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道路地図と表現技法
道路地図では、高速道路、国道、都道府県道といったような凡例を設けて道路の種別・区分・構造(幅員など)を表示している。
この分け方は、道路法や高速自動車国道法、国土開発幹線自動車道法、道路構造令その他の法令に示された区分に沿って設定したいところだ。
しかしこれら道路関係の法律は、道路管理者が道路管理のために作ったものなので、実際その運用の結果として現れる具体事象は、道路利用者や地図利用者の感覚とズレが生じることがある。
民間道路地図では、道路利用者に対して国土の道路網の全貌を紹介し、なおかつ「いい道」「走りやすい道」を積極的にアピールしたいのが基本姿勢である。
しかも現地での標識表記など、走行感覚が地図表現とフィットしていて欲しい。
これは、昭文社 道路地図の凡例の道路部分を見てもわかるとおり、むしろ大変シンプルな思想である。
図1 :『マップル全日本1/25万道路地図』
(2014年4月発行)凡例における道路種別
地図表現に必要な「翻訳」
ただし昭文社の地図データベースは、官庁用途・業務用途をカバーする汎用性も維持しなければならない。
そこで、上記の道路関係法令に基づく種別・区分をデータベースとして確保した上でこれを地図上で表現するためには、いささか「翻訳作業」を行う必要が生じる。
この翻訳対照を大まかに示したのが次の一覧である。
表1:法令上・構造上の道路種別・区分と道路地図上での表現区分の対応
(①~⑥は、「図1」の凡例に付した番号に一致する)
高速道路とは
とりわけ注意したいのは「高速道路」という用語は道路法等の正式な概念を表すものではない点だ。
昭文社では道路利用者の通念に照らして、次のような要件を満たす道路を便宜的に高速道路としている。
- 高速自動車国道法で指定された道路(有料・無料を含む)
- 出入口がインターチェンジに限られ、おおむね時速60キロメートル以上で走行できる構造の自動車専用道路(有料・無料を含む)
たとえば東京都世田谷区と横浜市を結ぶ『第三京浜道路』は、道路法上は「国道466号」の有料区間である。
しかし片側3車線の自動車専用道路であり、地図上は「高速道路」になるので、高速自動車国道法上の『東名高速道路』と同じような道路表現にしたい、となる。
秋田自動車道など地方部の「高速道路」では、本来、高速自動車国道として開通させるべきところを自動車専用クラスの「国道」として開通させたり、最近では高速自動車国道でありながら料金を徴収しない、いわゆる「直轄区間」があらわれたりしている。
つまり、『秋田自動車道』は北上ジャンクション(岩手県)から小坂ジャンクション(秋田県)まで一連の「高速道路」(一部建設中)として表現されているが、厳密には「有料の高速自動車国道」「無料の高速自動車国道」「有料の一般国道の自動車専用区間」「無料の一般国道の自動車専用区間」が混在している。
しかし、道路利用者としては、『秋田自動車道』は『秋田自動車道』として一体の「高速道路」として把握できるように表現されていて欲しい。
このように昭文社の道路地図データでは、道路の法令上の区分を確保しつつ、その翻訳にも耐える図式(レイヤ)を目指している。
表1はあくまでも概念を示したもので、実際の仕様ではこれら図式のそれぞれについて「幅員区分」または「車線数」、「トンネル部分」などの設定が加わり、道路利用者、地図利用者の感性になじむ表現のための基盤を用意している。