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平面幾何|球 - GPS衛星【3次元測位の仕組み】

GPSとは

GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)は、アメリカ合衆国が打ち上げた約30基のGPS衛星のうち、上空を周回する複数の衛星からの信号をGPS受信機が受け取り、受信者が自身の現在地を知る測位システムです。

1973年に米国の軍事プロジェクトとして始まり、現在は米国空軍第50宇宙航空団によって運用されています。1990年代からは一般向けの利用も本格的に始まりました。

GPS衛星が発信する電波には、原子時計(衛星に搭載)による時刻データ、衛星の天体暦(軌道)の情報などが含まれています。カーナビなどのGPS受信機はGPS衛星からの電波を受信し、

(お互いの時刻データの差)×(光速)=(衛星との距離)

をもとにGPS受信機の位置(3次元座標)が得られます。

3次元測位の原理|球を表す連立方程式

GPS衛星からの電波に含まれる送信時刻および3次元座標をそれぞれt、(a, b, c)とし、地上のカーナビに搭載されるGPS受信機の受信時刻および3次元座標をそれぞれT、(x, y, z)とすれば、GPS衛星とGPS受信機の距離について

(x-a)²+ (y-b)²+ (z-c)²= c(T-t)   c:光速、299792458 m/sec

が成り立ちます。GPS衛星およびGPS受信機の情報──t、(a, b, c)とT──からGPS受信機の座標(x, y, z)を求めることを考えます。この式は未知数が3つ──x, y, zの方程式であることから、3本の式があれば3つの未知数が決定するはずです。

3基のGPS衛星のデータをt₁、(a₁, b₁, c₁)、t₂、(a₂, b₂, c₂)、t₃、(a₃, b₃, c₃)とすれば連立方程式は次のように表されます。

(x-a₁)²+ (y-b₁)²+ (z-c₁)²= c(T-t₁)
(x-a₂)²+ (y-b₂)²+ (z-c₂)²= c(T-t₂)
(x-a₃)²+ (y-b₃)²+ (z-c₃)²= c(T-t₃)

これらは図形的には球(の表面)を表す方程式です。まずは、図形的に3つの球の交点がどのように得られるのかをみてみます。

3つの球の交点は2つ

2つの球の交わりが円になる場合、その円に対して3つ目の球が交わると次の図のように交点が2つできます。3つの球の交点は2つあることが幾何学的にわかります。

連立方程式を解く

3基のGPS衛星の座標を(-1,-1,-1)、(-4,3,4)、(-2, 4,0)として3本の連立方程式を次のように作ることができます。

(x+1)²+(y+1)²+(z+1)²=29
(x+4)²+(y-3)²+(z-4)²=27
(x+2)²+(y-4)²+(z-0)²=22

これをPythonで解いてみます。SymPyモジュールのsolve関数を使えば連立方程式も容易にコーディングできます。引数には方程式の右辺を左辺に移項した形を代入します。参考:連載「Pythonで3次方程式を解く|Pythonで数学を学ぼう! 第35回

solve([(x+1)**2+(y+1)**2+(z+1)**2-29, (x+4)**2+(y-3)**2+(z-4)**2-27, (x+2)**2+(y-4)**2+(z+0)**2-22], [x, y, z])

出力結果は

[(-1649/283, 382/283, -163/283), (1, 2, 3)]

となり、確かに交点が2つあることがわかります。この様子を図示したのが次です。

この2点のうちの1点がGSP受信機の位置 (x,y,z) (上図のA)です。 もう1点(上図のB)は3基のGPS衛星が位置する3点で定まる平面についての対称な点となり、地球外にあることになり除外できます。

GeoGebraを使って3Dの関数グラフを描く

この図の作成にはWebアプリケーションGeoGebraを使いました。3Dの関数グラフでも容易に描かせることができます。

実際には4基のGPS衛星が必要

連立方程式

(x-a₁)²+ (y-b₁)²+ (z-c₁)²= c(T-t₁)
(x-a₂)²+ (y-b₂)²+ (z-c₂)²= c(T-t₂)
(x-a₃)²+ (y-b₃)²+ (z-c₃)²= c(T-t₃)

