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ネイピア数とは|自然対数の底eについて解説

ネイピア数とは

ネイピア数とは数学定数の1つであり、自然対数の底(e)のことをいいます。対数の研究で有名な数学者ジョン・ネイピアの名前をとって「ネイピア数」と呼ばれています。

つまり「ネイピア数=自然対数の底=e」となります。

このネイピア数が何を意味し、生活のどんなところに現われてくるのかご紹介しましょう。

ネイピア数eの定義

2.71828182845904523536028747135266249775724709369995…

人類のイノベーションの中で最高傑作の1つが微分積分です。

冒頭の数がその巨大な世界の礎となり、土台を支えています。この数は、ネイピア数eまたは自然対数の底と呼ばれる数学定数です。

湯飲み茶碗のお茶やお風呂の温度、薬の吸収、マルサスの人口論、ラジウム(放射性元素)の半減期、うわさの伝播、アルコールの吸収と事故危険率、水中で吸収される光量、そして肉まんの温度 etc.

これらすべてが次の数式によってうまく説明できます。

微分方程式

これが「微分方程式」と呼ばれるものです。

たった1個の数学モデルでさまざまな世界の多様な状況を表現できることは、驚きであり喜びでもあります。

例えば、湯飲み茶碗のお茶の温度とそれが置かれた室温の温度差をX、時間をtとすれば、式の左辺(微分)は「温度変化の勢い」を表します。

すると微分方程式は、温度変化の勢いが温度差Xに比例(比例定数k)することを表しています。kにマイナスが付いているのは、温度が下がることを表します。

入れたての時はお茶の温度は熱くXの値は大きいので、温度の下がる勢いも大きくなります。時間が経ってお茶の温度が下がった時にはXが小さいので、温度の下がる勢いも小さくなります。

お茶の温度は入れたて後に急激に下がり、時間が経った後ではゆっくり温度が下がることを私たちは経験で知っていますが、そのことを表したのが微分方程式です。

微分とは刻一刻変化する様子を表す言葉です。

ある時刻、その瞬間における温度の下がり方の勢いがどのように決まるのかを表したのが微分方程式です。

さて、方程式は解くことができます。微分方程式を解くと次の解が得られます。

温度X=(時間tの式)
微分方程式の解

したがってお茶の温度変化を横軸を時間軸としたグラフを描くことができます。

ではこの微分方程式がどのように解かれていくのか過程を追ってみましょう。

はたして温度Xは時間tの式で表されます。

「瞬間」の式である微分方程式を解くのに必要なのが積分です。積分記号∫をインテグラル(integral)と呼びますが、これは「統合する(integrate)」からきています。

瞬間を統合することで、ある時間の幅のトータルな結果を得ることができます。それが積分法です。

ここで重要になるのは次の積分です。

この対数が自然対数(natural logarithm)と呼ばれるものです。

1614年、ネイピアによって発表された「ネイピアの対数Logarithms」。天文学者ブリッグスにバトンタッチされて誕生したのが「ブリッグスの常用対数表」でした。

こちらの記事で「対数は指数なり」と説明したとおり、10の何乗部分(指数)を考えるのが日本語で常用対数と呼ばれる対数です。

2つの数をかけ算する場合に、それぞれの数を10の何乗と変換すれば、何乗という指数すなわち対数部分のたし算を行うことで、積は10の何乗の形で得られることになります。

ある数とその指数、すなわち対数の対応表が対数表と呼ばれているものです。

常用対数が底が10であるのに対して、自然対数は2.718…という一見中途半端な数を底とする対数です。

とにかくこのeという数を底とする自然対数のおかげで、最初の微分方程式を解くことができ、その解もeを用いて表されるということです。これを指数関数と呼びます。

お茶やお風呂の温度と時間の関係をグラフに表した曲線は「減衰曲線」と呼ばれます。

前述の例では、薬の吸収、ラジウムの半減期、アルコールの吸収と事故危険率、水中で吸収される光量、そして肉まんの温度は減衰曲線を描きます。

逆に時間とともに増加するのがマルサスの人口論、うわさの伝播で、これらが描く曲線は「成長曲線」と呼ばれます。

このようにネイピア数eのおかげで微分方程式を解くことができ、解もネイピア数eを用いた指数関数で表すことができます。

微分法と積分法が「微分積分」に統一

この定数eになぜネイピア(1550-1617)の名前が冠せられているのか、そもそもeはいかにして発見されたのか、多くの微分積分の教科書にその経緯を見つけることはできません。

