デジタル技術の活用によってビジネスや社会の課題を解決し、新たな価値の創出や社会の変革を目指すDX(デジタルトランスフォーメンション)。今回はこの取り組みを観光分野で推進する「観光DX」について紹介する。
インフォマティクスはデジ田交付金を活用したDX化を支援するため、自治体・消防機関・警察機関に向けた「デジ田空間情報メニューブック」をご用意しています。GISや地図を使ったデジタル化の施策検討に、ぜひご活用ください。
ダウンロードはこちらから >>
目次
観光DXの背景
コロナ禍の影響によって観光需要は全国的に大きく落ち込み、一時期はかなり厳しい状況にあったが、アフターコロナで行動制限解除後は、国内・訪日外国人のいずれも人流が回復しつつある。
しかし観光地ではコロナ禍で人員削減したことで人手不足が生じ、より効率的な経営が求められている。
観光業界はもともと高離職率、低生産性、デジタル化の遅れが課題だったことに加え、日本では今後さらに少子高齢化が進むことで旅行者数そのものの減少も予想される。
そのため観光業界では旅行者の利便性向上や働き手側の生産性向上への必要性が高まっており、その手段として観光DXが求められている。
観光庁は、人口減少が進む日本において、国内外との交流を生み出す観光を地方創生の“切り札”として位置付けている。観光DXを推進し、旅行者の消費拡大、再来訪を促して収益・生産性向上を図ることで“稼ぐ地域”を目指している。
観光DXはデジタル化による業務効率向上だけでなく、収集データの活用を通じた事業者間・地域間のデータ連携強化、さらには収益最大化も目指している。
データ活用でビジネス戦略の再検討や新たなビジネスモデル創出がもたらす効果が期待される。
出典:観光庁ウェブサイト
https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kankochi/digital_transformation.html
観光DX推進プロジェクト
観光庁は、観光サービス変革と観光需要創出を目指して産官学一体の取り組み「観光DX推進プロジェクト」を推進。2022年11月には公式ウェブサイトを開設し、ロゴマークも発表した。
観光庁は同プロジェクトで観光DXの取り組みとして以下の4つを挙げている。
旅行者の利便性向上・周遊促進
- 宿泊施設のウェブサイトやOTA(Online Travel Agent:オンライン旅行代理店)などによる情報発信
- 宿泊、交通、体験などの予約や決済を行える地域サイトの構築による利便性向上
- レコメンドの提供による周遊促進
観光産業の生産性向上
- PMS(ホテル予約システム)の導入による情報管理の高度化
- PMSおよびOTAなどで扱うデータの連係促進
- APIなどのデータ連携による地域単位での予約情報や販売価格の共有
観光地経営の高度化
- デジタル化やDXに関連する方針をまとめた観光地経営の戦略策定
- 旅行者の移動データや宿泊データ、購買データなどを用いたCRM(Customer Relationship Management:顧客関係性マネジメント)による再来訪促進
- DMP(Data Management Platform:顧客データを管理するためのプラットフォーム)活用による誘客促進
観光デジタル人材の育成・活用
- 産学連携によるリカレント教育(就職後の教育)の推進
- DMO(観光地域づくり法人:観光地域づくりの司令塔となる法人)を中心とした観光デジタル人材の育成支援
事例|観光DX推進プロジェクトの採択事業
観光DX推進プロジェクトのサイトでは、観光庁が取り組んでいる「持続可能性の高い観光地経営の実現に向けた観光DX推進緊急対策に係る実証事業」および「DXの推進による観光・地域経済活性化実証事業」の採択事業の紹介や、関連ウェビナーの告知情報を発信している。
出典:「観光DX推進プロジェクト」ウェブサイト
https://kanko-dx.jp/
実証事業の取り組みの中から、地理空間情報に関連したものをピックアップして以下に紹介する。
地域主体による観光客の下呂市周遊促進と拡大戦略下呂未来創造プロジェクト
乗換案内アプリにて市内の観光情報や経路検索サービスを提供し、市内周遊の提案や位置情報を活用したスタンプラリーによる周遊性向上を図るとともに、SNSを活用したプロモーションによる新規顧客の獲得を図った。
さらに、Wi-Fiパケットセンサーで市内全域の旅行者の動向データを収集・分析し、データを活用したマーケティング施策を行った。
ALLニセコ 多様なデータ集約による消費行動促進事業ニセコエリアスマートリゾート推進コンソーシアム
街中の店舗情報やゲレンデ内のリフト・シャトルバスの稼働状況を可視化した「ニセコデジタルマップ」や「トレイルマップ」を提供するとともに、行政・観光DMO、地域内事業者が利用できるデータ収集分析プラットフォームを構築して予約状況のデータ可視化や需要予測を行った。
地域の、地域による、旅行者の為の、音声AR P/F事業観光音声メタバースコンソーシアム
地図上の特定スポットを訪れると位置情報と連動して自動的に音声や音楽が聞こえる音声ARアプリ「Locatone(ロケトーン)を活用し、新たな旅の体験を提供した。
音声ガイドコンテンツはUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)化して観光協会職員や地域住民、学生など誰でも簡単に作れるようにする。データ解析ツールを活用し、周遊・消費の促進も目指す。
那須地域新観光DX戦略による地域リブラディング那須地域サイクリングDX推進
那須エリアでのサイクリングに関するウェブプラットフォームを構築し、ユーザーにサイクリングコースの情報を提供した。ガイドの同行がないセルフガイドツアーを紹介することで、ガイド人材不足の改善を図りつつ、利用者の満足度向上につなげた。地域内事業者の連携体制の構築にも役立った。
観光DXの課題
既にウェブサイトやSNSを通じた情報発信やインバウンド向け多言語対応に取り組んでいる自治体がある一方で、資金や対応スタッフの不足から取り組みが進んでいない自治体も多い。
観光DXに必要な技術知識をもった人材が不足していること、既設システムとの連携・業務内容の変更が困難であることも取り組みが進まない原因として挙げられる。
今後は関連事業者と連携しつつ、観光DXに関する知識を持つ人材の育成を図りながら、経済効果のデータをもとに地域内において観光DXの必要性について周知を図り、着実にDX化を進めていくことが期待される。
<参考>観光庁ウェブサイト「観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」「観光DX」