において受信時刻Tはカーナビに搭載されるGPS受信機の時計の値です。これらが正確であれば3本の連立方程式を解いて得られる解──GSP受信機の位置 (x,y,z) も正確な値です。

しかしGPS受信機の時計は、GPS衛星の原子時計に比べて正確ではないので3本の連立方程式の解も正確ではなくなります。そこで受信時刻Tも未知数とする必要があります。4番目のGPS衛星の送信時刻t₄、位置(a₄,b₄,c₄)とすれば4本の連立方程式は次のようになります。

(x-a₁)²+ (y-b₁)²+ (z-c₁)²= c(T-t₁)
(x-a₂)²+ (y-b₂)²+ (z-c₂)²= c(T-t₂)
(x-a₃)²+ (y-b₃)²+ (z-c₃)²= c(T-t₃)
(x-a₄)²+ (y-b₄)²+ (z-c₄)²= c(T-t₄)

つまり実際のGPS受信機の測位計算では、4つの未知数──GSP受信機の位置 (x,y,z)および受信時刻Tを求めるために、4つ以上のGPS衛星からの電波を受信しています。

さらなる測位精度向上のために|アインシュタインの相対性理論

実際にはこれだけではmオーダーの測位精度と計算結果の信頼性を実現することはできません。GPSには実に多くの技術が投入されています。

その中でも興味深いのがアインシュタインの相対論的効果の補正です。それも2つの相対性理論が登場します。

特殊相対性理論

GPS衛星が高速(時速14000km)で動くことから、GPS衛星の時計は地上の時計に比べて1日で120マイクロ秒ほど遅れます。

一般相対性理論

重力の影響でGPS衛星の時計は地上の時計に比べて1日で150マイクロ秒ほど早く進みます。参考:連載「数式鑑賞劇場|第6回 アインシュタイン方程式 1917年版

差引、GPS衛星の時計は地上の時計に比べて1日で30マイクロ秒ほど進むことになり、距離に換算すると数10kmの誤差になります。そこでGPS衛星側にてあらかじめ補正が行われています。

GNSS測位と電子基準点

アメリカによるGPSに続いて、ロシアではGLONASS、EUではGalileo、そして日本ではみちびき(4基の準天頂軌道の衛星)といった人工衛星を利用して地上の測位を行う衛星測位システムができました。これらはGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)と呼ばれます。

今回説明した3次元測位の原理は単独測位と呼ばれるGNSS測位です。航空機、船舶、自動車、携帯電話・スマートフォンなどのナビゲーションとして利用されており、誤差は10mです。

GNSS測位にはこの他に「相対測位」「DGNSS方式・RTK方式」「ネットワーク型RTK測位」といったものがあり、リアルタイムで数cmの誤差で測位することが可能です。このような高精度GNSS測位が使われているのが電子基準点です。

電子基準点はGNSSからの測位信号を受信し精密な測位を行っています。国土地理院によって全国に約1300か所設置されており、24時間365日、日本国土の観測を行っています。

地震発生時の地殻変動の即時把握、地震規模の即時推定を行うのが、電子基準点リアルタイム解析システムREGARD(リガード)です。

国土と数学の現場

今回のコラムでは、GPSの3次元測位の原理から測位精度と数学が直結していることを見てきました。

筆者は2016年から国土地理院外部評価委員を務めています。国土の精確・迅速な測位をするための国土地理院によるプロジェクトの詳細に接してきました。その中で、多くの数学の現場を目の当たりにして驚かされています。

 

インフォマティクスからのお知らせ

こんにちは、インフォマティクスの空間情報クラブ編集部です。

今回のコラムでは、数学的な観点からGPSによる3次元測位の仕組みを見てきました。
こうした原理が、日常生活や業務の中で正確な位置情報を活用できる土台になっていることがお分かりいただけたかと思います。

インフォマティクスは、このGPS/GNSSの仕組みを地図データと連携させ、災害対策・施設管理・インフラ点検・物件調査など、幅広い現場を支えるクラウドGIS「GC Maps(ジーシーマップス)」を提供しています。

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<参考>国土地理院ウェブサイト

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