eにまつわる謎を紐解いていくと、ネイピア数の原風景にたどり着きます。そもそも「微分積分」と「ネイピア」の関係で不自然なのは、時間があきすぎていることです。

微分積分の歴史は辿れば古代ギリシアのアルキメデスにまで行き着きますが、それは微分と積分がそれぞれ別々の過程を歩んできたことを意味します。

ばらばらに進化してきた微分法と積分法を微分積分に統一したのが、イギリスのニュートン(1643-1727)とドイツのライプニッツ(1646-1716)です。

彼らは微分と積分の関係に気づきました。微分と積分は、互いに逆の計算であることで、現在では「微分積分学の基本定理」と呼ばれています。

かくして微分法と積分法は統一されて「微分積分学」となりました。ニュートンとライプニッツは「微分積分学」の創始者なのです。

微分法と積分法が追いかけてきたターゲットこそ「曲線」です。微分法は曲線に引かれる接線をいかに求めるかであり、積分法は曲線で囲まれた面積をいかに求めるかということです。

ニュートンは曲線──双曲線の面積を考え、答えを求めることに成功します。

ニュートンの結果

確かにニュートンは曲線の面積を求めることができたのですが、まさかここに対数やネイピア数eが関係していることまではわかりませんでした。

この問題の背後にある仕組みを解明したのがニュートンのすぐ後に生まれたオイラー(1707-1783)です。

この計算こそ、お茶とお風呂の微分方程式を解くのに用いた積分です。

eという数とこの数を底とする対数、そして新しい微分積分が必要だったのです。オイラーはニュートンとライプニッツの微分積分学を一気に高みに押し上げました。

複利計算とeの関係

もともとのeは数学ではないところに隠れていました。複利計算です。

一定期間後の利息が元本に加えられた元利合計を次期の元本とし、それに利息をつけていく利息の計算法が複利法です。

元本+元本×年利率=元本×(1+年利率)が最初の単位期間(1年)の元利合計となるので、次の単位期間は元本×(1+年利率)を元本として、元利合計は元本×(1+年利率)×(1+年利率)=元本×(1+年利率)2となります。

したがって単位期間を1年とする1年複利では、x年後の元利合計は元本×(1+年利率)xとわかります。

例えば、元本100万円、年利率7%として10年後の元利合計は約196.7万円と計算されます。

さてこれと同じ条件で単位期間を短くしてみます。元利合計はどのように変わるでしょうか。

1ヶ月複利ではx年後(=12xヶ月後)の元利合計は、元本×(1+年利率/12)12xとなり、10年後の元利合計は約200.9万円と計算されます。

さらに単位期間を短くして、1日複利ではx年後(=365x日後)の元利合計は、元本×(1+年利率/365)365xとなり、10年後の元利合計は201万3617円と計算されます。

このように単位期間の利息が元本に組み込まれ利息が利息を生んでいく複利では、単位期間を短くしていくと元利合計はわずかに増えていきます。

そこで問題が生じます。

単位期間をどんどん短くしていくと元利合計はどこまで増えていくのか?この問題では、

 のような計算をすることになります。

オイラーはニュートンの二項定理を用いてこの計算に挑みました。

はたして、nを無限に大きくするとき、この式の値の近似値が2.7182818459045…になることを突き止めました。

結局、単位期間をいくら短くしていっても元利合計は増え続けることはなく、ある一定の値に落ち着くということなのです。

この数値で先ほどの10年後の元利合計を計算してみると、201万3752円となります。これが究極の元利合計額です。

究極の複利計算

ヤコブ・ベルヌーイ(1654-1705)やライプニッツ(1646-1716)はこの計算を行っていますが、微分積分学とこの数の関係を明らかにしたのがオイラーです。

それが、eを底とする指数関数は微分しても変わらないという特別な性質をもつことです。

eは特別な数

オイラーはこの2.718…という定数をeという文字で表しました。

ちなみになぜオイラーがこの数に「e」と名付けたのかはわかっていません。自分の名前Eulerの頭文字、それとも指数関数exponentialの頭文字だったのかもしれません。

