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地域間の物理的距離と社会的距離の相関関係|空間分割例と分析結果

3月 15, 2021

今回は、こちらのコラムで触れた距離測度「DM_SCORE」の概念やDM_SCOREを使った空間分割例、分析結果を紹介したいと思います。

距離測度「DM_SCORE」とは

DM_SCOREとは、Distance Measure based on Spatiotemporal Coexistence of Residents(居住者の時空間共存性に基づく距離測度)の略で、距離を測定する手法の1つです。

数学的な定義や性質はやや複雑なので、ここではDM_SCOREの概念について図解します。

簡単な例として、地域Aと地域Bの間のDM_SCOREを考えてみましょう。下図は、各地域の居住者がそれぞれの時刻にどこに滞在しているかを表わした時空間分布図です。

いずれの地域でも、一般に居住者は朝自宅を出て、昼間はオフィスや学校に滞在し、夕方帰宅します。

その過程で地域Aと地域Bの居住者の分布が重なり合うことがあります(上図真ん中のオレンジ部分)。

前回コラムの小学生の例では小学校という施設で時空間分布が重なっており、両地域の居住者がそこで遭遇する可能性があることが示されています。

時空間分布では、より多くの居住者がより長時間重なっているほど、両地域の関係性が密接であると考えます。

このように地域間の密接度を距離測度として定義したものがDM_SCOREです。

「都心」ってどこ?「都心までの距離」はどうやって測るの?

私たちはよく「都心」という言葉を使います。

都市解析の研究分野では、仮想的に都心を設定し、各地点から仮想都心までの距離を算出して、その距離により各地点の都市活動を説明したり予測したりします。

では都心とは具体的にどこなのでしょう?また、各地点から都心までの距離はどのように計測すればよいのでしょうか?

一般的に都心とは「商業・業務機能が集積する中心市街地」を指すことが多いのですが、ここが都心!と場所を特定するのは難しそうです。

「都心までの距離」も、どこまでの距離を計測すればよいのか判然としません。

そこで各地域から全地域までのDM_SCOREの平均値について考えてみたいと思います。(DM_SCOREは「距離の公理」を備えているので、一般的に使われる距離と同じように四則演算できます。)

例として首都圏の区市町村を1つの地域とみなし、DM_SCOREの平均値を計算したところ、都心とみなされることが多い東京駅や丸の内がある千代田区に比べ、新宿区や渋谷区など西寄り地域のほうがDM_SCOREの平均値が小さい結果となりました。

つまり西寄り地域のほうが、より多くの人が時間・空間を共有している中心的な場所であることがわかります。

DM_SCOREが小さい(密接な関係を持つ)地域はどこ?

「クラスター分析」という言葉をご存じでしょうか?(クラスターとは英語で「集団」や「群れ」を意味します。)

クラスター分析とは、異なる性質のものが混ざり合った集団から、類似性のあるものをグループ化する手法です。

ここでDM_SCOREの値を地域間の距離とみなしてクラスター分析を行い、首都圏275の市区町村を15のクラスター(以下、空間クラスター)に分類しました。

つまり距離が近いものを同じグループ、遠いものは異なるグループとしました。

DM_SCOREは2つの地域間の距離なので、行政界の情報(県境や区境など)は含まれませんが、得られた空間クラスターの境界は行政界と一致していることがわかります。

これは行政界に存在することの多い河川など地理的障害が人の空間移動を規定し、人的交流がその影響を受けた結果、DM_SCORE値に反映されたためと考えられます。

普段私たちは行政界を意識することなく都市内を移動していますが、得られた空間クラスターから行政界が明確に浮かび上がっているのは大変興味深い結果です。

東京23区内には265の小ゾーンが存在します。(ゾーンとは、ここで使用したパーソントリップ調査の集計データの単位です。)

これらの小ゾーンを15の空間クラスターに分類しました。

首都圏の例と同じく、空間クラスターの境界が区境と一致していることがわかります。

しかしよくみると、1つの区が1つの空間クラスターを形成(例:足立区)していることもあれば、1つの区が複数の空間クラスターを形成(例:世田谷区)していたり、複数区が1つの空間クラスターを形成(例:板橋区・北区)している場合もあることがわかります。

これは空間クラスターの形成要因として鉄道路線域が影響しているためと推測されます。

つまり人の都市内移動は鉄道路線や地理的障害に規定され、それがDM_SCORE値に影響した結果、同じ鉄道沿線域の地域間のDM_SCORE値が小さくなり、同じ空間クラスターに分類されたと考えられます。

DM_SCOREってどんな場面で役に立つの?

さて、少々面倒な数学的議論を行ない、しかも人の動きをもとに計測した地域間距離DM_SCOREはどんな場面で役に立つのでしょうか?

