』(高畑勲監督・脚本、1991年スタジオジブリ)における主人公タエ子と姉ヤエ子の分数の割り算シーンからはじめて、次の3つの理由を紹介しました。
その1「分母を1にする」
その2「単位量」
その3「分母をそろえる」

今回はこれらをパワーアップしてみました。

分数のわり算をひっくり返してかける理由

「公式」を納得する計算その1「4÷4=1」

「公式」の理解は後回しにして、公式を納得する計算を考えてみます。4÷4=1の割り算をあえて分数どうしの割り算に変換し「公式」で計算してみると1になることが確かめられます。

 

「公式」を納得する計算その2「1/2÷1/4=2」

その1と同じように「公式」を用いて分数の割り算1/2÷1/4をしてみます。全円の面積を1とすれば1/2、1/4はそれぞれ半円、四分の一円を表します。図から1/2の中に1/4は2つあることがわかります。

 

「公式」を理解するための準備「÷(1/b)→×b」

割り算は割る数が自然数であることが基本です。割る数が分数になると状況が一変します。そもそも日常の中で分数で割るような場面(問題)は滅多にないので、分数で割る割り算になじみがないのは仕方がないことです。

1/bのように分子が1の分数で割る場合から考えてみます。次の図のように説明することで、÷1/4が×4に等しいことがわかります。

「÷(1/b)→×b」がわかれば、映画『おもひでぽろぽろ』でタエ子がわからなかったテスト問題「2/3÷1/4」は、2/3÷1/4 = 2/3×4 = 8/3と説明できます。

「2/3÷1/4」を実際に割り算する

この説明でもタエ子には不満が残るかもしれません。そこでさらなる解説を考えてみます。タエ子はリンゴの絵で問題を考えていました。本当に割り算をしようとしていたのです。

それに応えてあげましょう。コツはズバリ、通分!

通分は分数のたし算・ひき算でおこなう計算ですが、分数の割り算にも使えます。2/3と1/4を通分すると分母は12(3×4)です。そこで全円を12等分した図を描きます。すると、2/3=8/12、1/4=3/12となります。

8/12の図形の中に3/12すなわち4分の1円が何個含まれるかを考えます。4分の1円2個とショートケーキの形です。ショートケーキの形は1/12が2つ分なので4分の1円を1個とすれば2/3個となります。したがって、答えは2+2/3=8/3であるとわかります。

せっかく通分したので、2/3÷1/4 = 8/12÷3/12から分母が等しい場合、割り算は分子どうしの割り算8÷3に等しいことも説明できます。

 

(2/3)÷(5/7)=(2/3)×(7/5)の説明その1「困難は分割せよ」

タエ子の問題は割る分数が1/4なので「÷(1/b)→×b」が分かればOKです。次は分子が1でない場合です。÷(5/7)が×(7/5)になることを見ていきます。

まず、次が成り立つことを簡単な計算で確認します。

a÷(b×c)=(a÷b)÷c

12÷6=2を例に説明してみると、6=2×3なので、まず12を2で割り、次に3で割るということです。

12÷6=12÷(2×3)=(12÷2)÷3=6÷3=2

5/7を5×1/7と2つに分けます。これが「困難は分割せよ」という意味です。

÷(5/7) = ÷(5×1/7) = ÷5 ÷(1/7)

ここで、÷5 = ×(1/5) は問題ありません。÷(1/7) は「÷(1/b)→×b」より×7に置き換えることができるので、

(2/3)÷(5/7) = (2/3)×(1/5)×7 = (2×1×7)/(3×5) = 14/15

とかけ算として計算できます。(2/3)÷(5/7)=(2/3)×(7/5) が説明できたことになります。

最後に両辺を小数で計算して等しいことを確かめておきます。

2/3÷5/7 = 0.6666666… ÷ 0.7142857… = 0.933333…
14/15 = 0.933333…

(2/3)÷(5/7)=(2/3)×(7/5)の説明その2「1」のルール

同じ問題について別な計算方法を考えてみます。3つの「1」のルールです。

「1」のルール❶ a/b = (a/b)×1 = (a×分数)/ (b×分数)
a/bに1をかけても値は変わりません。この1を分数/分数(2つの分数は等しい)としてしても値は変わりません。

a/b = (a/b)×1 =(a/b)×(分数/分数) = (a×分数)/ (b×分数)

「1」のルール❷ (b/a)×(a/b) = 1
これは分数どうしのかけ算のルールで説明できます。

「1」のルール❸ a/1=a
分母が1であれば分子に等しいということです。

以上の3つのルールから(2/3)÷(5/7)=(2/3)×(7/5)が説明できます。

 

(2/3)÷(5/7)=(2/3)×(7/5)の説明その3 単位量の変換

問題 7/5リットルで1メートル塗ることができるペンキがあります。2/3リットルでは何メートル塗ることができますか。

これは、分数÷分数となるように無理につくった問題です。問題のための問題であることには目を瞑って、お付き合いください。最後に大切なことがわかります。

(割り算の解法) 2/3 L÷7/5 L/m = ?m が自然です。ここで分数の割り算が問題になります。分数の割り算が分からないとしたらどうしたらいいでしょうか。

問題のペンキは7/5リットルで1メートル塗ることができるものです。これを1リットルでは何メートル塗ることができるのかが分かれば計算ができます。
1リットル → □ メートル
2/3リットル → ? メートル

という関係から(かけ算の解法)?=2/3×□ と計算できます。一旦、1メートル当たりの塗ることができる長さを求めるということです、

図を描いて考えるとわかりやすくなります。図のように赤い帯の長方形を7等分します(右の長方形)。1つ分の短冊が1/7m、1/5Lとなります。1Lは短冊5つ分(1/5L×5=1L)なので、長さは1/7m×5=5/7mとなります。これが求める1メートル当たりの塗ることができる長さです。

したがって、(かけ算の解法)2/3×5/7 =10/21 答え10/21m。

 

割り算とかけ算の解法について数値に単位をつけて比較してみます。

(割り算の解法)2/3 L÷(7/5) L/m = ?m
(かけ算の解法)2/3 L×(5/7) m/L = 10/21 m

(7/5) L/m は1m当たり7/5Lであること、(5/7) m/Lは1L当たり(5/7)mであることを表しています。単位量を入れ替えると、数値は分母と分子をひっくり返すことになり、計算は割り算とかけ算が入れかわるということなのです。

ガソリン価格1リットル当たり120円
円ドル為替1ドル140円
牛肉100グラム当たり1800円
金相場1グラム当たり7762円
といった単位量は日常に登場します。しかし残念ながらこれを単位量変換する機会はあまりありません。分数÷分数といった問題も日常には見当たりません。

もしペンキの問題に代わる(分数÷分数の)いい例題を見つけられたなら面白いでしょう。小学生をもつ親になって分数の割り算の問題に取り組むときまで、ぜひ例題探しをしてみてください。

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桜井進(さくらいすすむ)様

1968年山形県生まれ。 サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。 (略歴) 東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。 理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。 公益財団法人 中央教育研究所 理事。 国土地理院研究評価委員会委員。 2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。 全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。 著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。 サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

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