台風や集中豪雨により各地で河川の氾濫や都市の浸水などの水災害が頻発している中、自治体では水害発生時に被害範囲をできるだけ早く知りたいというニーズが高まっている。
AIを活用した防災・危機管理ソリューションを自治体向けに提供する株式会社Spectee(スペクティ)は2021年5月17日、水害発生時の浸水範囲をリアルタイムに3Dマップ上に再現することに成功したと発表した。
今回はこの最新技術について同社代表取締役CEOの村上建治郎氏に話をうかがった。
目次
リアルタイムな浸水深推定で迅速な災害対応を支援
今回スペクティが開発した技術は、災害発生時からほぼリアルタイムに浸水範囲と浸水深を3Dマップ上に再現するもの。
被害状況を視覚的にわかりやすく再現することで、災害対応計画の迅速な策定を支援する。
同技術を開発した理由について、村上氏は以下のように語る。
浸水深を推定するソリューションは他社でも提供していますが、被害が発生してから時間が経過したあとに被害状況を分析するというものが多く、現在起きている災害に対応するのは難しいです。
それに対して当社では、発生直後から被災現場でどのように対応するかを決めるために、リアルタイムに被害状況を可視化する必要があると考えました
スペクティが提供する、AIを活用した防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」は、SNS投稿や河川・道路のライブカメラなどの情報をリアルタイムに解析・配信することで災害状況を知らせるソリューションで、全都道府県の7割近くに導入されているという。
今回の3Dマップ化技術は、これまでSpectee Proで培ったSNS投稿を解析する技術を活用している。
浸水想定図を3Dマップで表現する意義について、村上氏は以下のように語る。
現場で細かい住宅戸数を確認するのであれば平面地図のほうが見やすいとは思いますが、地形全体を見て総合的に今後の予測を立てるには3Dマップのほうが適しています。
一般の方に危険度を知らせる場合にも、3Dマップのほうが感覚的にわかりやすいので、2Dと3Dでうまく使い分けることが大切です
熊本県球磨川周辺の浸水推定図
代表取締役CEOの村上建治郎氏
SNS投稿画像に地形データや降水量データを組み合わせて推定
3Dマップ化に必要な素材は以下の4つ。
- SNSに投稿された画像
- 降水量データ
- 降雨地の地形データ
- 過去の水害データ
まず、SNSに投稿された画像を使用して、たとえば建物が水に浸かっている写真があれば投稿された位置情報をもとに、どの場所がどれくらいの浸水深なのかを推定する。
次に、推定した1地点の浸水深をもとに周囲の地形データと降水量を掛け合わせ、投稿された位置から約10km四方の浸水状況を推定する。
推定のもとになるSNSの投稿写真は、色々な地点で撮影された写真が複数枚あれば、より精度は高くなりますが、この技術で重要なのはリアルタイムであることです。
写真が複数枚溜まるまで待っていたら時間がどんどん過ぎてしまうので、1枚でも投稿されたらとにかく速やかに3Dマップを作成する。
その後、新たに投稿される写真が追加されたら、それを加味した浸水深に随時更新することで、時間経過とともに精度が上がるシステムになっています(村上氏)
村上氏によると、3Dマップ化にかかる時間は数分、長くても約10分以内とのこと。
SNS画像だけでなく、河川やダムに設置された定点カメラの映像をもとに3Dマップを作成することも可能で、その場合は浸水していない平常時の画像と比較できるため、より精度が高まるという。
熊本県球磨川周辺の浸水推定図を作成
今回スペクティが発表した3Dマップは、2020年7月に熊本県球磨川周辺で起きた豪雨による水害の浸水推定図だ。
前述したようにSNSに投稿された1枚の画像をもとに、降水量データや地形データと組み合わせて作成した。
この3Dマップを、国土地理院が災害発生後に発表した浸水推定図と比較検証したところ、素材として使ったSNSの画像が投稿された地点の周辺については、かなり正確性が高いことが確認できたという。
同社はこれからの夏場の出水期に向けて、今回の技術の実証実験を行っていく予定で、実用化は2022年の出水期を目指している。
提供方法としては、AI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」の一機能として提供するほか、同技術のみを提供し、ほかの防災情報システムと連携させることも可能だという。
今後は上空から被害状況を俯瞰できる衛星データも加味して浸水想定図の補正に使用するなど、さまざまな面で精度やリアルタイム性の向上を図っていく方針だ。
また、今回開発した技術を応用して、水災害だけでなく、雪国において大雪時の交通障害が課題となっているため、積雪の状況もリアルタイムに可視化する技術の開発も検討している。
Spectee Pro
防災分野でのデジタルツインの取り組みに注力
2021年3月に国土交通省が日本全国の3D都市モデルの整備プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を公開したことにより、リアル空間の情報を仮想空間で再現する「デジタルツイン」が注目を集めている。
スペクティが今回開発した3Dマップ化の技術も、防災分野でのデジタルツイン事例として大いに注目される。
デジタルツインへの取り組みについて、村上氏は以下のように語る。
防災分野においては、当社が取り組んでいるSNS投稿のほかにも、IoTを通じて使用できるデータがどんどん増えている状況です。
このような状況の中、我々は危機管理に関するデータをデジタルツインの中でいかに再現するかという課題に取り組んでいます。
今後はPLATEAUで公開されている3D都市モデルデータと組み合わせて都市における浸水深の推定に利用するなど、デジタルツインの取り組みを強化していきたいと思います
■URL
株式会社Spectee
https://spectee.co.jp/
※本記事で紹介したソリューションに関する詳細は、提供会社様あてにお問い合わせください。
GISやAI機械学習を使ったシステムのご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。