CAD/GISが一般に使われ始めて40年以上が経ちます。
コンピュータの黎明期からその開発や普及に関わり続けてきたインフォマティクス 長島ファウンダーに、当時から現在までを振り返っていただきました。
目次
華やかな建築分野の道へ
私は1949年、東京で生まれました。
当時の日本は、東京オリンピック開催、新幹線開通、大阪万博開催等に沸き上がり、高度経済成長の始まる時代でした。
もともと将来は何か人の役に立つ仕事をしたいという思いがあり、大学では工学部を選択。建築か原子力の分野に進みたいと思っていました。
そんな時、丹下健三氏による代々木国立競技場をはじめ、斬新で大規模な建物が次々に出来ていくのを見て、華やかな印象のある建築の世界に興味を持ち、建築科を選択して、大学・大学院では内田祥哉教授の研究室に所属しました。
内田研究室では建築デザインとともに構法を研究しましたが、構法の中でもポピュラーなものがプレファブでした。
プレファブとは、あらかじめ部材を工場で生産・加工しておき、それらを建築現場で組み立てる建築工法のことです。今では当たり前のように使われている工法ですが、当時は建築現場で部材加工を行っていましたから、このプレファブという概念は画期的でした。
この構法を研究しているうちに、プレファブはコンピュータと相性がいいのではないかと感じるようになりました。
ある時、建設省(現在の国土交通省)の委員会で、建築図面の中で柱や壁の納まりの図形を描くアルバイトをしたことがありました。
そこで何度も同じ図形や線を引く作業をしている際に「どうしたら何度も同じ図形を描かずに済ませられるのだろうか」と思い始めました。
その後、現場施工が当たり前だった時代、某ホテルの最先端の建設現場を見学する機会があり、そこでバスユニットなどのプレファブユニットで建築物が構成されていくさまを目の当たりにしました。
そんな経験から、CADシステムへ強い関心を持つようになりました。
CADを学ぶためMITに留学
そのうちに雑誌や大学の先生から、海外にはコンピュータで建築を設計するCADというものがあるらしいということを知りました。
ぜひ留学して勉強したいと思い、先輩や周りの人のアドバイスを参考に、工学系で最高峰と言われているMIT(マサチューセッツ工科大学)を目指しました。
ちなみに、東京大学の修士論文は建築コストを統計分析する内容で、その際、毎日のように大型計算センターに通いました。今では懐かしいパンチカードによる計算でした。
当時、海外を目指すのが珍しかった時代。教授に推薦状を書いてもらったり、留学試験を受け、MITの入学許可を得て渡米したのが1974年7月。新学期(9月)の前にMITの製図室に下見に行った時のこと。
CADシステムのコンピュータがあるだろうと期待して行ってみると、東京大学の製図室と全く同じ雰囲気でした。要するに製図板にT定規と三角定規。驚くやら拍子抜けするやら。
何とかCADに触れる機会はないものかとカリキュラムを探してみると、ニコラス・ネグロポンテ助教授(当時)がCADを研究しているらしいということを知り、研究室を訪ねました。
ニコラス・ネグロポンテ教授との出会い
それが、Architecture Machine Groupという研究室で、CADシステムをはじめ、さまざまなコンピューターサイエンスの研究を行っているところでした。
ネグロポンテ助教授に頼み込み、修士論文(Master of Architecure in Advanced Studies)を書くことをとりつけました。
このArchitecture Machine GroupがのちにMITメディアラボとなりますが、私とネグロポンテ教授との出会い、MITメディアラボとのつながりはここから始まりました。
コンピュータに没頭したMIT時代
研究室には、建築だけでなく、コンピュータサイエンスを学んでいる学生もおり、ネイティブの機械言語をそのまま解読できる人、コンパイラ自体を作ってしまう人など、驚異的、天才的な能力を持った人たちに囲まれて大いに切磋琢磨する日々を過ごしました。
現在のようにプログラムのデバッグを簡単に行えなかった当時、研究室のコンピュータではインタラクティブにデバッグを行い、いとも簡単にバグ発見できるなど、期せずして最先端の環境に身を置くことができました。
研究室には毎週水曜日にコンピュータの使用予約表が貼り出されるのですが、水曜日になると急いで1週間分の午後6時~夜中12時までの時間帯を予約して、約1年ほどは土日の休みもなく論文のプロジェクトの開発に没頭していました。
以下の写真は私自身がコンピュータの授業で使った40年前の教科書。この本の著者のジョン・ドノヴァン教授の授業に深く感銘し、今でも大事に保管しています。
『Systems Programming』 (McGraw-Hill computer science series) by John J. Donovan
ドノヴァン教授はこの本の中で「コンピュータとはsorting(分類する、整列する)とsearching(調べる、探す)を行うマシンである」と端的に表現しています。
私は、どんなにコンピュータが進化しても、この根本的な役割は変わらないと感じます。
この本に書かれているコンピュータ内でのsortingのアルゴリズムは、のちに渡英しApplied Research of Cambridge Limitedでプログラム開発に携わった際にも大いに役立ちました。
コンピュータの世界は奥深い
MITでコンピュータ内部の本質的な仕組みを学んだ経験は、現在でも活きています。
社内の開発業務においても、例えば、お客様から処理速度を上げて欲しいという要望を受けた場合、単純に表面的な解決を行うのではなく、問題の本質は何なのか、どこに問題があるのかを見極めて対応することが大事。
そういう点からもコンピュータの本質を理解するよう、開発スタッフにアドバイスしています。
コンピュータサイエンスは数学、物理学、化学などと同じNatural Science(自然科学)の1つですが、数学や物理学などが「真理を追求する学問」であるのに対し、コンピュータサイエンスは「Actionを遂行する学問」という違いがあります。これもドノヴァン教授が本の中で書いていたことです。
コンピュータは、デジタルな(数値化された)データを扱う機械。コンピュータが役立つのは、データが動く(Action)時です。コンピュータを利用したい時は、まずデジタルな情報が入手できるか、そしてその情報が動く(Action)かを見極めることが大事です。
コンピュータをどのように操り、私たちに役立つ道具にしていくのか。
学生時代から抱き続けているコンピュータへの興味は、今も尽きることがありません。