インフォマティクス 長島ファウンダーによるコラムの第2回です。
目次
OXSYS(オクシス)との出会い
東京大学からMIT(マサチューセッツ工科大学)に渡ってネグロポンテ教授と出会い、Architecture MachineGroup(AMG)に移籍。そこで論文を書く決心をした年(1975年)の夏休みに新たな出会いがありました。
この夏休み期間にAMGは、有名企業を招いてハードウェアやソフトウェアの最先端技術を紹介する講習会(サマーセッション)を開催しました。
このサマーセッションは、外部参加者の場合は結構な値段の参加費用がかかりますが、AMGの一員となった私は主催者側スタッフとして無料で参加できました。
サマーセッションでは、当時アメリカで一番の超高層ビル、シカゴのSears Tower(1973年完成。現在はWillis Towerに名称変更)の内装設計をCADシステムで行った事例発表を聴講。
さらに、当時まだ実用化前だったフラットタイプのプラズマ・ディスプレイも初めて見ることができました。
そのプラズマ・ディスプレイはネオンガス放電によるオレンジ単色のものではありましたが、とても驚いたことを覚えています。
サマーセッションでは、「OXSYS(オクシス)」というCADシステムの発表を見る機会もありました。OXSYSは、OxfordのSystemを由来としたシステム名です。
英国のOxford地方では、大戦後の医療施設不足を解消するために、プレファブ構法を採用して効率的に病院・診療所の建設を行っており、その設計を支援するCADシステムがOXSYSでした。
OXSYSを使用した効率的な医療施設設計はOxfordメソッドと呼ばれ、これを発表したのが、たまたま夏休みでボストン(アメリカ)に帰省中だったジョン・ギボンズ氏でした。
イメージどおりの設計手法|Oxfordメソッド
Oxfordメソッドは、システムズビルディングの手法とコンピュータを連携させて設計する手法。まさに私が思い描いていた建築とコンピュータの組み合わせそのものでした。
その秋以降、AMGで修士論文のためのプロジェクトに注力し、毎日午後6時~夜中までコンピュータを使いました。そして、プロジェクトの成果も段々と認められるようになり、ティーチングアシスタントとして奨学金も支給されるようになりました。
年明け(1976年)1月、どうしてもOXSYSの開発現場を見学したいと思い、Independent Activities Period (IAP)という興味を持った活動に自由に時間を費やせる期間を利用して英国に行きました。
英国滞在中は、Oxfordメソッドを開発しているOxford Regional Health Authority (ORHA:地域厚生局)のほか、CADシステムを開発している団体や実務にCADを利用し始めている団体をいくつか訪問。ORHAでは、コンピュータで医療施設の設計を行っていました。
ORHAでのミーティング中、期せずしてOXSYSを開発しているApplied Research of Cambridge Limited(ARC)(1969年設立)のChairman、エドワード・ホスキンス氏に遭遇しました。
彼は「君はCADを使うことに興味あるのか?それともCADを作ることに興味があるのか?」と質問しました。
私が「CADの開発に興味がある」と答えると「CambridgeのARC社にCADを見に行ってはどう?Cambridgeを訪れる予定はあるの?」と聞いてきました。
当初その予定はなかったので「予定はない」と答えると、「Oxfordに来てCambridgeに行かないまま帰ってはダメだ」と言われました。
そこで予定を変更し、日曜夜Cambridgeに泊まって、翌朝ARC社を訪れることにしました。
コンパクトな街|Cambridge
Oxfordと比べてCambridgeはコンパクトな街。Cambridge大学の門が並んでいて、まるで中世の騎士が出てきそうな雰囲気でした。
翌朝予定通りARC社を訪れ、OXSYSシステムの詳細な説明を受けたり、デモを見せてもらったりして大きな感動を覚えました。
もちろん、MITでもコンピュータを使ってCADシステムを開発しているのですが、ARC社で開発しているOXSYSは既に建設設計に使われ始めていて、建築物の実績もありました。
ARC社はCambridge大学の研究者が1969年に設立した、社員数10人程度のベンチャーで、大学の研究室のような雰囲気の会社でした。
左写真出典:"KingsCollegeChapelWest" by Andrew Dunn - http://www.andrewdunnphoto.com/.
Licensed under CC 表示-継承 2.0 via WikimediaCommons - http://commons.wikimedia.org/wiki/File:KingsCollegeChapelWest.jpg
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イギリス訪問時に私が作成したレポートは、MIT研究室のニュースレターに掲載されました。
レポートを読み返してみると、イギリス滞在中の体験がいかにインパクトがありワクワクするものだったかが伝わってきます。
MITに戻り、卒業後のことを考えた時、やはりARC社で働きたいという気持ちが強くなりました。
Oxfordでホスキンス氏と出会わなければ、Cambridgeに行くこともなかったしARC社との出会いもなかった。現在の「インフォマティクス」という会社も存在していなかったかもしれません。