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産業界で進むDXの潮流に迫る|飲食・リテール(小売)業編

2月 26, 2021

少子高齢化の課題に直面しているのは建設業や製造業ばかりではない。

なかでも直接的な困難を抱えているのが飲食業やリテール(小売)業だ。将来的な市場の縮小は必至であり、リテール業界はネット通販などECに圧されている現状が、飲食業界は将来的な食糧不足が懸念されていることに加えて、コロナ禍による外食需要の低下が拍車をかける。

こうした苦境をデジタルトランスフォーメーション(以下DX)でいかに乗り切るのか、いくつかの事例を紹介したい。

非接触型の自動配膳ロボット

先日出先で昼食のためにラーメン屋のチェーン店に入った。

コロナ禍で飲食店はさまざまな感染対策を行っているが、この店も同様で席はアクリル板で仕切られ、注文はタブレットでできるようになっていた。

驚いたのはその先で、注文したラーメンを運んできたのが店員さんでなく、ロボットだったことだ。

ロボットが席のそばまで運んできたラーメンを受け取り、「おでこをなでてください」と書かれたとおりにすると、それがトリガーになっているのか、ロボットは帰っていく。これはなかなかの出来ではないか。

調べてみると幸楽苑ホールディングスが導入した「K-1号(ケー・イチゴウ)」と呼ばれるロボットで、配膳の標準的な動線である6~7メートルの距離を30秒ほどで届けるのだという。人や物にぶつからないようセンサーとAIで制御する仕組みだ。

導入のきっかけは感染対策としての非接触の推進だが、同社では将来的な人手不足も考慮して導入のタイミングをうかがっていたという。

見たところ(繁忙時間帯は過ぎていたが)調理含めて2人のスタッフで無理なく店を回しており、生産性が向上していることは素人目にも見て取れた。

ラーメンを運んできた幸楽苑の配膳ロボット「K-1号」(筆者撮影)

働き方改革と生産性向上を両立させる実験店舗

飲食業界でコロナ禍以前から積極的にDXに取り組んでいたのがロイヤルホールディングスだ。

同社では主力店舗のファミリーレストラン「ロイヤルホスト」で働き方改革の一環として24時間営業の廃止や定休日の導入、元日休業など思い切った営業時間の短縮を進めてきた。

驚くべくは、こうした改革の結果、落ちると思われていた売り上げが前年増を記録したのである(※コロナ禍前時点)。営業時間を短縮した分、ランチやディナーの配置人数を増やしたことでサービスが向上、結果として客単価が上がるという形で功を奏したのだ。

加えて同社が手をつけたのが生産性向上のためのDXだった。

2017年には実験店舗「GATHERING TABLE PANTRY」を馬喰町にオープンして、完全キャッシュレス決済で従業員の業務負担軽減への取り組みを始めている。

セルフオーダーの仕組みの構築や、火も油も使わずに美味しくて温かい食事を出すためにマイクロウェーブコンベンションオーブンを家電メーカーと一緒に研究して導入するなどのトライも行っている。

実験店舗でうまくいった仕組みはそのまま横展開することも視野に入れており、実際に有効性を発揮した掃除ロボットはその後ロイヤルホストにも導入されたという。

2019年には二子玉川ライズに「GATHERING TABLE PANTRY」の2号店がオープン、テクノロジーを活用した体験価値の向上に本格的に取り組んでいる(馬喰町店は2020年に閉店)。

「GATHERING TABLE PANTRY」店舗運営の仕組み(プレスリリースより)

「空いている」ことを価値に変えるDX

「行列ができる店」というコピーが示すように、かつて「混んでいる」ことは店の人気を裏打ちする指標であり、行列の長さは人気のバロメーターだった。実際人々は目当ての店に入るために長い時間並ぶことを苦にしなかった。

しかしコロナ禍においては「密」はできる限り避けるべきもの。世の中の流れはソーシャルディスタンスを確保できる「混んでいない店」を求めるようになった。

こうした「空いている」ことを価値に変えるDXの新しい形が、ITスタートアップ企業のバカンが運営する混雑可視化するサービス「VACAN」だ。

VACANはレストランやカフェ、トイレなど、あらゆる空間の空き情報をリアルタイムで検知・配信するサービスで、情報の収集からアウトプットまで一貫となりSaaSとして提供されている。

情報のインプットはセンサー(自社開発)で自動収集するものから、手動で「IoTボタン」(こちらも自社開発)を押すような方法などバラエティに富み、配信にも地図プラットフォームに掲載する方法や店のホームページの組み込む方法、LINEのメニューに出してリンクさせる方法、デジタルサイネージに表示する方法など多彩なアウトプットが用意されている。

2016年に立ち上がったバカンが最初に手掛けたのは商業施設などでトイレの空き情報を提供するサービスだった。

その後店舗の空き情報の提供や、スマホや店頭のタブレットで整理券を発行して順番が来たら通知する待ち時間管理サービスなどさまざまな仕組みを開発して成長してきたタイミングでコロナ禍となり、需要が急騰した。

現在では空き情報とともに、お店が感染防止対策を行っていることも発信している。

同社の目指すところは「空き情報を活用することで店舗の壁を越えた人の流れをつくる」ことで、アフターコロナの地域全体の活性化にも期待がかかる。

また最近では災害時の避難所の空き情報を提供する取り組みも始めており、防災分野でも注目を集めている。

VACANの仕組み(バカン提供)

 

VACANのサービスイメージ(バカン提供)

衝撃を与えたAmazon GO

リテール業界はネット通販などのECとのし烈な競争が続いている。

近年ではリアル店舗のショーケース化(実店舗で品定めするが購入はネットを活用する)など新たな課題も出てきており、オムニチャネル化(リアルとネットの境界を融解することで顧客接点を増やす試み)やDXによる店舗のスマート化が必至となってきている。

