コラム 新型コロナ

「ソーシャルディスタンス」と「フィジカルディスタンス」の相関関係を空間情報で分析

3月 10, 2021

新型コロナウイルス感染症の拡大は世界を混乱に陥れています。

感染症の拡大を抑えるためには、人と人との接触機会を減らすことが有効とされ、「ソーシャルディスタンス」(社会的距離)という言葉が一気に広まりました。

「ソーシャルディスタンス」と「フィジカルディスタンス」の違い

日常的に多用されるようになった「ソーシャルディスタンス(英語:social distancing)」は、感染予防のため対人間で一定の距離(2m以上推奨)を保つ意味合いで使われていました。

しかしこの言葉は「家族や親しい人との関係を社会的に断たなければならない」という社会的分断や孤立を想起させること、飛沫拡散による感染を避けるためには物理的な対人距離の確保が重要であることから、身体的、物理的距離という意味で「フィジカルディスタンス(英語:physical distancing)」が使われるようになりました。

どちらの表現が適切かはさておき、本記事では距離について別の側面から考察したいと思います。

従来の距離測度

距離を測る際、「距離測度」と呼ばれる手法が使われます。

従来、距離測度として主に「ユークリッド距離」「ネットワーク距離」「時間距離」の3つの距離(以下、物理的距離)が使われ、三者の関係性についても理論的、実証的側面から議論されてきました。

なぜなら地点間の人や物の移動量や頻度を説明する変量として、物理的距離が非常に優れているからです。

これまで多くの都市モデルではユークリッド距離が使われてきましたが、近年の数値地図や統計情報の普及とこれを扱うソフトウエアの低廉化により、ネットワーク距離や時間距離も活用されるようになりました。

しかし人や物の移動量や頻度には様々な要因が複雑に関係しており、物理的距離だけで説明するのは容易ではありません。

逆転の発想|人の移動から地点間の距離を計測

そこで発想を転換し、人々の移動から地点間の距離を計測する方法について考えてみましょう。具体的には、実際に観測される人々の動態をもとに地域間の距離を計測してみたいと思います。

小学生の場合

図1は8人の小学生児童(A~H)の自宅位置を示したものです。

自宅が近いDさんとEさんは友達であると予想できます。つまり、二人の間の社会的距離は小さいと想像されます。

図1

しかし、図2のように二人が異なる小学校に通っている場合にはそうとは限りません。

自宅の距離が離れていても、同じ小学校に通い「時間」と「空間」を共有している児童間の方が社会的距離が小さいと想像されます。

図2

地域住民の場合

このことは地域住民レベルでも成立しているように思います。

図3の地図を見ただけでは、地域間の交流状況(コミュニティの形成状況)は判然としません。

図3

しかし図4のような地形情報に重ねて眺めてみると、それぞれ楕円で囲まれた地域住民間の交流は活発で、共通の価値観を持っている(社会的距離が小さい)可能性があります。

なぜなら、歴史的にみても集落や交通網は川沿いに形成される傾向があるからです。

言い換えれば、物理的距離は大きくても、人や物の移動量が多く交流機会が多い地域間の方が社会的距離が小さい可能性があるということです。

図4

シン・キョリソクド|DM_SCORE

そこで私の研究室では「同一時刻・同一地域に滞留している人々は、そうでない人々よりも相互に密接な関係性を有している」という考えにもとづき、地域間の近接性(社会的距離)を表す新たな距離測度「DM_SCORE (Distance Measure based on Spatiotemporal Coexistence of Residents)」を考案しました。

具体的には

  1. 東京都市圏パーソントリップ調査のデータを用いて、それぞれの地域に住む居住者の終日にわたる時空間分布を抽出
  2. 居住地の異なる人々が同一時刻・同一地域に滞留する機会の程度(時空間共存性)を計算
  3. 時空間共存性が高いほど近く、低いほど遠くなる距離測度DM_SCOREを計測

を実施し、社会統計調査から求めた地域住民の価値観と距離測度DM_SCOREとの関連性を分析しました。

この分析では「DM_SCOREが小さい地域間ほど価値観が類似している」など、非常に興味深い結果が得られています。

分析結果については、DM_SCOREを用いた空間分割例などとあわせてこちらで紹介していますので、ぜひご覧ください。

おわりに

昨今SNSの普及などでインターネットを介した人的交流が爆発的に活性化し、そのことが人・物の物理的な移動への影響要因ともなっています。

それに伴い、オンラインにおける時空間の共存性をもとに社会的距離を計測したり、オンラインでの社会的活動をもとに社会的距離を定義し視覚化したりする試みがなされています。

コロナ禍で息苦しく窮屈な生活はまだしばらく続くと思われますが、対人間の距離の定義・意味・特性についてあらためて考えてみる良い機会かもしれません。

【参考文献】
大佛俊泰・村上彩夏:居住者の時空間共存性に基づく距離測度,日本建築学会計画系論文集, 第80巻, 第715号, pp.2001-2010, 2015

【執筆者】
大佛俊泰(おさらぎとしひろ)様
東京工業大学 環境・社会理工学院 教授
(略歴)
1988年 東京工業大学工学部 助手、1993年 東京工業大学工学部 助教授、2007年 東京工業大学大学院情報理工学研究科 准教授、2011年より現職。専門分野;建築計画学、都市計画学、地理情報科学、情報環境学
大規模な時空間データベースと数理モデルを活用し、都市・地域・人間行動に潜在する法則を研究。近年は、首都直下大地震を想定した地域防災計画のための基礎研究として、徒歩帰宅行動や広域避難行動などに関する数値シュミュレーション分析を行っている。

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空間情報クラブ編集部

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