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インフラ分野で進む衛星データ活用|国土交通省の取組方針から見るこれからのインフラDX

2026年9月2日、国土交通省は「インフラ分野の衛星データ利用に関する取組方針」を公表した。
※報道発表はこちら

今回の取組方針では、災害対応だけでなく、インフラ点検・環境モニタリング、国土管理・国際展開まで、衛星データの活用領域を広げていく方向性が示されている。

衛星データの活用により、インフラ管理はどのように変わろうとしているのか。本記事では、国土交通省の取組方針をもとに、その背景と具体的な活用例を紹介する。

背景|なぜ今、インフラ分野で衛星データなのか

インフラ分野では、自然災害の激甚化・頻発化に加え、インフラの老朽化や人口減少による作業者不足など、さまざまな課題への対応が求められている。

こうした課題を受け、国土交通省はインフラDXを推進し、デジタル技術を活用したインフラ管理の効率化・高度化を進めている。その中で注目されているのが衛星データである。

衛星は、地上からでは確認しにくい広い範囲を一度に観測できる。また、同じ場所を定期的に観測できることも特徴である。特にSAR(合成開口レーダ)衛星は、夜間や悪天候時でも観測できるため、災害時の状況把握にも活用されている。

さらに近年は、小型衛星のコンステレーション化によって、観測頻度や空間的なカバー範囲の向上が進んでいる。AIの画像解析技術も発展しており、単に衛星画像を確認するだけでなく、画像から変化や異常の可能性がある箇所を抽出することも可能になっている。(政府は、令和6年度からの3年間を「民間衛星の活用拡大期間」と位置づけ、技術力を持つ国内スタートアップ等の衛星データを関係府省で積極的に調達・利用するとしている。)

国土交通省は、こうした変化を踏まえ、広域を観測できるJAXA衛星や静止気象衛星「ひまわり」と、狭い範囲を高頻度・高分解能で観測できる民間衛星を組み合わせる「コンビネーション利用」を推進している。

衛星データは特殊な技術を一部の実証で利用する段階から、インフラ管理を支える情報源の一つとして活用する段階へシフトしつつあるのである。

衛星データはすでに災害対応で活用されている

衛星データの活用は、すでに災害対応の現場で始まっている。

2024年の能登半島地震・豪雨では、JAXAの大型SAR衛星「だいち2号(ALOS-2)」による広範囲の観測が行われた。

能登半島地震で発生した河道閉塞については、民間SAR衛星による高分解能観測によって、豪雨後に大規模な変化が生じているかを把握し、下流への土砂災害リスクの把握にも活用された。

また、能登半島豪雨では、豪雨前後の衛星画像を比較することで、斜面崩壊などの可能性がある箇所を抽出し、広大な能登半島における防災ヘリの調査箇所を絞り込むために活用された。

これらの事例から分かるのは、衛星が現地調査そのものを置き換えるのではなく、広い範囲を観測して、調査すべき場所を絞り込む役割を担っていることである。この考え方は、今後のインフラ管理を考える上でも重要なポイントとなる。

国土交通省による衛星データ活用の3つの方向性

国土交通省は、衛星データの活用を大きく次の3分野で進めるとしている。

  1. 災害対応
  2. インフラ点検・環境モニタリング
  3. 国土管理・国際展開

この3分野は、それぞれ衛星データに求められる役割が異なる。

災害対応では「今、何が起きているのかを早く把握すること」、インフラ点検・環境モニタリングでは「広い範囲から変化やリスクのある場所を見つけること」、国土管理では「国土の変化を継続的・広域的に把握すること」が重要になる。

インフラ分野の衛星データ利用に関する取組方針の概要
(出典:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/002019716.pdf)

災害対応

災害発生時には、被害の全体像をできるだけ早く把握し、応急対策や復旧計画につなげる必要がある。

しかし、大規模災害では被災範囲が広く、航空機や防災ヘリによる調査が天候などの影響を受ける場合もある。そのため、発災直後の全体像を把握する手段として衛星が活用されている。

国土交通省は、JAXA衛星に加えて民間SAR衛星も活用し、高頻度な撮像と解析によって、発災から3時間以内の浸水・土砂移動箇所の把握を目指している。

ここで重要なのは、衛星で被害状況をすべて確認するという考え方ではない。衛星によって広範囲の被害状況を把握し、その情報をもとに現地調査や応急対応が必要な場所を絞り込むことで、限られた人員や時間を有効に活用することが期待されている。

インフラ点検・環境モニタリング

衛星データの活用は、災害発生時だけにとどまらない。

インフラ点検・環境モニタリングの分野では、衛星データを用いて、広い範囲に存在する変状やリスクの可能性を把握する取り組みが行われている。

例えば、水道管の漏水調査では、衛星データとAIを活用して漏水リスクを可視化し、詳細な現地調査を行う場所を絞り込む技術が実用化されている。

国土交通省の資料では、衛星技術・AIを活用した水道管の漏水調査等のスクリーニングについて、導入の手引きや技術カタログを整備し、活用を促進していることが示されている。また、SAR衛星を用いたダムの変位計測や、衛星画像とAIを組み合わせた河川環境のモニタリングも進められている。

