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国土交通省「ジオAI研究会」の中間整理を解説 ― ジオAIの現状と期待とは(後編)

ジオAI研究会の概要

前回は、内閣官房地理空間情報活用推進室および国土交通省が立ち上げた「ジオAI研究会」の中間整理を取り上げ、その背景やジオAIの現状、期待される分野といった内容を解説した。今回は、同文書の後半部分について解説する。

「ジオAI」とは、地理空間情報とAIを融合させてさまざまな課題を解決する取り組みである。「ジオAI研究会」は、その構造やアーキテクチャの精緻化をはじめ、普及・推進に向けた課題や取り組みの方向性を議論するために設立された。

これまで計4回開催された同研究会での議論は、5月29日に中間整理として公表されている。

ジオAIの全体設計像

中間整理では、ジオAIの実現・推進にあたり、産官学の関係者間で全体設計像(アーキテクチャ)を共有することの重要性を指摘している。

ジオAIは、防災・災害対応や国土・インフラ管理、スマートシティ・モビリティといった多様な分野で活用が期待されており、協調領域と競争領域を的確に捉えてマネタイズの仕組みを作るとともに、世界市場の競争相手を意識しながら産官学で戦略的に取り組みを進めていくことが求められている。

ジオAI研究会で示した全体設計は、大きく分けて「価値」「技術」「ガバナンス」の3要素で構成されている。

価値

意思決定の質的転換を図るジオAIの価値として、以下の5点を挙げている。

  • 統合性(複合課題の解決)
  • 先行・予防性(予測型)
  • 迅速性(リードタイム)
  • 再現性(属人性低減)
  • 拡張性

技術

ジオAIに必要な技術要素として、以下の4レイヤーを挙げている。

  • アプリ層(サービス)・エージェント層
  • モデル層(AIモデル)
  • 連携・流通層(MCPやAPI)
  • データ層

上記のうちデータ層と連携層はジオAIの実現に向けた中核層として位置付けており、AI-Readyなデータをいかに流通・提供するかが成否を左右するとしている。
AI-Ready:AIを安全かつ効率的・継続的に活用できる状態のこと

さらに、データ運用面およびモデルやアプリの運用面の双方で、レイヤーを横断して連携することの重要性も指摘している。

ガバナンス

ジオAIに必要なガバナンスとして、以下の要素を挙げている。

  • 責任分界
  • モデル・運用評価
  • 標準化
  • 品質基準・評価
  • データライセンス

ジオAIの全体アーキテクチャのイメージ

ジオAIの全体設計像(アーキテクチャ)

このような全体設計像をもとに、以下のような役割分担を提唱している。

  • :地理空間情報を適切に処理できるAIシステムの開発やデータ整備、流通基盤の提供を協調領域として主導
  • 学術・業界団体:分野・業界ごとの教師データの整備、エコシステムのコミュニティ形成、人材育成を主導
  • 民間:アプリ・サービス開発や領域特化モデルを競争領域として担う

実現に向けた課題と方向性

中間整理の最後の章では、ジオAIの実現に向けた課題と方向性(研究会から得られた示唆)について、以下の5項目がまとめられている。

AIモデル

ジオAIの実現には、地理空間情報を理解できる「地理空間モデル」が、マルチモーダルAIや領域特化モデルに組み込まれている、または連携されていることが必要である。これにより、生成AIモデルの開発において、高度かつ高品質なアウトプットが可能になる。
マルチモーダルAI:複数のデータ形式をまとめて処理・統合できるAIのこと

現状では、地理空間情報のデータ収集や加工・解析のフェーズでAIが活用される事例が見られる。一方で、生成AI単体では、高精度な空間解析や空間的な意味を解釈するモデルの実現は難しいのが現状である。

ジオAIを社会実装し、各分野の事業者が競争領域としてサービスを展開できるようにするには、LLM(大規模言語モデル)や既存のGIS技術を活用しながら、地理空間モデルを整備し、GISと生成AIを結びつけることが必要である。

こうした実現に向けた取り組みの方向性として、以下が挙げられる。

  • 地理空間情報を適切に処理できるAIの開発・利用を検討する
  • ユースケースの創出を後押しし、民間主導のAIモデル開発における地理空間情報の活用を促す
  • 地理空間モデルの研究を推進する
  • 初期的な実装ユースケースと、必要となる評価指標を定義する

ジオAIの全体アーキテクチャと展開イメージ

AI-Readyなデータ整備

地理空間情報の整備・流通が進み、公的データのオープン化も進んでいる一方で、3D都市モデルのような基盤的な地理空間情報については、更新コストや更新作業の効率化が課題となっている。

また、以下のような課題もある。

  • AIが探索するためのメタ情報が十分に整備されていない
  • 都市計画基本図などの法定図書では、製品仕様書やスキーマが整備主体によって異なる
  • AIによって生成された地理空間情報の品質を保証する仕組みがない

信頼性・継続性・正確性を担保したデータを整備するには、データを構造化し、機械判読が可能な状態にするとともに、空間的な品質を担保することが必要である。また、地理空間情報の基本的なメタ情報や利用条件を提示し、データの信頼性を高めることも重要となる。その上で、品質と信頼性を高めたデータをAIモデルの学習・評価に活用し、マルチモーダルなAIの実現につなげていく必要がある。

まずは、国土数値情報や3D都市モデルなどの公的データを先導役として、AIが理解しやすいメタデータを整備し、その取り組みを各府省庁のデータへと波及させていくことが求められる。

