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電力DX|電力業界のデジタル改革の取り組み事例・課題を解説

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務改革を図り、製品やサービスの変革や組織改革につなげる取り組みを意味する。

本コラムでは行政や観光をはじめ、消防、防災、インフラ、建設・製造業、森林など様々な分野におけるDXの取組事例や課題を紹介してきた。

今回は電力業界におけるDX推進の背景や課題、取り組み事例を紹介する。

背景

電力業界では、2016年4月からの電力自由化により新たな電力会社が続々と登場し競争が激化している。

さらに高齢化、若年層の労働人口減少に伴う人手不足に加えて、近年では地球温暖化対策のため脱炭素化が求められ、再生可能エネルギーへの注目も高まっている。

電力業界が抱える課題

電力業界が抱える課題を整理すると、大きく以下の5つにまとめられる。これらは“5つのD”(5D)と言われている。

De-Population(人口減少)

人口減少により、インフラ維持にかかる1人あたりの負担割合が大きくなる。

De-Carbonization(脱炭素化)

日本は2050年までに温室効果ガス80%削減を目標としており、再生可能エネルギー(例:太陽光発電、風力発電)への移行が求められている。

Deregulation(規制緩和/制度改革)

政府による料金規制が開放され、発電・小売の両方で競争が激化することが考えられる。

De-Centralization(分散)

再生可能エネルギーの導入に伴い、従来のような大規模発電所から、小規模な発電所が各地に分散する「分散型電源」方式が採用される。

Digitalization(デジタル化)

デジタル技術を活用して業務効率化を図るとともに、新事業の創出や他産業との連携強化を進める必要がある。

上記“5つのD”で指摘されている課題の中で重要視されているのがDigitalization(デジタル化)、つまりDXだ。

電力自由化による規制緩和やエネルギーの分散化が進む中、DX推進は様々な課題を解決する可能性を秘めている。

取り組み事例

電力会社や発電会社によるDXの事例には以下のようなものがある。

AI機械学習の活用

電圧制御

中部電力はAIを活用して電圧を制御する取り組みを進めている。

様々な運用条件を満たした適切な電圧調整機器の状態を、あらかじめオフラインでAIに学習させることにより、オンライン制御時にAIが出力した結果にもとづき制御対象を決定する。

これにより、様々なオンライン系統状態に対して最適な制御内容を短時間で演算でき、機器動作回数の低減が実現した。

(出典:https://www.chuden.co.jp/corporate/dx/sustainable/vol03/)

流氷雪の自動検知

関西電力はAIを活用して、水力発電所における流氷雪の自動検知プログラムを開発した。

水力発電所では冬場流氷雪が発生し、取水口付近に滞留したり取水路が氷雪で詰まることで電力提供に支障をきたす場合がある。

そのため冬期は24時間体制でカメラ映像を監視員が遠隔で確認し、流氷雪が流入するおそれがある場合は手動で水門を閉じるなどの対応をしていたが、この業務を効率化するために自動検知プログラムを開発した。

開発段階では水面への照明の映り込みや浮遊ゴミを誤って流氷雪と検知することが多かったが、ディープラーニングで繰り返し学習させることで正確に自動検知できるようになった。

(出典:https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2019/pdf/0926_3j_01.pdf)

設備の異常検知

また、関西電力はAIを活用して火力発電所での設備異常の早期検知も実現している。

火力発電所に設置されたボイラーやタービンの圧力・温度・振動のデータを収集し、AIを使ったデータ分析により数日~数ヶ月先までの異常兆候を検知する。

早期検知をもとに計画的に作業を行うことで、停止期間の最小化を実現できる。

(出典:https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2019/pdf/0926_3j_01.pdf)

電力需給の計画立案

四国電力はAIを活用した電力需給計画立案システムを開発したほか、水力発電においてAIを活用したダム流入量予測手法の開発にも取り組んでいる。

火力発電おいては運転データとAI・センサー情報を組み合わせた異常兆候の早期検知や、AIを使った熱画像解析による異常検知の開発も進めている。

(出典:https://www.yonden.co.jp/corporate/dx/index.html)

石炭火力ボイラーの運転最適化

JERAは2020年4月からAIを活用した石炭火力ボイラーの運転最適化を開始し、環境負荷の低減や燃料使用量の削減を実現している。

さらにIoTを活用して発電設備の計測データを遠隔から監視し、異常予兆を検知して不具合による停止削減も図っている。

同社は、このようにAIやIoTを活用して発電所を変革する取り組みを“デジタル発電所”と名付けて推進している。

(出典:https://www.jera.co.jp/news/information/20201001_535)

ドローンの活用

送電線の点検

東京電力ホールディングス、ブルーイノベーション、テプコシステムズの3社は「送電線点検用ドローン自動飛行システム」を開発。

東京電力パワーグリッドは同社が保有する送電線の点検業務に同システムを2021年6月に導入した。

これまで送電線の点検作業は高倍率スコープやヘリコプターによる目視で行われていたが、同システムではドローンに搭載した対象物検知センサーが送電線を検知する。ドローンが自動飛行しながら送電線の異常(例:腐食、劣化)を撮影することで、点検作業の効率化・低コスト化を実現した。

(出典:https://www.tepco.co.jp/press/release/2021/1605275_8711.html)

送電線故障時の点検

中部電力グループでも、昇塔点検や送電線故障時の点検にドローンを活用している。

ドローンの手動飛行による送電線や鉄塔への接近撮影では損傷リスクがあるほか、操縦者の習熟度により撮影画像の品質にばらつきが生じたり撮影時間が長くなるという課題があった。

同グループはこの課題を解決するためドローンの自動点検飛行技術を開発。自動飛行のルート作成から自動点検飛行、点検画像データの自動仕訳・管理までをトータルで行える専用のクラウドアプリケーションを実用化した。

(出典:https://www.chuden.co.jp/corporate/dx/sustainable/vol04/)

MR(Mixed Reality)の活用

巡視点検

北海道電力とアバナードは、火力発電所におけるDXの一環として、MR(Mixed Reality:複合現実)技術を活用した巡視点検業務のアプリケーションを開発。2022年から使用開始した。

同アプリケーションは、マイクロソフトのMRデバイス「Microsoft HoloLens 2」をベースとしたヘルメット一体型デバイス「Trimble XR10」で使用するもの。

マイクロソフトのクラウドサービス「Azure Spatial Anchors」で空間認識を行うことで、GPSやビーコンを使わず、HoloLens 2とクラウドサービスだけで約2kmにわたる広範囲な巡視点検のナビゲーションを実現する。

HoloLens 2に表示された順路に沿って移動することで、現在地に対応した作業指示や参考資料をHoloLens 2に自動的に表示して巡視点検をサポートする。

(出典:https://www.hepco.co.jp/info/2022/1251845_1920.html)

DX推進における課題

このようなDXを実現する上で重要な要素として、電力業務の知識と経験を持ち、現在の課題を踏まえてDXを推進できる人材の不足の育成・獲得が求められる。

また、DXによる業務効率化を図る中で、データ漏洩やサイバー攻撃などの発生のおそれもあるため、信頼性の高いシステムの構築も必須である。

今後“5つのD”を解決しながら電力の安定供給を実現するには、この分野でのDX化推進は不可欠であり、既存の取り組みをより一層前進させていく必要がある。

 

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<参考>資源エネルギー庁ウェブサイト

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片岡義明(かたおかよしあき)様

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。

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