これらに共通するのは、衛星を点検の代替手段として使うのではなく、広域から変化やリスクの可能性がある箇所を抽出するための手段として活用する考え方である。

国土管理・国際展開

3つ目は、国土全体を対象とした継続的なモニタリングである。

国土地理院では、JAXAとの協定に基づいてALOS-2・ALOS-4の観測データを解析し、日本全国の地殻・地盤変動を定常的に監視している。さらに、衛星画像とAIによる地図作成の効率化や、衛星データを活用した海岸線モニタリングなど、広域かつ定常的な国土管理につながる取り組みも行われている。

衛星データを活用した水害リスクマップの作成技術を海外へ展開し、各国の防災力向上や日本企業の海外展開を支援する取り組みも進められている。

このように、衛星データの活用範囲は、災害時の一時的な情報収集から、日常的なインフラ管理、さらに国土全体の広域的かつ継続的なモニタリングへと広がっている。

インフラ管理はどう変わるのか

では、衛星データの活用が進むことで、インフラ管理の現場では何が変わるのだろうか。一つのポイントは、「どこを調べるべきか」を効率的に判断できるようになることである。

衛星は広範囲を定期的に撮像できるため、地上からすべての場所を確認するよりも、広い範囲の変化を捉えやすい。さらに衛星画像をAIで解析すれば、変化が生じた可能性のある場所や、リスクが高いと考えられる場所を抽出できる。

その結果、インフラ管理の流れは、次のように変化していくことが考えられる。

衛星で広域を観測する
→AIで変化・リスクの可能性がある箇所を抽出する
→道路・河川・橋梁・ダムなどのインフラ情報と重ね合わせる
→過去の点検・補修履歴などと照合する
→現地確認が必要な箇所を絞り込む
→点検・維持管理につなげる

ここで重要になるのが、衛星データ単体ではなく、さまざまな情報を位置情報と結び付けることである。

衛星データをインフラ管理につなげるGIS

衛星データから、変化した可能性のある場所が分かったとしても、それだけではインフラ管理の判断にはつながらない。

その場所に何があるのか、過去にどのような点検が行われたのか、周辺にどのような施設や道路、河川が存在するのかといった情報と組み合わせる必要がある。そこで重要になるのがGIS(地理情報システム)である。

GISを活用すれば、衛星データから得られた変化情報を、道路、河川、橋梁、ダムなどのインフラ情報や、点検・補修履歴などの既存データと地図上で重ね合わせることができる。例えば、衛星画像から変化が確認された地点について、

  • どのインフラに近いのか
  • 過去にどのような点検を行っているのか
  • 以前と比べてどのように変化しているのか
  • 現地確認が必要なのか

といった情報を一つの画面上で確認できれば、衛星データを実際の維持管理業務につなげやすくなる。衛星データが「広域を観測する目」だとすれば、GISはその情報を既存のインフラ情報と結び付け、業務で活用するための基盤となる。

これからのインフラDXではデータ取得後が重要に

国土交通省の取組方針では、衛星データの活用について、技術開発、実証、実装の各フェーズで取り組みを進めるとしている。これは、衛星でデータを取得できるようにすることだけが目的ではないということである。

重要なのは、取得したデータをどのように解析し、既存のインフラ情報と結び付け、実際の判断や業務につなげるかである。

今後は、

衛星による観測
→ AIによる解析
→ GISによる情報統合
→ 現地での確認
→ 点検・維持管理

という一連の流れを構築することが、インフラDXを実務へつなげる上で重要になる。

衛星、AI、GIS、現場データをそれぞれ独立した技術として捉えるのではなく、役割を分担させながら一つの業務プロセスとしてつなげていくことが求められるのである。

まとめ|衛星データはインフラDXの「目」になる

国土交通省が公表した取組方針では、衛星データの活用を、災害対応だけでなく、インフラ点検・環境モニタリング、国土管理・国際展開へと広げていく方向性が示されている。

今後、衛星データは災害時に画像を見るための情報から、広域の変化やリスクを日常的に把握するための情報へと、その役割を広げていくと考えられる。ただし、衛星データだけですべてのインフラ管理が完結するわけではない。

衛星が広域を捉え、AIが変化を特定し、GISが情報を集約・連携して現場判断へとつなげる。このようなデータ活用の流れが、これからのインフラDXを支える基盤の一つになっていくだろう。

 

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<参考>国土交通省ウェブサイト、JAXAウェブサイト

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片岡義明(かたおかよしあき)

専門新聞社や出版社勤務を経て、1999年よりフリーランスライターとして活動。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」が発売。インプレスより書籍「パソ鉄の旅~デジタル地図に残す自分だけの鉄道記~」、共著書「いちばんやさしい衛星データビジネスの教本」が発売。

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