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My story|空間情報と歩んだ40年 第4回

インフォマティクス 長島ファウンダーによるコラム第4回です。

OXSYSの特長と難点

OXSYSは、コンポーネント化した3Dの部材を組み合わせ3次元で設計するシステムでした。(のちにOxfordの病院建築だけではなく、一般の建物の設計用にBDS(Building Design System)というシステム名に変更しました。)

部品は3次元で直方体の形状をしており、図面を描くためのグラフィックスデータ(円弧など)が付加されていただけでなく、部品の仕様やコストなどの様々なデータ(属性データ)を付加することもできました。

部品(直方体)を建物のデザインに従って配置し、建物の3次元モデルがコンピュータに作られるのです。

3次元モデルを水平に切ると平面図が描けます。垂直に見ると立面図が描けますし、切断すると断面図が描けます。

3次元モデルがあるのですから、斜めに見れば、透視図も描けるのです。建物に配置されている部品の属性データも集計できるわけです。

OXSYS(BDS)は、当時すでにBIM(Building Information Modeling:コンポーネントのもつ形状情報や属性情報のデータベースを建築設計・管理・施工に用いる手法)のしくみが実現していたのです。

しかしOXSYS(BDS)には大きな欠点がありました。3次元の部品が全て直方体で、それらが直交して配置されていたので、四角い建物の設計にしか向いていなかったのです。

劇場のような曲線を利用した設計や斜めになっている複雑な壁の形状、外構などの自由な曲線を表現するのが難しいのです。

そこで、直方体の部品で3次元的に建物を設計することを諦め、自由な曲線を2次元で表現するシステムが考案されます。

1978年頃から開発が始まったGDS(General Drafting System)システムです。

これは2次元の線を描くシステムですが、基本的に部品の概念はObjectと命名して残し、属性データをObjectに付加できる機構を組み込みました。その意味で、BIMの機能もある程度備わっていたシステムといえます。

ARC社で過ごした1976年から1981年の約5年間、私はGDS開発チームに所属し、BDSやGDSの開発に従事しました。開発業務だけでなく、時にはデモやシステムのインストールなど、サポートや営業的なあらゆる仕事を担当したことは大変良い経験となりました。

営業支援の仕事で特に印象に残っているのが、BDSを使用して校舎の設計をするスペインでのプロジェクト。

まる1週間働きつづけ、最後の3日間は徹夜状態でA2版120枚の図面を仕上げた月曜日、クライアントもARC社のスタッフも図面を見てとても驚き、感謝の言葉をもらいました。

そのプロジェクト成功のご褒美としてスペイン旅行をプレゼントしてもらったことが(クライアントから宿泊代、ARC社から飛行機代が支給)今でも印象深い思い出として残っています。

この時の経験のように、自分自身つねに相手の予想を超える仕事、相手に感動を与えるような仕事をしたいと思ってきましたし、社員に対しても、相手を驚かせるような、あるいは相手の期待以上のアウトプットを出して欲しいと思っています。

そして、そんな社員にはご褒美を与えたくなります。これは無理なことではありません。

コンピュータには、人間の能力をはるかに凌ぐ力が備わっています。それをうまく引き出すことが、コンピュータを利用する根幹だと思うからです。

GDSが大規模設計プロジェクトを支援

1980年、GDSは初めて設計事務所への導入が決まりました。

導入先はScott Brownrigg & Turner(SBT)という設計事務所で、イギリス最大の空港・ヒースロー空港第4ターミナル(1986年4月完成)の設計プロジェクトに利用することが導入目的でした。

当時、建築の実施図面を描く場合には専任の製図者を雇うのが一般的だった時代。SBTは製図者の代わりにGDSを採用し、コンピュータで図面を描くことを選びました。

ヒースロー空港第4ターミナル

<出典>"Heathrow LON 04 07 77" by Mario Roberto Duran Ortiz (Mariordo) -
Own work. Licensed under CC BY 3.0 via WikimediaCommons - http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Heathrow_LON_04_07_77.JPG
#mediaviewer/File:Heathrow_LON_04_07_77.JPG

そのプロジェクトでは6年間に渡りGDSが活躍し、建物の完成を支援しました。のちに、当時のプロジェクト担当者だった建築家にGDSのメリットを聞いたことがあります。

「図面を効率的に描くことができた」と言われるのかと思ったら、彼は「ドアの仕様をまとめるのに威力を発揮した」と答えました。まさにBIMの世界の話で、今でもそのことが印象に残っています。

この時、CADシステムは単に図面を描くだけでなく、建築設計に関わるいろいろな付属情報を扱うことも大事なのだと確信しました。

1978年~1980年、私は主にGDSの開発に関わりました。GDSのユーザーのコマンドを受けるサブシステムの中で、言語要素を受け付ける部分を担当しました。

ユーザーがGDSに向かって指示をする要素です。つまり、座標値(画面やKeyboard、Tabletなどからの座標値)、距離、角度、日付、デバイス名、ファイル名、Object名、文字列、数字、属性符号、ラインスタイル名、文字スタイル名、等々の形式の値を間違いなく読み込む仕組みです。また、XMULTIPLOTのサブシステムなども担当しました。

基本的にGDSは図面を描くシステムです。図面には文字が必要です。日本で使われる図面には、当然日本語が記載されますので、GDSで日本語の文字(かな、カタカナ、漢字)を組み込む開発と組み込み作業が必須でした。

GDSには特殊文字を組み込む仕組みはあったので、それを使ってかなやカタカナを組み込むのは比較的簡単に実現できそうでした。

しかし、漢字の場合はかなやカタカナに比べて数が多いし、形状をデータベースに組み込まなければなりません。少なくとも2000字近い当用漢字を組み込む必要がありました。

この作業は勤務時間外に行ったため、完了までに約半年かかりましたが、日本語の文字を図面上に自由に描けるシステムは、世界初だったのではないかと自負しています。

1981年のお正月休み、久しぶりに日本に一時帰国した際、GDSのデモンストレーションを行いました。そのデモで見せた図面には漢字の文字が綺麗に描かれており、実用可能なシステムであることを提示できました。

その数年後、ハングル文字も組み込まれ、韓国でも実際の設計にGDSが使われ始めました。

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空間情報クラブ編集部

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