人と星とともにある数学 第44回

魔方陣

江戸時代の正方形パズルに挑戦 その3

方とは四角

第42回「清少納言知恵の板」第43回「裁ち合わせ」と続いてきた江戸時代の正方形パズル、今回は魔方陣。

「まほう」ときけば、魔法が思いつくでしょう。魔法陣と間違えてしまっても無理はありません。方とは正方形が表すように「四角」を意味する言葉です。魔方陣とは、魔の四角の形をした陣地という意味です。

魔方陣のルール

魔方陣は表の中に1からマス目の総数までの数字を配置し、同じ数字を2度と使わないこと、そして計算結果は紙に書き出されることがルールです。

最も基本的な縦横3列の魔方陣は、3次の方陣または3方陣とよばれ、縦、横、斜めの和はどれも15です。3方陣の定和は15であるといいます。

魔方陣の歴史

最も古い魔方陣は中国のもので、漢代の『大載礼記(だいさいらいき)』(紀元前1世紀~1世紀)にあるとされている3方陣。宗の楊輝の『楊輝算法』所収「続古摘奇算法」(1275年)や明の程大位の『算法統宗(さんぽうとうそう)』(1592年)にも10次までの魔方陣が記されています。

6世紀、インドでは4方陣が香料のブレンドのために使われ、10世紀には2から18を使った3方陣(定和30)が安産のための呪術的医療のために使われたといいます。1356年、ナーラヤナは『ガニタ・カウムニディ』で14方陣まで述べています。

10世紀後半、イスラムの神学教科書の中で9方陣まで示されています。アル・ブーニー(1225年没)は『方陣と占星術の学問についての真珠の首飾り』において7惑星と魔方陣を対比させています。

14世紀、魔方陣はビザンチンからヨーロッパに渡りました。ドイツの画家デューラー(1471-1528)は銅版画「メランコリーI」に4方陣を掲げました。ドイツの修道士シュティフェル(1487-1567)──√記号の本格的使用で知られる数学者でもある──を数学的に研究しました。

デューラーの銅版画「メランコリーI」にある4方陣

拡大したもの

17世紀にはフラン数の数学者フェルマー(1607-1665)、18世紀になるとスイスの数学者オイラー(1707-1783)らが魔方陣の研究を行っています。

日本の魔方陣

日本では、江戸時代に魔方陣の研究が盛んになりました。中国の数学書、朱世傑の『算学啓蒙』と程大位の『算法統宗』の2書が魔方陣研究の発端でした。

関孝和は『方陣円攅之法(ほうじんえんさんのほう)』(1683年)で、魔方陣の一般的解法を日本で初めて展開しました。「方陣」「円攅」(円陣)「格」(方陣のます目)という用語も関孝和によるものです。

関孝和の弟子、建部賢弘(1664-1739)の他、松永良弼(1692?-1744)、久留島善太(1690?-1757)、そして前回の裁ち合わせで紹介した中根彦循の『勘者御伽双紙(かんじゃおとぎそうし)』でも魔方陣は取り上げられています。

魔方陣はルールを変えたヴァリエーションがたくさん考えられました。完全方陣、対称方陣、親子方陣、立体方陣、完全立体方陣、包括方陣、星陣など。次のは円陣と呼ばれるもので、吉田光由『新編塵劫記』(1641年)が初出です。

吉田光由『新編塵劫記』の円陣

遺題(解答が見つかっていない読者への挑戦問題)として吉田が載せた円陣の問題の中には、350年後に解決したものもあります。

このように、日本での魔方陣研究は江戸時代の多くの数学者を魅了しました。パズルとしての入りやすさと、たし算だけの単純なルールにも関わらず、数学の研究にまで深みを持つ面白さが魔方陣にはあるからだと思われます。

西洋ではMagic Square

このように方陣が持つ魅力は魔法のようです。西洋ではMagic Square(魔法の正方形)と呼ばれることに納得です。魔方陣は魔法の方陣、魔法陣と呼ぶにふさわしいといえるでしょう。

執筆者ご紹介  桜井進(さくらいすすむ)様
1968年山形県生まれ。
サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。
(略歴)
東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。
理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。
公益財団法人 中央教育研究所 理事。
国土地理院研究評価委員会委員。
2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。
全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。
著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

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