コラム

未来社会の情報技術|ニコラス ネグロポンテ氏の未来への提言(3)

ニコラス ネグロポンテ様のご講演「misfits(はみ出し者)」第3回は、未来社会で起こりうる発明や現在取り組まれているプロジェクトについてのお話です。

未来社会の情報技術

未来社会での情報の受け取り方、学び方の新たなアイデアとして「情報を飲む」というものがあります。

現在、情報はディスプレイや紙媒体を目で見て取得していますが、今後は情報が入った錠剤を飲み込んでそれを直接吸収する時代がくるかもしれません。

外国語や文学の情報が詰まった錠剤を飲むと、血流に乗った情報が直接脳に届いて蓄えられ、効率良く学べるという発想です。今はまだ突拍子もないアイデアのように感じられるかもしれませんが。

これからの世界では人工的に作られた物と自然界の物とが融合して境目がなくなり、バイオ技術が新しいデジタル技術になっていくと思います。

これまでのデジタル技術は今後も存在し続けるでしょうが、ほとんどのことが達成されており、現在バイオ技術が新しい局面を迎えています。

市民のために働く

私はメディアラボの所長を退任し、資金調達を心配する必要もなくなった今、自分の好きなことして過ごせる身分になりました。

これまでの40年を振り返り、これから自分がやれることは何だろうと考えた時、ふと兄の言葉を思い出しました。

私が大学を卒業する際、兄は「この世で一番崇高な仕事は市民のために働くこと(公務員)だ」と言っていました。

兄はCIA(中央情報局)の職員でした。確かにその通りだと思いますが、実際のところ世の中には暗黙のステータスがあります。

通常子どもが就職する際、多くの親は「企業で働きなさい。上場企業だとなおいい」と言います。公務員が崇高で素晴らしい就職先だとはあまり言いません。安定しているとは言うかもしれませんが。

一般に民間分野のほうが公共分野より優れていると思われがちです。なぜなら、民間のほうが競争原理を支配しているからです。公務員にとって市民は利益を生む顧客ではありません。

これが非常にやっかいな点で、社会におけるこの認識が今後変わって欲しいと思っています。

競争というのはある種、滑稽ともいえる現象です。アメリカでは教育において非常に早い段階から競争を意識したカリキュラムがスタートします。

競争の基準となるのはテストの点数です。テストを増やす、宿題を増やす、授業時間を増やす、授業日数を増やす。こういったことが常に求められます。

一方、国際学力比較調査(PISA)で、フィンランドは常に世界トップクラスの学力を誇っていますが、フィンランドに行ってみると、幼稚園や小学校にテストは存在せず、授業時間や授業日数も必要最小限です。それでも学力は世界トップなのです。なぜでしょうか?

彼らは早い時期から互いに協力し勉強を教え合っています。

私も含め、メディアラボのはみ出し者たちを見てみると、全員、教育の過程において他者と競うことを意識せずに育ってきているのが特徴です。

 ワン・ラップトップ・パー・チャイルド(OLPC)

私が現在取り組んでいることをお話しましょう。

メディアラボの所長を退任し、時間もできてお金の心配もなくなった今、スキーやスキューバダイビング、登山など好きなことをして余生を過ごす選択肢もありました。

しかし、これまでやってきたことを振り返ってこの先何をすべきか考えた末、「ワン・ラップトップ・パー・チャイルド(OLPC)」の活動を始めることにしました。

私のやりたいこと、それは「最後の10億人」をつなげることです。最後の10億人は 「次の10億人」とは違います。

次の10億人をつなげるのは簡単です。「最後の10億人」とは未開地の人々のことで、未開の地に住んでいることと貧しいことは違います。

貧困は社会が生み出したものですが、未開の地に住む人々は必ずしも貧しいわけではありません。

私は5年前のエチオピアでの実験にヒントを得て、彼らをインターネットにつなげることが比較的短期間で実現可能であると確信しました。

「学校が無い所で学習はできるのか」というテーマで、我々はタブレットPCを取扱説明書も付けず何の説明もせず、箱ごと子供たちに渡して彼らがどのような行動をとるかの実験をしました。

実験後、タブレットに入っていたSIMカードの記録を解析したところ、こんなことがわかりました。

子供たちは、箱を受け取った2時間後には電源を入れ、1日8時間使用。(バッテリーの都合上、1日8時間しか使えないのです。)

4~5日後には1人50余りのアプリを使用。

2週間後には「ABCの歌」を歌い、6ヶ月後にはアプリを完全に使いこなせるまでになっていました。繰り返しますが、説明書なし、説明なし、困ったときに教えることもしません。

これは私が撮った写真ですが、右端の子が先生役として自主的に他の子供たちに教えているところです。

子どもたちは普段英語を話しませんが、タブレット利用を通じて英語も独学で学んだのです。

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衛星プロジェクト

これは静止衛星を使って実現するプロジェクトです。さまざまな理由から静止衛星は最良とはいえないものの、優れている点も多くあります。なにしろ、2千億円で10億人以上をインターネットにつなぐことができるのです。

なぜ2千億円なのかというと、アメリカがアフガニスタンに週単位で費やしている金額(防衛費)だからです。

もしその金額で「最後の10億人」をインターネットにつなぐことができ、水道や電気を利用するのと同じように、「つながる」という基本的な権利を社会インフラとして得ることができるのであれば、このプロジェクトをぜひ実現するべきだと思います。

ご講演者ご紹介  ニコラス ネグロポンテ様
米国マサチューセッツ工科大学 教授
1985年、ジェローム・ウィーズナー氏と共にMITメディアラボを創設し、以後20年に渡り所長を勤める。
MIT卒業後、CAD研究のパイオニアとして1966年よりMITの研究室に在籍。
TEDトークには1984年の初登壇以降、13回講演。
1995年出版の「ビーイング・デジタル ビットの時代」はベストセラーとなり、40ケ国以上の言語に翻訳。
2005年、発展途上国の児童への教育を目的としたNPO「OLPC(One Laptop per Child)」を設立。
さらに、モトローラ社の役員を15年間勤めたほか、情報・エンターテインメント分野のデジタル技術を持つベンチャー企業への投資も行い、Zagats、WIRED社をはじめ、40社以上の企業設立をサポートした。

※本記事はご本人の承認を得て2017年3月27日の記念講演の内容を元に翻訳・記事化しています。

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空間情報クラブ編集部

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