人と星とともにある数学 第45回

正方形分割正方形問題 前編


清少納言知恵の板裁ち合わせ魔方陣と江戸時代の正方形パズルを紹介してきましたが、世界が挑戦し続け解決された正方形の難問を紹介します。

正方形分割正方形Squared Square ルジンの問題

Squared Squareを訳せば、正方形分割された正方形(正方形分割正方形)です。正方形を、すべて異なる大きさの正方形で重複も隙間もなく埋めることができるか?

ルジンの問題とも呼ばれるこの問題は、正方形がいかに美しく、そしていかに難しい存在なのかを物語ります。

正方形分割正方形の歴史をたどっていきたいと思います。面倒な解説ぬきに正方形分割正方形の絵を眺めていくだけで、その魅力は十分に感じてもらえるでしょう。

1902年、デュドニーの『カンタベリー・パズル』

1902年に出されたデュドニーの『カンタベリー・パズル』には114個のパズルが載っており、その40番目が“Lady Isabel’s Casket”(イザベル夫人の小箱)という問題です。

イザベル夫人の宝物の一つが木で細工された小箱でした。小箱自体が正方形で、その中も正方形で仕切られているというものでした。ただ、木箱の中には細長い黄金の細片(10インチ×1/4インチ)があるという条件が付いています。

問題は、それはどういう形をした小箱かということです。解答のページにある図が次です。正方形の真ん中の数は一辺の長さを表します。確かに、一辺が20インチの正方形の内部がすべて異なる大きさの正方形で分割されています。真ん中部分には10インチ×1/4インチの長方形が確認できます。

『カンタベリー・パズル』の“イザベル夫人の小箱”(1902年)
正方形の真ん中の数は一辺の長さを表します。

デュドニーは、このパズルは細長い黄金の細片があるから解けるのであって、この条件なしにすべてを異なる正方形で埋め尽くすことは不可能であると言っています。

1903年に、デーンは次を証明しました。

長方形の辺の長さの比が有理数であることは、その長方形が正方形分割できるための必要十分条件である。

この定理が後に正方形分割正方形の解決の大きな突破口になることになろうとは、デーン自身気づきませんでした。

1917年、単純不完全正方形分割正方形

1917年、ロイドによって次の正方形分割が発見されました。

ロイドによる単純不完全正方形分割正方形(1917年)

同じ正方形があるので、これは“不完全完”な正方形分割(単純不完全正方形分割正方形:Simple Imperfect Squared Square)と呼ばれます。

1925年、正方形分割長方形

1925年、モロンは次を発表しました。

モロンによる正方形分割長方形(1925年)

残念ながらこれは正方形ではありません。たしかに異なる大きさの9つの正方形で分割されていますが、縦32、横33の長方形です。

正方形の完全正方形分割ができるかどうかすらわかっていなかった1931年に、安倍道雄は注目すべき研究を行いました。長方形の正方形分割には9つの正方形が必要であること、そして異なる正方形で埋められるいくらでも正方形に近い長方形が存在することを明らかにしました。

1938年、完全正方形分割正方形

1938年、スプレーグは正方形の完全正方形分割を発見しました。
一辺が4205の正方形が、すべて異なる55個の正方形で埋め尽くされています。

スプレーグによる完全正方形分割正方形(1938年)

確かに、これはこれまでにできないとされていた正方形をすべて異なる正方形で埋め尽くすことができた、記念すべき最初の例です。

しかし、これは正方形の中に二つの大きな長方形を見つけることができてしまう特殊な完全正方形分割です。デュドニーの『カンタベリー・パズル』の問題にもあった制限がすべてなくなってはいない、もうあと一歩の答えでした。

1939年、単純完全正方形分割正方形

1939年、ついに制限をすべてなくした完全正方形分割がブルックスによって発見されました。一辺が4920の正方形を38個の正方形で埋め尽くしています。

先ほどのように、内部に長方形はありません。これを単純完全正方形分割正方形(Simple Perfect Squared Square)といいます。

ブルックスによる単純完全正方形分割正方形(1939年)

次回後編では、単純完全正方形分割正方形の最終解答と驚異の日本人が登場します。

執筆者ご紹介  桜井進(さくらいすすむ)様
1968年山形県生まれ。
サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。
(略歴)
東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。
理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。
公益財団法人 中央教育研究所 理事。
国土地理院研究評価委員会委員。
2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。
全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。
著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。