こんにちは、インフォマティクスの空間情報クラブ編集部です。
今回も地図や地理の分野でちょっと気になる書籍をピックアップしてご紹介します。
目次
PICK UP - 今月の書籍
'あいまい'を曖昧なままにしておけない研究者たちが挑んだ『あいまいな時空間情報の分析』
たとえば「○○さんは高度経済成長期に横浜港の近くで生まれた。」のような、誤りではないが時間や場所を特定できない時空間情報をどのように捉えて分析するか。
本書は、こういった課題に対して情報科学やGISの研究者たちがさまざまな分析手法やツールを駆使して挑んだ成果を紹介しています。
「時空間カーネル密度推定-時空間のイベント分布をあいまいに解析する」ほか、興味深いテーマがずらりと並んでいます。(浅見泰司 編著、薄井宏行 編著)
高校地理の学び直しにピッタリ『学びなおすと地理はおもしろい』
とかく「暗記する教科」とされ、苦手意識を持つ人が多いといわれる地理。
本書では「なぜそういう事象が起きたのか」という視点から、自然環境がどのように私たちの生活文化や産業と結びついているのかを紐解いていきます。
歴史と関連づけて解説されている部分もあるので、高校で地理を学んだ人も学ばなかった人も、地理が苦手という人でも、楽しみながら学び直せる一冊です。(宇野仙 著)
旅をより深く知的に楽しみたい人のための『旅がもっと面白くなる地理の教科書』
地理の知識があると、旅をより一層深く味わうことができます。
本書は、旅先でみられる世界各地の特徴のワケを地理的観点から解き明かしながら、一般的な観光ツアーやガイドブック目線からもう一歩踏み込んだ旅の視点を提案しています。
各地域のカラー写真が多数掲載されているので、旅行気分でページをめくりながら地理の知識も身につくという一石二鳥の'教科書'です。(松本穂高 著)
初心者でも地理学の全体像をつかめる『イラストで学ぶ 地理と地球科学の図鑑』
コンパクトなコラム形式の文章と豊富なイラストで、地理・地球科学の基礎が楽しく学べる図鑑です。
別々に扱われることの多い自然地理と人文地理の両方が網羅されており、それぞれの基礎をまとめて学べます。
また近年注目されている地政学や技術進歩が目覚ましい地図学のトピックから、地理研究の実践方法までをイラストでわかりやすく解説。
地図の読み方やフィールドワーク調査のやり方など、実践・体験学習に役立つ情報も掲載されています。(柴山 元彦(監修)中川 昭男(監修))
月刊「地理」12月号の見どころ
月刊「地理」担当編集者の方に今月の特集とオススメ記事を紹介していただきました。
特集:オンライン学会で地理・地学の教科書分析
2020年12月号(11/25発売)の特集テーマは「オンライン学会で地理・地学の教科書分析」です。
毎年5月下旬に幕張メッセで開催されている「日本地球惑星科学連合大会」ですが、今年はコロナの影響で7月中旬に「JpGU-AGU Joint Meeting 2020:Virtual」としてオンライン開催されました。
月刊「地理」12月号では、オンライン学会ならではのメリット・デメリットをはじめ、本学会で議論された地理・地学の教科書についての問題や課題(地殻変動、地震、地球温暖化、海洋の取り扱いなど)をご紹介。
さらに、素朴概念とは何か?や地理教育と地学教育の連携に向けて検討すべき課題も紹介しています。
Editor's Choice
寄稿:わが国の市町村における年少人口の実態
少子高齢化時代において、これまで高齢者(65歳以上)に比べて注目度の低かった年少人口(0~14歳)ですが、「消滅可能性都市」論(2014年)の登場以来、関心を集めるようになりました。
筆者(森川洋氏)は、消滅可能性都市論は論理的に優れた発想であるものの、現実的に妥当なのかをより細かく検討する必要があるとしています。
日本全国市町村の年少人口(2015年)とそれに基づく人口推計結果(2045年)がどのような状況にあるかを検討し、消滅可能性都市との関係も考察されています。
※消滅可能性都市とは、「2040年に向けて20-39歳の女性の数が半分以上減少すると推計される市区町村」のこと。民間有識者から成る「日本創成会議」が2014年に発表したレポートの中で定義。
連載:授業で使えるはじめてのGIS
人口ピラミッドから地方自治体の過去と将来を考える ― ひなたGISの活用(麻田典生)
高校教諭 麻田典生氏による地理授業向けの連載記事です。
フリーソフト「ひなたGIS」を活用した人口問題の学習(人口ピラミッドの変化とその要因)について詳しく紹介されています。(生徒人数:4名、授業時間:2コマ(60分×2)、ICT環境:Chromebook貸出、G-suite for Education使用、プロジェクタ有り、Wi-Fi有り)
おわりに
時間・空間は、時刻や時間間隔、面積や高さのように数値で表すことはできますが、実際にはとらえどころがないものです。
「5年の歳月が流れた」のように数字で表現できても、年月を物理的に見ることはできません。
そういった意味でも、「時空間」の分析に挑んだ『あいまいな時空間情報の分析』はとても興味深い書籍だと思いました。
空間情報クラブにも、時空間をテーマにしたコラム「時空の旅」を掲載していますので、ぜひご覧になってみてください。