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安心・安全で新しい登山体験を実現|筑波山に特化した登山アプリ Mount Tsukuba(マウントツクバ)

日本百名山の一つとして高い知名度を誇りながらも、気軽に登れる山として人気の筑波山。

この筑波山の登山を安全に楽しむことを目的としたiOSアプリ「Mount Tsukuba(マウントツクバ)」が2021年11月にリリースされた。

開発の背景

本アプリは、地域の課題解決に最先端デジタル技術を活用する茨城県の「DXイノベーション推進プロジェクト」の一環として、以下の産学5者の団体から成るコンソーシアムによって生まれた登山アプリである。

  • フラー株式会社
  • 株式会社ARC地域研究センター
  • 筑波大学 原忠信准教授
  • つくばトレイルガーディアンズ
  • 株式会社ターバン

より楽しく、安心・安全な筑波山登山体験の創出を目指して開発された。

Mount Tsukuba

全10コースを網羅した登山地図を収録

本アプリの魅力は、なんといっても筑波山の登山地図を収録している点だ。

筑波山の登山コースは以下をはじめ全10コースあり、Mount Tsukubaはこれらの登山コースをすべて網羅している。

  • 御幸ヶ原コース:筑波山神社から山頂を目指す
  • おたつ石コース:つつじヶ丘から弁慶茶屋跡を結ぶ
  • 筑波山自然研究路:男体山山頂付近を周遊する
  • 薬王院コース:つくし湖から筑波山自然研究路へと至る

登山地図には等高線が入っており、起伏がわかりやすく、トイレや水場、名所の位置が記載されているほか、崩落によって通行止めになっている箇所も明示されている。

各コースには距離や登り・下りの所要時間、難易度やコースに関する説明文が掲載されており、これを読めば初心者向けや健脚者向けなど、自分の力に合った最適なコースを適切に選ぶことができる。

このほか、以下のような特典も用意している。

  • 登頂記念フラッグを掲げて記念撮影できる「AR(拡張現実)カメラ」機能
  • 近隣の温泉で使える割引クーポン(期間限定)
  • ダウンロードで全員もらえるオリジナルボトル水(数量限定)

筑波山の登山地図を搭載

 

コースの詳細情報

アプリから登山届を提出可能

安心・安全な登山への意識が高いのも特徴で、登山届を提出できる「デジタル登山届」機能を搭載している。

登山届とは、山に入る前に利用するルートや登る人の人数、下山予定時刻を提出することで、万が一、遭難したときに捜索や救出活動の手がかりとなる届出書のこと。

登山口に設置された箱や最寄りの警察署に提出するのが一般的だが、Mount Tsukubaを使えばアプリから直接、登山届を提出できる。

画面下の「登山計画」をタップして「登山届を作成する」を選ぶと作成画面となる。

入山日・下山日および登山ルートを選んで、氏名や連絡先、住んでいる地域、年齢、性別、登山人数を入力して送信するだけで、登山届の提出が完了する。

なお、登山届の作成画面で「Trail Map」をタップすると、詳細なコースタイム入りの登山地図が表示され、コースタイムを参考にしながら登山計画を検討できる。

詳細地図上では、登山口付近にある駐車場の収容台数も細かく記載されているので便利だ。

登山届の作成画面

 

詳細なコースタイムが入った登山地図

登山道の途中にビーコンを設置

山を登っている最中は、スマートフォンの測位機能で得た現在地が登山地図上に表示されるので、自分が今、コース上のどこにいて、山頂まであとどれくらいの距離かを把握できる。

なお、筑波山の登山道のサイン整備の一環として、コース途中と男体山・女体山2つの山頂にビーコンが設置されており、これをiPhoneで検知すると、コース別にデザインが異なる缶バッジと引き換えられるアプリ内チケットを獲得できる。

筑波山はハイシーズンに一部の人気コースで登山道渋滞が発生することが課題となっており、缶バッジをコレクションすることを楽しみながら登山客の分散と混雑緩和につなげていく方針だ。

アプリ開発のコンソーシアムメンバーである「つくばトレイルガーディアンズ」は、筑波山の登山道整備を中心に活動している民間団体で、山中のサイン整備をアプリ開発と連動して行い、デジタルとリアル両面での登山体験の向上に取り組んでいる。

2022年3月に向けて、筑波山の登山コース全10コース約70箇所への設置を目指しているという。

山道にサインを整備

 

コース別にデザインが異なる缶バッジ

アプリ内課金で寄付金を募集

本アプリは、基本的に全機能を無料で使用できるが、筑波山の登山道整備や環境保全、アプリの持続的な運営のための寄付(チップ)をアプリ内課金で募っている。

コンソーシアムメンバーであるARC地域研究センターの代表取締役社長を務める赤津一徳氏は、アプリ内で寄付を募ることにした理由について、以下のように語る。

山の整備や環境保全のためには、本来であれば利用者負担ということで入山料として徴収するのが筋ですが、日本ではとてもハードルが高いので、寄付としています。

また、本格登山に興味のない、事故率の高い層を取り込むのも大きな狙いなので、ハードルを低くして、楽しい機能を付加することにこだわりました。

これまでも、現金での寄付やグッズ販売での寄付を集めてきましたが、アウトドアでのキャッシュレス需要を考えて、この形にチャレンジしました。

寄付額は120円から5,000円程度まで幅広くいただいており、管理費用のかからない方式として、今後も期待が持てそうです(赤津氏)

赤津氏はアプリの開発で苦労した点として、県警察本部や消防署や筑波山神社、観光鉄道など、現地のステークホルダーの要望を機能に反映したことを挙げている。

たとえば、下山困難者の多くは日没で暗くなってしまうことが原因のため、アプリには当日の日没時刻を常時掲示することにした。

さらに、登山道の中間地点にあるサインに設置したビーコンは、遭難が発生したときに救助者が下から行くか上から行くかを判断する基準として利用することにしたという。

今後の展開

今後の方針としては、まずはAndroid版の開発を検討しているほか、登山届提出の動線や寄付の動線変更、新しいクーポン開発も検討している。筑波山以外のアウトドアフィールドや他の山への展開も視野に入れている。

リリース後、1カ月(11月末まで)でアプリのダウンロード数は2,619名、登山届は401件提出されたとのことで、筑波山における昨年度の登山届の年間提出数が年間で799件であることを考えれば、大幅増と言える。

登山アプリというと複数の山域をカバーするアプリが多いが、本アプリのように特定山域に絞ったアプリというのは珍しく、利用料も無料で誰でも自由に使えるので、筑波山に興味のある人はぜひダウンロードしてみてほしい。

寄付金は登山道整備や環境保全などに利用される

■URL

筑波山登山アプリ「Mount Tsukuba」
https://mount-tsukuba.com/app/

※本記事で紹介したサービスに関する詳細は提供団体様あてにお問い合わせください。

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片岡義明(かたおかよしあき)様

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。

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