さらに、AI-Readyなデータを作成する際には、AIそのものも活用することで、データ整備にかかるコストの低減と作業の効率化を目指すことも重要である。

AI-Ready な地理空間情報の整備のイメージ

AI-Readyな地理空間情報の整備イメージ

AI-Readyなデータ連携・流通基盤

現状でも、AIを使って地理空間情報を検索・取得することは一定程度可能である。一方で、地理空間上の関係性に対する理解はまだ不十分であり、回答の精度にも課題がある。

ジオAIを推進するには、時間的・空間的な全体像を表現できるデータが必要であるものの、現在流通しているビッグデータだけでは、現実世界を表現するには十分とはいえない。

国土交通データプラットフォームや不動産情報ライブラリではMCPサーバーが提供されているが、G空間情報センターは現時点ではAIに対応していない。また、現在のデータ流通はダウンロードが中心であるため、AIがデータを直接取得することが難しく、APIやMCPを介したデータ提供も十分に進んでいない。

こうした状況を踏まえると、ジオAIの推進に向けたデータ流通基盤を構築することは中核課題であり、AIが使える形式で地理空間情報を流通させる「G空間データスペース(仮称)」を形成する必要がある。

地理空間情報のデータ連携・流通のイメージ

G空間データスペース(仮称)の形成イメージ

そのためには、ラベル付けやGeo-RAG(検索拡張生成)、MCPなどの新技術を取り入れた基盤の提供が求められ、空間IDや不動産IDといったデータインデックスの活用も重要となる。

以下のような仕組みの整備も必要となる。

  • データへのアクセス方法を標準化する
  • 各機関が保有するクローズなデータを尊重しながら流通させる仕組みを構築する
  • データの秘匿性を確保した環境を構築する

ガバナンス

地理空間情報のAIガバナンスについては、AI全般の動向を注視しながら対応していくことが重要であり、その上で、データ整備や利用分野に関するガイドラインを作成する必要がある。技術開発にあたっては信頼性を重視しつつ、「100%正しいAIはない」という前提のもと全体アーキテクチャを設計する。

AIモデルが参照・収集するデータの確かさを、データ連携・流通基盤を通じてどのように担保するかも重要で、ハルシネーションへの対策として、データへのラベル付けや、参照したデータの出典を明示する仕組みを整備する。
ハルシネーション:事実に基づかない情報をAIが生成すること

ジオAI特有のガバナンス上の課題としては、避難誘導やインフラ管理など、AIの判断ミスが大きな影響を与える分野への対応が挙げられる。こうした分野では、AIの判断をそのまま採用するのではなく、最終的な判断を人が行うといったルールやガイドラインを整備する必要がある。

重要施設や安全保障においては、公開すべきではない情報や危険な地点に関する情報を適切に防護することも必要であり、こうした情報を安全に利用できる仕組みを整備することが求められる。

今後の取り組みの方向性として、以下が挙げられる。

  • 「位置情報データ利活用に関するガイドライン」について、個人情報保護法の改正やAIへの対応を進める
  • セキュリティやプライバシーなど、ジオAI特有の課題を検討する
  • ジオAIの正しい使い方を周知するため、ガイドラインや認証制度を整備する

人材育成

ジオAIの開発・普及に向けては、研究者や学生、企業などがコミュニティを形成し、連携していくことが必要である。

人材育成については、技術面と制度面の両面から総合的に進める必要がある。特に、地理空間情報とAIの双方を理解し、ジオAIで生成されたデータや分析結果の信頼性を検証・判断できる人材の育成が重要である。

また、教育・研究の一部の分野では、安価に利用できるデータが少ないという課題もあり、人材育成や学術研究を目的とする場合には、データを無償または安価に利用できる環境を整えてほしいという声もある。

今後の取り組みの方向性として、以下が挙げられる。

  • イベントやアワードを通じたジオAIのコミュニティ形成
  • AI時代にふさわしいGISの教育プログラムや人材育成体制の構築
  • 研究コミュニティ間の連携促進
  • ジオAIを構築する側と活用する側の双方に向けた、人材育成機会の提供

おわりに

「ジオAI研究会」の中間整理について、前後編の2回にわたり紹介した。

ジオAIの社会実装には、AI技術だけでなく、AIが利用しやすい地理空間情報の整備やデータ流通基盤、信頼性を確保するためのガバナンス、人材育成など、さまざまな取り組みが必要となる。今後、産官学の関係者による取り組みが進み、地理空間情報とAIを組み合わせた新たなサービスや活用方法が広がっていくことが期待される。

インフォマティクスからのお知らせ

空間情報クラブ編集部です。

今回のコラムでご紹介したように、地理空間情報とAIを連携させる取り組みは、今後さまざまな分野で広がることが期待されています。

こうした動きの中、当社でもGISと生成AIを連携させたオプション機能をリリースし、地理空間情報を用いた業務の効率化を支援しています。

詳しくは、以下のプレスリリースをご覧ください。


<参考>国土交通省ウェブサイト
<画像出典>「ジオAI研究会 中間整理」(https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/002003985.pdf)

  • この記事を書いた人
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片岡義明(かたおかよしあき)様

専門新聞社や出版社勤務を経て、1999年よりフリーランスライターとして活動。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」が発売。インプレスより書籍「パソ鉄の旅~デジタル地図に残す自分だけの鉄道記~」、共著書「いちばんやさしい衛星データビジネスの教本」が発売。

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