事前復興の概要
2024年1月1日に発生した能登半島地震では、発災直後に地理的要因や情報の分断により、被害状況の把握に時間を要したことが課題となった。
大規模災害におけるこのような課題に対応するため、災害復興を迅速に進める考え方として「事前復興」という取り組みが進められている。
事前復興とは|防災・減災との違い
事前復興とは、災害が発生する前から、あらかじめ起こりうる事態を想定したうえで、被災後のまちをできるだけ早く復興できるようにするための取り組みである。
「防災」や「減災」が、住宅耐震化や防潮堤建設、ハザードマップ作成のように、被害を未然に防いだり最小限に抑えたりすることを目的としているのに対し、事前復興は被災後の住民の暮らしやインフラ立て直しに備えることを目的としており、防災・減災と並行して行うことが重要である。
この事前復興に大いに役立つのが、GIS(地理情報システム)である。
GISを活用すれば、刻々と変わる被害状況や避難状況を可視化・分析し、関係者間で情報共有することが可能となるため、情報分断の解消や、より速やかな復興につなげられる。
自治体に広がる事前復興の事例
事前復興の重要性が高まる中、全国の自治体でさまざまな取り組みが進められている。いくつか事例を紹介しよう。
静岡県富士市
大規模な自然災害が発生した際に迅速・着実に復興まちづくりを進めることができるように、復興の課題を想定し、その方向性や進め方を定めた「富士市事前都市復興計画」を2016年に策定した。
同計画は、復興方針を示す「復興ビジョン編」と、復興の進め方を示す「復興プロセス編」の2編で構成されている。行政職員向けに業務内容や手順を定めたマニュアルも策定した。
2024年から2025年にかけて市民懇話会を開催し、参加者からの意見をもとに計画改定を進めるとともに、災害を想定して復興を模擬体験する「復興まちづくり訓練」も行っている。
東京都杉並区
首都直下地震などによって被災した場合に備えて、事前復興まちづくりの方針策定を進めている。その一環として、事前復興をテーマとして区民と意見交換を行うミーティングや、震災後の復興まちづくりに関するアンケート調査を実施している。
静岡県交通基盤部
南海トラフ巨大地震などの大規模災害発生時における早期の復旧・復興体制の構築を目的として、2015年に「交通基盤部事前復興行動計画」を策定した。
本行動計画では、工事の効率化に向けて、以下の取り組みを進めている。
- 人材確保およびハード・ソフト両面での体制整備
- 円滑な復旧工事の着手に向けた入札制度の整備や用地の早期取得
- IT化の推進および航空写真の活用
事前復興を支えるデータ基盤|3次元点群データの活用
事前復興に資するデータとして、近年注目されているのが3次元点群データである。3次元点群データとは、XYZの座標情報の集合であり、物体や地形の形状を高精度に表現するために使用される。
デジタルツインの基盤となるデータとして、まちづくりやインフラ維持管理だけでなく防災分野にも活用されており、平常時に3次元点群データを取得しておくことで、災害発生時には発災前後のデータを比較し、地形の変化や流出した土量を迅速に把握できる。
静岡県では、航空レーザや移動車両(MMS)で県内各所を計測し、3次元点群データを取得・オープンデータとして公開する「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル しずおか)」プロジェクトを全国に先駆けて進めている。
2021年7月、熱海市伊豆山で発生した土石流災害では、3次元点群データを活用することで、土石流の起点付近に盛土が存在していたことを解析し、被害状況の把握に役立てた。他の都道府県でも3次元点群データの活用は進んでおり、活用事例は今後も増えていくと考えられる。
なお国土地理院は、2025年11月28日(金)、点群データの刊行範囲に北海道渡島・檜山地方、岩手県・宮城県の沿岸部、石川県能登地方および新潟県中越地方などを追加。2025年度末には北海道日高、十勝、釧路、根室地方の追加も予定している。点群データの活用により、浸水・景観シミュレーションの高精度化、防災・減災、復旧・復興への活用が期待されるとしている。
「VIRTUAL SHIZUOKA」特設サイト
(出典:https://virtualshizuokaproject.my.canva.site/)
能登半島地震におけるGIS活用事例|インフラ復旧を支えた仕組み
事前復興の中でも、電力・水道・ガスといった社会インフラの復旧に欠かせないのが、GISの拡充である。
GISは平常時からインフラ管理システムの基盤として活用されているが、災害時を想定したシステムを整備しておくことで、発災時の迅速な復旧が可能となる。
2024年1月の能登半島地震では、北陸電力送配電株式会社が被害情報の収集・管理・共有と復旧計画立案にGISを活用し、復旧の迅速化を図った。
北陸電力送配電では、最大4万戸におよぶ管内停電の早期復旧に向けて、社内外のさまざまな情報や電子データを集中的に管理する必要があった。これらの情報のうち、場所に関連するものについてはGISを用いて収集・管理した。
さらに、発災直後から開催された北陸電力グループによる連絡会議においても、GISを活用した被災状況の分析や復旧計画の説明・情報提供が行われた。こうした関係各所との詳細かつ緊密な情報共有のもと、同年3月15日には管内停電の全面解消に至ったとしている。
(出典:https://www.informatix.co.jp/case-rikuden/)
事前復興におけるGISの重要性と今後の展望
災害発生時には、広域にわたる被害状況やインフラ復旧状況など場所に紐づく多様な情報を迅速に把握し、関係者間で共有することが求められる。そのための備えとして、平常時から情報を一元的に集約・管理・可視化できるGISは、事前復興を支える基盤の一つといえる。
自然災害が頻発する日本では、どのような情報が必要となり、どのように判断・行動するのかを事前に整理しておくことが重要である。
GISを基盤として、社会インフラや公共施設、公共交通、ハザード情報といったデータを紐づけておけば、有事の際にも迅速かつ的確な意思決定につなげることが可能となる。
事前復興の実効性を高めるためには、こうした「情報の備え」を官民が連携してどのように構築していくかが、今後ますます重要なテーマとなっていくだろう。
インフォマティクスからのお知らせ
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<参考>国土交通省ウェブサイト、国土地理院ウェブサイト、富士市ウェブサイト、杉並区ウェブサイト、静岡県ウェブサイト、