リアル店舗のスマート化の先鞭をつけたのは、皮肉なことにECの雄であるアマゾンだった。それが2018年にシアトルに1号店をオープンした「Amazon GO」だ。

Amazon GOはいわゆるレジなし店舗で、あらかじめダウンロードしたアプリでQRコードをスマホに表示させて入店、購入する商品をショッピングバックに入れて、そのままゲートでQRコードを読み込ませてお店を出るだけで決済が完了するという「Just Walk Out Technology」と呼ばれる仕組みを実装している。

この仕組みを可能にしているのは店舗内に設置されたカメラやマイク、そして棚に設置されたセンサーだ。ディープラーニングにより収集したデータから人の動きをトラッキングして、たとえば一度手に取った商品を棚に戻した場合でも正確に対応するという、まさに未来的な店舗である。

開店当初は「無人コンビニ」として話題になったが、「レジレス」ではあるものの実際には「無人」ではなく、バックヤードではそれなりの人数の従業員が動いている。人を使わなくなったのではなく、人を本当に必要なところへ投入していると考えるのが正しい解釈だ。

レジレスにした効果は大きく、レジ待ちというボトルネックが解消したことはもちろん、レジ締めで金額が合わないなどといった従業員のストレスもなくなる。

その後Amazon Goの店舗は米国内で着実に増え、2020年にはレジレスの食品スーパー「Amazon Go Grocery」もオープンするなど、着実な広がりを見せる。

重要なことは、Amazon Goのゴールはレジを無人化することではない点だ。

購買履歴やセンサーで取得した店内の顧客の動きを分析することで、商品開発や仕入れ、商品の配置や導線など、マーケティングや店舗改良に生かしていくことこそが、このDXの本来のポテンシャルなのである。データドリブンな店舗経営とでも言うべきだろうか。

Amazon Goの利用イメージ(Amazonウェブサイトより)

国内のレジレス動向

国内の動向はどうだろう。

レジレスという点で日本版Amazon Goともいえるのが、2020年3月に高輪ゲートウェイ駅構内にオープンした「TOUCH TO GO」だ。

AIカメラを用いた無人決済システムを導入しており、顧客は商品を取って直接自分のバッグに商品を入れても、天井に設置したカメラと店内の赤外線や商品棚に設置した重量計のデータを組み合わせて誰が何を買ったのかをAIが判断する。

決済は交通系ICカードもしくはクレジットカードで、決済が完了するとゲートが開く仕組みとなっている。

同様の仕組みはJR目白駅の「KINOKUNIYA Sutto」にも導入されているが、こちらはカメラで商品の判定や顧客との紐づけを行うものの、レジレスではない。

AIカメラを用いた無人決済システムはTOUCH TO GOが開発しているが、同社ではこのシステムを「省人化の手段」と位置付けており、現時点でデータ分析などの機能を提供する予定はないという。

「リテールAI」で小売のDXをけん引するトライアルカンパニー

「リテールAI」(AIを用いた小売業のDX)を前面に打ち出しているのが、スーパーセンターを中心に国内261店舗を展開しているトライアルカンパニーだ。

もともとIT企業として設立された強みを生かし、業務アプリが入った従業員用のモバイル端末やデータ処理・分析、自動発注の基盤、会員カード・クーポン発行・商品の読み取り・決済などの機が統合された顧客用の買い物アプリも自社で開発している。

データ活用においては、600万人を超えるアクティブ会員をベースとして会員IDと連携したPOSデータを2007年から蓄積しており、自社開発の基盤システム「eSMART」を活用して解析を行っているほか、同じく自社開発の「リテールマップ」と呼ばれるWebGISで売上や会員数、来店者数、会員化率などのデータをメッシュや町丁目の区分に分解して、地図上でビジュアル化することで商圏分析などを行っている。

さらに同社では保有データを商品メーカーと共有する「MD-Link」というウェブサービスも公開しており、200社以上のメーカーと契約するなど、独自のビジネスモデルも確立している。

顧客マーケティングにおいては、たとえばレシートクーポンを従来の無差別な「ばらまき型」でなく、データ解析により顧客の属性分類したうえで、配布対象を絞り込んで効率よくクーポンを出す試みを行っている。

またこうしたクーポンの配布においても、メーカーを巻き込んだコラボレーションを積極的に取り入れている点も特筆できる。

また新たな顧客接点として、タブレットが取り付けられたスマートレジカートを導入もしている。ログインするとタブレットの画面の左にはカートに入っている商品、右側には使えるクーポンが表示され、ボタンを押すと「ポイント10倍」という表示が点いてクーポンが使えるモードになるほか、そのお客さんへのお薦め商品が表示される。

スマートレジカートを使用することで、顧客にパーソナライズされたレコメンデーションが可能になる仕組みだ。

さらに一部の店舗ではアプリによる決済はもちろん、サイネージやAIカメラも活用も始まっており、日本のリテールの雄としてさまざまなトライを重ねている。

スマートレジカートの仕組み

 

スマートショッピングカートを用いた買い物の流れ

 

スマートショッピングカートに表示される画面
(いずれもトライアルカンパニーウェブサイトより)

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遠藤宏之(えんどうひろゆき)様

地理空間情報ライター(地図・地理・測量・GIS・位置情報・防災)、測量士、GIS NEXT副編集長 著書:『三陸たびガイド』『地名は災害を警告する』『首都大地震揺れやすさマップ』(解説面)『みんなが知りたい地図の疑問50』(共著)他

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