アンケート調査の集計単位

アンケート調査の集計単位(空間範囲)を例に説明しましょう。

まずアンケート調査区(空間範囲)の要件として、対象地域は4つのゾーンから成り、各ゾーンには下図のように住民が分布(居住)していると仮定します。

このとき対象地域を2つの地域(空間クラスター)に分割し地域特性を捉えたい場合にどんな問題が生じるかを考えます。

左上のように分けると、居住者の分布に偏りが生じます。各調査区には、ほぼ同数の居住者がいるほうが望ましいので、右上のように分けるほうがよいと考えられます。

要件①
調査区は、居住者の空間分布のエントロピーが大きくなるように設定することが望ましい。

エントロピーが大きいとは、特定箇所に偏在することなくバラバラに分布していることを意味します。

アンケート調査項目への回答

次に調査項目に対する回答の分布です。

ある項目への回答が下図のように分布していると仮定します。


調査区を左上のように設定すれば、賛成に特化した調査区(左)か、反対に特化した調査区(右)かを明確に抽出できます。

ところが調査区を右上のように設定すると回答が平滑化され、空間分布の特徴(地域特性)を明確に抽出できません。

回答の空間分布の観点から、調査区は空間的な偏り(地域特性)を見失わないように設定することが好ましいと言えます。

要件②
調査区は、回答分布のエントロピーが小さくなるように設定することが望ましい。

全国の自治体では人口分布や地域特性などを考慮し、分析対象地域をいくつかのエリアに分けて調査区としているようです。

東京都 神奈川県 千葉県 埼玉県
市区町村の数 53 56 61 79
自治体による調査区数 7 8 11 10

表:1都3県に存在する市区町村の数と各自治体が設定している調査区の数

そこでDM_SCOREを使って同数の調査区を設定し、自治体による調査区と比較しました。

東京都の場合

両者の調査区は酷似していますが、23区の分類方法が異なっています。

DM_SCOREは交通手段の影響を強く受けることから、23区の中心から扇状に分割されています。

これに対し東京都の調査区は、中心部とその周辺部に分けて調査区を設定しているようです。

神奈川県の場合

DM_SCOREの調査区は、川崎市と横浜市を束ねて、この範囲を南北で2分割しています。

千葉県の場合

両者とも酷似している結果になりました。

埼玉県の場合

DM_SCOREによる調査区は、鉄道路線沿いの地域を東京方面から順に分割しています。

DM_SCOREによる調査区 VS. 自治体による調査区

このようにDM_SCOREから求めた調査区と自治体による調査区、どちらが好ましいか比較分析しました。

ここでは、住宅や住環境に関する社会統計調査(27項目に対して満足~不満足までの回答)を使いました。

この調査は市区町村を最小単位として実施されているので、調査区の要件①の点からどちらが好ましいかを検討できます。

分析の結果、「満足している」という回答について、27個の質問項目のうち約90%においてDM_SCOREの調査区の方が好ましいという結果が得られました。

つまり、居住者の住宅・住環境に関する肯定的な意識を抽出するためには、DM_SCOREを使った調査区の方が、2つの要件①②で優れていると言えます。

社会統計調査における課題

上記結果は、社会統計調査を実施する際、単純に空間的な隣接関係、人口規模、産業動態などをもとに経験的観点から調査区(空間分割)を設定してしまうと、地域特性を見失うリスクがあることを示唆しています。

つまり交通基盤などに基づく都市内移動は、居住者間の遭遇機会を高めるだけでなく、さまざまな価値観や意識形成、連帯感にも影響する可能性があると考えられます。

これは社会統計調査を実施する際に考慮されるべき課題であると思います。

おわりに

世界に目を向けると、様々な国や地域間で紛争問題が生じています。

今回DM_SCOREを使った計測・分析結果で定量的に示したように、時間・空間の共存性が意識の共有化や価値観の同化につながる傾向が高いとすれば、紛争が起こっている国や地域間こそ人的交流を活発に行い、より多くの時間と空間の共有を図ることが必要であると思います。

【参考文献】
大佛俊泰・村上彩夏:居住者の時空間共存性に基づく距離測度,日本建築学会計画系論文集, 第80巻, 第715号, pp.2001-2010, 2015

【執筆者】
大佛俊泰(おさらぎとしひろ)様
東京工業大学 環境・社会理工学院 教授
(略歴)
1988年 東京工業大学工学部 助手、1993年 東京工業大学工学部 助教授、2007年 東京工業大学大学院情報理工学研究科 准教授、2011年より現職。専門分野;建築計画学、都市計画学、地理情報科学、情報環境学
大規模な時空間データベースと数理モデルを活用し、都市・地域・人間行動に潜在する法則を研究。近年は、首都直下大地震を想定した地域防災計画のための基礎研究として、徒歩帰宅行動や広域避難行動などに関する数値シュミュレーション分析を行っている。

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空間情報クラブ編集部

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