こんにちは、インフォマティクスの空間情報クラブ編集部です。
今回は点、線、面の旅です。
点|3つあれば??
皆さんはこんな経験はありませんか?
テーブルに寄りかかるとこちらにガッタン、コーヒーを持ち上げるとあちらにカッタン。床は平なのに、何だかガタガタして落ち着かない。
こんな時、思い出すのが中学で習った以下の定義。
「任意の2点で一意の直線が決まり、3点で一意の平面が決まる」(*)
ある2つの点を通る直線は1本しかなく、3つの点を通る平面は1枚しかない、ということですね。
点が3つあると、もうそれで平面が1つに決まってしまうので、テーブルや椅子の脚が4本ある場合は、4本目の脚がその平面上にあるかどうかがポイントになってくるわけです。
4本の脚にA,B,C,Dと名前を付けると、A-B-Cが作る平面上にDも乗っていなければならないのですが、そうでない場合、Dは宙に浮いている状態なので、何かの拍子に(たとえばテーブルに肘を付いた時に)B-C-D で別の平面が構成され、今度はAが仲間外れになって、カッタンと傾く、というわけです。
(*)厳密には「一直線上にない任意の3点」ですね。
じゃあ、すべて3脚にすればよいのにと思うかもしれませんが、3脚のテーブルや椅子はバランスを崩しやすい、ということがあります。
重心の移動に弱い、とでも言いましょうか。そもそも物体が静止している状態は、「重心の鉛直線が、その物体が置かれている台との接触面を通過する状態」なので、重心が接地面から外れると倒れます。
下の図で言うと、緑の筒は安定していますが青の筒は倒れます。
テーブルや椅子のように「脚」で地面と接しているものは、その接地点を結んだ図形が接地面となりますが、脚の配置を同じようにした場合は、三角形より四角形のほうが面積が大きいので、より重心の移動へのキャパシティが大きいことになります。
3脚のテーブルだと、ちょっとテーブルの端っこに体重をかけるとひっくり返りますよね。3脚の椅子もそうです。
しかもコーヒーが滑り落ちないように面を水平にする必要もあるので、テーブルって、デザインだけでなく構造、機能の要件を満たす技術も必要なのですね。
一方、最低3点あれば平面が一意に決まりモノが固定できるので、カメラなどの3脚は足が3本でよく、4脚も5脚もある必要はないのです。
逆に「2脚の椅子」もあります。それはロッキングチェア。
床とは2点でしか接していないので、好きな角度に傾くことができます。あとはバランスですね。
でも、ロッキングチェアって落ち着くようでいて意外に落ち着かないのは何故なんでしょうね?自分でバランスを取らなければならないから?
線|直線って何?
テーブルと椅子を安定させたところで、ついでに「線」についても考えてみましょう。
「任意の2つの点を通る直線は一意に決まる」
つまり2つの点を通る直線は1本しかないわけですが、「直線」とは何でしょうか?
「点」の集合体?直線の端は点だということですが、「点」とはどういう形?直線を輪切りにして眺めるとどんな形なのか?
私たちが丸い地球の上に暮らしている以上、概念上は「直線」でも地球規模では「曲線」となりますね。
たとえば、A3の紙に直線を引いてそれを日本とアメリカの間でつなげていくと、2次元的には直線でも3次元的には曲線になってしまう。
ということは、私がA3の紙に書いたこの直線も、すでに曲線なのか?
いずれにしても、2つの点を定規で結んだ線が「直線」。これが現実。そしてこれは1本しか引けない。しかもこの直線は2点間を結ぶ最短距離である。
これを中学で習った時には、なんて素晴らしい事実だろうと思ったものです。
以前は「一意に決まる」とか「1本しかない」とか「答えは1つ」などという言葉が好きだったけど、いろいろ旅をするうちに「無限に存在する」ほうが居心地がよくなりました。
だから今は「ある1つの点を通る直線は無限にあり、2点を通る曲線は無限にあり、3点を通る曲面は無限にある」という定義のほうが好きです。
「無限にある」ということ自体は正解であり、それは同時に「正解がない」ということでもあるのです。
面|形を作るもの
街を歩いていると、点や線ではなく、いろんな「面」が目に入り、その手触りや光沢、模様や形なども気になってきます。
「点」が「線」になり、それが「面」になると途端に存在感が出てくるから不思議。面の端っこは線であるということも何となく納得できるし、実際、見たり触ったりできます。
すべての形は「面」からできている、と思います。街を歩くとその形の複雑さに驚きます。
「面」が形を作っているケースもあれば、「形」が面を作っているケースもあります。
たとえば下の写真。1つ1つの形が全体で1つの面を作っています。同じ「面」でも、その構成要素によって、ずいぶん雰囲気が違いますね?
万人に受け入れられ、覚えてもらいやすく、しかもインパクトのある形はなんといっても「丸、三角、四角」なのだそうです。それは「シンプル」だから。
シンプルなものはそれだけで美しいと感じるので、万人に受け入れられやすく、好き嫌いが少ない。安心感を与えることが多いし、飽きない。作りやすく、大量生産もしやすい。
しかし人間の体をはじめ、目に見える自然には完全な「丸、三角、四角」は存在しません。四角い顔といっても四角形ではないし、目をまん丸くして、といっても完全な円ではないし。
どんなにきれいに刈り込んでも、それが自然のものでないことは一目瞭然なのです。下の銀杏も、もともとは三角形ではなかったはずです。
人間も含め自然の造形物が、同じ構造物、同じ部品でありながら見た目が違い、しかも全く同じものはないということ。なのに人工物にはシンプルな完全形を求める。
自然の形と人工物のバランス。心地よいと思う空間配置。これが私たちの住む空間を豊かで魅力のあるものにしている要素の1つだと思います。
旅の締めくくりに、こんな素敵な「面」をご鑑賞ください。これはベゴニアの花で作られた面。自然物で作られた人工的な形。
今日と明日では全く違う面(つら)を見せる面。永続性がないからこそ、今を大切にしたいと思わせるような生きた壁。素晴らしい空間演出です。