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産業界で進むDXの潮流に迫る|建設業・製造業編

12月 28, 2020

日本社会が少子高齢化という構造的な課題に直面していることはご存知のとおりだが、とりわけ深刻なのが経済への影響だ。

このままでは将来的な国内市場の縮小や産業の担い手が不足することは避けられない。

市場の課題については別の機会に譲るとして、本稿では担い手不足を克服するためのデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)について、いくつかの事例を紹介したい。

建設・土木における位置情報の活用

建設・土木分野は早くから技術革新に着手していた業種のひとつだ。

生産性を上げて人件費を削減することで利益増につなげることはもちろん、かつて「3K」などと言われた苛酷なイメージに起因する人手不足や、そのイメージを払拭する働き方改革を進めたいという事情もある。

国土交通省が建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す目的でi-Constructionの取り組みを始めたことも記憶に新しい。

メーカーも建機のICT化でサポートを行っているが、それ以外の部分でも現場の負荷を軽減するさまざまなDX導入事例がある。

鹿島建設ではマルティスープの協力の下、作業者の負荷軽減や機材のレンタル費用を抑える目的で、測位技術を活用した工事現場の遠隔管理による業務効率化に取り組んでいる。

たとえばビル工事の現場で人や資機材にビーコンを装着し、施設側にゲートウェイを設置し、それぞれの位置を検知する。

これによりソフトウェア(マルティスープのiFieldを利用)上で、現場の図面をベースに人や資機材のアイコンが表示され、対象の位置を把握することができる(逆にリストから探している対象を選択してその場所をハイライトすることも可能)。

担当者がどこを見回ったか、あるいは内装業者がどのフロアを施工しているかなども視覚化されるほか、資機材に別途センサーをつけることで稼働状況をモニタすることもできる。

また工事車両のリアルタイムな位置情報と組み合わせることで、現場の作業状況をカメラで確認しながら、生コン車の到着時間を確認しながらコンクリート打設を行うことが可能になった。

こうした取り組みからデジタルツインの実現も視野に入る。(※デジタルツインとは、フィジカル空間の情報をIoTなどの活用により、ほぼリアルタイムの情報をサーバに送り、サイバー空間内にフィジカル空間の環境を再現する仕組みのことをいう。)

現場(フィジカル空間)のモニタリングはもちろん、シミュレーション結果から将来予測を行い、サイバー空間で再現した結果を現場にフィードバックすることが可能になり、BIMとの連携でさらなる生産性向上が可能になる。

ソフトウェア上で作業者や資機材の状況を把握することで遠隔管理が可能になる(マルティスープHPより)

コロナ禍が生んだ遠隔操作工事の需要

i-Constructionでスポットライトが当たるICT建機だが、非常に高価であることから中小の建設会社への普及は簡単ではない。

2013年に創業したスタートアップ企業のARAVでは、既存の重機・建機に後付けが可能な自動運転・遠隔操作のプラットフォームを開発し、「現場作業のテレワーク化」という形でDXを実現している。

東大発のスタートアップとして2020年4月に立ち上げられた同社。当初は建機の自動運転システムでの事業展開を考えていたが、コロナ禍もあって現場から離れた場所から「テレワーク」で建機を動かせるWebコントローラーの開発へシフトした経緯がある。

建機Webコントローラーは前方・後方カメラと機器ボックス、通信アンテナから構成される。

通信用SIMが内蔵され、携帯電話の電波が届く範囲であればどこでも利用可能、スマートフォン、ノートパソコン、簡易オペレータールームなど多彩な稼業環境を選択できるのも強みだ。

2020年6月には静岡県富士市に1/14スケールモデルを用意して、東京都・滋賀県・福岡県のオフィスから建機Webコントローラーを使ったリアルタイム遠隔操作の技術検証を行った。

さらにその後油圧ショベルの実機に実装してダンプカーへの土砂積み込みを実際に遠隔操作(埼玉県→静岡県)で実施できることも実証したうえで事業化をスタートした。

現在は建機レンタル会社などを中心に、全国から引き合いがきているという。

ICT建機の導入が難しい現場でも、既存の重機・建機に後付けで設置することから、あらゆる建設現場を変えるDXとして今後普及が進むことが期待される。

簡易オペレータールームから建機Webコントローラーを利用して現場作業をテレワーク化する(ARAVウェブサイトより)

製造業の多様な課題に対応するモジュール化されたDXサービス

製造業もまた早くからDXに取り組んできた業種である。

生産性向上はもちろん、特定の人材に頼っていた技術の継承や横展開、歩留まり改善や人員配置の最適化などテーマはさまざまで、どのようなツールを導入するのかは担当にとって悩ましいところだ。

マクニカでは求めるDXのテーマに合わせて必要なソリューションモジュールを選べる、製造業向けDXサービス「Digital Synergy Factory」を提供している。

製造業のDXは最初が一番難しいとされる。

多くの場合、DXはデジタルデータを収集して課題を抽出、その要因をブレイクダウンしながらそれを解消するために適切なテクノロジーを当てていくという方法がスタンダードになっている。