ネイピア数「0.9999999」の謎解き

さらに、オイラーはeを別なストーリーの中に発見しました。それがネイピア数です。

ネイピア数は、20年かけて1614年に発表された対数表は理解されることもなく普及することもありませんでした。

ずっと忘れ去られていたネイピア数ですが、ついに復活する日がやってきます。1614年の130年後、オイラーの手によってネイピア数の正体が明らかになったのです。

再びネイピア数をみてみましょう。

ネイピア数

三角比Sinusとネイピア数Logarithmsをそれぞれ、xとyとしてみると次のようになります。

いよいよ不思議な0.9999999の謎を語るときがきました。

ネイピアの時代、小数はありませんでした。ネイピア数のxとyはどちらも整数である必要があります。ネイピアは、扱う数の範囲を1から10000000と設定しました。10000000を上限とするということです。

指数関数のグラフを考えることで0.9999999である理由がわかります。指数関数の底は1より小さければグラフは減少関数となります。

もし底が0.5であるx=10000000×0.5yを考えてみると、yを変化させたときxは急激に変化してしまいます。例えば、3173047と3173048という整数xに対応する整数y(対数)は存在しなくなってしまいます。

0.5の部分(底)を「1からほんの僅か小さい値」とすれば、減少関数の減少の度合いを極力おさえることができるということです。それが、0.9999999という値です。

すると3173047と3173048というxに対して、yはそれぞれ11478926と11478923という整数値が対応できます。

ネイピア数は実に巧妙にデザインされていたということです。このネイピアの対数に、天才オイラーが挑んでいくのです。

ネイピア数の復活

ネイピア数に用いられた2つの数0.9999999=1-10-7と10000000=107に注意して式を分解してみると、見たことがある次の式が現れてきます。

ネイピアは10000000を上限の数と設定したので、この数を“無限∞”と考えることができます。

するとネイピア数の中からeが現れてきたではありませんか。

驚くべきことに、ネイピア数は自然対数の底eを隠し持った対数だったということです。

こうしてオイラーはネイピア数に導かれる形でeにたどり着き、そしてeを手がかりに微分積分をさらなる高みに押し上げていったのです。

その結果は、1748年『無限小解析入門』にまとめられました。

かくしてeは「ネイピア数」と呼ばれるようになりました。ネイピアは、まさか自分がデザインした対数の中にそんな数が隠れていようとは夢にも思わなかったはずです。

1614年にネイピア数が発表されてから実に134年後、オイラーの手によってネイピアの対数がもつ真の価値が明らかにされました。

これまでの連載で紹介してきたように、三角比がネイピア数を導き、対数表作成の格闘の中から小数点「・」が発明され、ブリッグスとともに常用対数に発展していき、対数はようやく世界中で普及しました。

MIRIFICI(奇蹟)とlogos(神の言葉)

1614年にネイピアが記した著書が『MIRIFICI Logarithmorum Canonis descriptio』です。対数logarithmsはlogos(神の言葉)とarithmos(数)を合わせたネイピアの造語です。

MIRIFICIとは奇蹟のことですから、まさしくプロテスタントであったネイピアらしい言葉が並んでいます。

冒頭で紹介したように、現在、微分積分は強力な数学モデルとして私たちの役に立っています。オイラーが教えてくれたことは、対数なくして微分積分の発展は考えられないということです。

整数しか扱えなかった当時の「制限」が、前回の連載で紹介したネイピアによる小数点「・」の発明を導き、さらにeという数が仕込まれてしまう「奇蹟」を引き起こしたといえます。

そのオイラーは、ネイピア数eが秘めたさらなる秘宝を探り当てます。私たちはMIRIFICI(奇蹟)とlogos(神の言葉)の驚きの光景を目の当たりにします。

次回「オイラーの公式|三角関数・複素指数関数・虚数が等式として集約されるまでの物語」へと続きます。

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