コラム 地図マニアな日々

地図にありがちな編集の罠

10月 12, 2018

地図は一定の図式に基づいて現実世界を記号化したものだが、そこには記号ゆえの表現の制約や作成の都合上、現況と異なってしまうケースもある。

今回はそんな事例をいくつか紹介してみたい。

水田なのか畑なのか

地形図ではその土地の様子を表すために、植生記号が定められている。植生記号は大きく分けると耕地の記号と未耕地の記号がある。

耕地は文字どおり農作物を作っている土地で、水田、畑、果樹園、茶畑が該当する。以前はこれらに加えて桑畑とその他の樹木畑があったが、現在は使われていない。

これも時代の流れだろうか。

桑畑はかつてあちこちで見られた記号だったが、養蚕の衰退で放置されることが多くなり、現地調査の際に荒地と見分けがつかないこともしばしばあった。

未耕地は農地以外の植生で、針葉樹林や広葉樹林、竹林、笹地、ハイマツ地、ヤシ科樹林、荒地が該当する。ヤシ科樹林はあまり多くないので、レアな植生記号といえるかもしれない。

耕地の植生はかつて植生界で囲んでいたが、現在の2万5千分の1地形図図式では植生界は廃止されている。

耕地の植生で多く見られるのが、水田と畑だろう。いずれも日本の農村景観を表すには不可欠な記号でもある。

都内にある我が家の近所にも農地がある。今の季節は稲穂がこうべを垂れて美しい景観を見せてくれる。しかし稲刈りが終わると野菜が植えられ、水田から畑へと変身する。いわゆる二毛作だ。

近郊農業をはじめ、二毛作は各地で普通に行われているが、こうした場合の植生記号はどうなるのだろうか。

結局のところ、地図のもとになる空中写真の状態、あるいは現地調査の時点の状態に依存することになる。

つまり写真撮影や現地調査の時点で水田ならば水田、畑ならば畑ととして表現されるのだ(周辺環境等を考慮して判断する場合もある)。

こうした「時点」による植生の違いは水田と畑だけでなく、休耕地や耕作放棄地の扱いでも時折見られる。

耕作放棄地は耕地ではないので一般的には荒地表示となるが、現地調査で休耕地と見分けがつきにくいケースもある。

このあたりは地図を読む人にとっても、作る人にとっても罠といえる。

赤丸で囲まれた2つの農地は空中写真ではいずれも畑だが、地形図の植生記号は左が水田、右が畑と異なっている(地理院地図)

温室やビニールハウスの取得のバラつき

農地には温室やビニールハウスがあるケースも多い。こうした施設は地図上でどのように表現されるのだろうか。

2万5千分の1地形図では、恒常的な温室については無壁舎記号で表現するのが一般的だ。

ビニールハウスの場合は季節性のものが多いため、通常は表現しない。しかし温室やビニールハウスの解釈は、編集者によって微妙な違いもあるのが現実だ。

たとえば、以下は高知県高知市から南国市にかけての海岸沿いの地図だ。

最初の図を見ると、中央の川より東には無壁舎が続いていることがわかる。一方、川より西側には無壁舎はなく、畑記号が点在している。

高知市から南国市にかけての海岸沿いの地形図(地理院地図)

2つめの図は同じ場所の空中写真だ。こちらを見ると、川の東西関係なく一面に温室(一部ビニールハウスもあるが)が広がっているではないか。

高知市から南国市にかけての海岸沿いの空中写真(地理院地図)

高知県は温室やビニールハウスによる野菜の促成栽培が盛んで、まさに空中写真に写っている温室がそれである。

しかし、地図上では半分だけ無壁舎表示があり、半分は普通に畑の表示になっている。なぜ一つの地図の中でこのような違いが出ているのだろうか。

実は中央を流れる川沿いに高知市(西側)と南国市の行政界がある。ちょっとわかりにくいが、よく見ると地図上には行政界が描かれている。

現在の地理院地図は、かつてのように全面的な写真測量で作成されているわけではない。市町村から提供される大縮尺図をもとに基盤地図情報が整備され、そこから地形図も編集されているのだ。

このケースでいえば、もとになった南国市の地図には無壁舎があり、高知市の地図にはなかったということになる。そのため行政界を境に表現が大きく異なっているのが現状だ。

どちらの市の地図が正しいという話でなく、解釈の違いということだろう。ただしこれをシームレスな地図として繋げると、このような違和感のある状態になってしまう。

このあたりはいずれ国土地理院側で改善してもらいたいところだ。

元資料の違いが思わぬ間違いを生むことも

筆者もかつては地図を作っていたが、一度大きな間違いを起こしそうになったことがある。

一般的に地形図を作る際には、空中写真からの図化を経て、図式に合わせた編集を行う。

既にある地図を修正する場合は、空中写真と地図を見比べながら変わっている箇所を抽出し、その部分を図化して修正するという方法をとっていた。

もちろん現地調査も行う。現地調査で空中写真に写っていない施設等が見つかった場合、図面等を入手して図化することになる。

ある時、空中写真から図化したデータが作業者から上がってきて、その後の編集を行うことになった。空中写真からの図化では、道路や建物はもちろん、等高線やガケなどの地形の情報も描画されている。

編集者は図化データをもとに、修正個所を周辺の地形と辻褄を合わせながら整えていく。

作業を始めると、大幅な修正図化がされている箇所があった。こうした場所は編集も非常に面倒である。図化データを見ると、まるで山間地のように何本もの等高線が描画されていた。

しかし修正前の図を見ると、その場所には工業団地がある。図化データどおりに描くならば、修正前に工業団地があった場所に山ができたことになる。

えっ、そんなことがあり得るのか?

もちろんこれは間違いだった。修正前の図を作った際に、工業団地は図面から図化されていたようで、今回図化に使った空中写真はそれよりも古いものだったのだ。

最初の段階でそのことに気づかずルーチンワークで作業を流してしまったため、図化オペレーターは写真に忠実に図化を行ってしまった。結果、あやうく工業団地を山に戻してしまうという大事故を起こしてしまうところだったのである。

もちろん実際には検査も含めた作業工程のどこかで間違いに気づくことにはなるが、地図作りにおいては、ときにこうした間抜けな落とし穴もあるという点を自戒も込めてここにカミングアウトしておきたい。

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遠藤宏之(えんどうひろゆき)様

地理空間情報ライター(地図・地理・測量・GIS・位置情報・防災)、測量士、GIS NEXT副編集長 著書:『三陸たびガイド』『地名は災害を警告する』『首都大地震揺れやすさマップ』(解説面)『みんなが知りたい地図の疑問50』(共著)他

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