しかし最初の段階ではそもそもデータが取得されていない。そこから始めて実際の業務改善にたどり着くには膨大なリソースと時間を要することになるため、担当者の負荷は大きく、途中で挫折してしまうケースが多いのだ。

Digital Synergy Factoryは「業務・工程課題×テクノロジー×知見」をモジュール化したサービスで、必要なモジュールを自由に組み合わせることで、幅広い業種の段階的なDXをサポートする仕組みとなっている。

Digital Synergy Factoryの概要(マクニカ提供)

ここでカギを握るのもデジタルツインの考え方だ。

工場におけるモデルを構築して、バーチャル空間で各種のシミュレーションを行い、フィードバックすることで生産フローや人員配置、在庫管理などに活用する。

たとえば「ここに在庫がたまっている」といった具体的な課題を可視化して経営陣や現場と共有し、在庫を減らしたら納期にどう影響するのかをシミュレーションで試すといったプロジェクトの進め方が可能になる。

業務改善にはトライ・アンド・エラーが必須だが、現実空間ではエラーは許容しにくい。そこでデジタルツインのシミュレーション技術を使おうという試みだ。

Digital Synergy Factoryではデータが十分にない初期段階でも大まかな精度のモデルを構築することが可能で、その後データを蓄積することで精度を上げていくような段階的なDXの進め方が容易になっている。

製造業では、今後同じ製品を大量生産するマスプロダクションから、ニーズに合わせた多品種に対応するマスカスタマイゼーションへのシフトが進んでいくとされる。

多品種少量短納期を実現するためには、複数の異なる生産計画を束ねなければいけない難しさがあるが、同サービスのシミュレーション技術を活用すれば、最終製品に組み上げるための部品の在庫と製品の需要変動を予測して、バランスを見ながら生産計画のプランニングも可能になる。

コロナ禍による需要の急変は、在庫のあり方から人員配置まで、製造業に大きな影響を与えている。ポストコロナ時代においても、製造号は刻々と変化し続ける課題に迅速に対応する形でDXを続けていくことが求められる。

同サービスのモジュール化されたソリューションの強みが生きる時代といえるかもしれない。

屋内測位を活用した製造ラインの可視化

工場内の動線改善や生産性向上のために、屋内測位を活用する事例も増えている。

前出のマルティスープは、衛星測位の信号が届かない工場・倉庫・商業施設などを対象に、屋内測位を活用した可視化プラットフォーム「iField indoor」を提供している。

BLEビーコンなどを活用することで、人やモノの動きを見える化して、ボトルネックを抽出、その改善を重ねることにより生産性向上を実現するという仕組みだ。

同システムを導入した不二越ロボット製造所では、それまで利用していた生産進捗管理システムが複数の工程をブロック括りで管理する仕組みだったことから、単一工程ごとの進捗の把握に時間がかかり、対応が遅れるという課題を抱えていた。

しかし屋内測位を使ってすべての仕掛品の位置を見える化することで、ボトルネックとなっている工程を把握し、作業フローやレイアウトを最適化することでKPI 指標を改善することに成功している。

測位対象となる仕掛品(ロボット)にビーコンをつけることで位置を把握し、工程進捗の見える化を行った。

ビーコンと取り付けられた仕掛品の製造番号を紐づけて登録することで、その仕掛品がどの工程にあるのかがツールの画面上で見える化した。

その結果特定の製造工程で仕掛品の停滞が確認され、その原因を解析して解消のために工程の順序を組み替えたところ、全体の流れが劇的に改善された。

平均リードタイムや平均仕掛在庫数はそれぞれ大幅に削減され、在庫回転率も改善されたことが確認された。

また、工場のレイアウト変更に伴い、全工程を通じた運搬時間が1/2に、移動距離も1/3に減少するといった効率化も達成した。

屋内測位により仕掛品が工場内のどのエリア(工程)にあるのかが可視化される(マルティスープHPより)

位置情報を活用したDXの成功例だが、不二越では次のDXとして、作業者を見える化することで、人的資源を最大限に活用することを段階に踏み込んでいるという。

人のムダな動きをなくすことで、作業者の負荷軽減と生産性の向上を同時に達成しようというものだ。

DXは業種によりテーマが異なる。それぞれの課題を適切に把握し、最適のテクノロジーをあてることで、DXははじめてその効果的を発揮する。

生産性の向上は、利益はもちろん、作業者の負荷軽減など働き方改革にも通じるものであり、それこそが担い手不足という日本経済全体の課題の解決にもつながっていく。

産業界のDXはもはや避けては通れない道なのである。

 

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遠藤宏之(えんどうひろゆき)様

地理空間情報ライター(地図・地理・測量・GIS・位置情報・防災)、測量士、GIS NEXT副編集長 著書:『三陸たびガイド』『地名は災害を警告する』『首都大地震揺れやすさマップ』(解説面)『みんなが知りたい地図の疑問50』(共著)他

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