前回、電卓に0で割る計算をさせるとエラーが返ってくることを取り上げました。今回は小学校高学年で習う分数のわり算です。
分数のわり算は分母と分子を逆にしてかけ算にすると値が求められます。
小学生の頃「なんでだろう?」と思いながらも「そういうルールになっているから」と言われ、そのまま通り過ぎた方も多いのではないでしょうか。
今回の記事ではこの仕組みについて詳しく解説していきます。
目次
映画『おもひでぽろぽろ』のワンシーン
分数は問題だらけです。なかでも分数の割り算は「なぜ」を考え出すと難関です。
はたして、多くの人は計算手順──分数のわり算はひっくり返してかければいい──をそのまま「覚える」ことになります。
ヤエ子:分母と分子をひっくり返してかけりゃいいだけじゃないの。学校でそう教わったでしょ。
タエ子:う〜ん。
ヤエ子:じゃあ、どうして間違ったの。
タエ子:分数を分数で割るってどういうこと?
3分の2個のリンゴを4分の1で割るっていうのは、3分の2のリンゴを4人で分けると一人何個かってことでしょ。
だから、いち、に、さん、し、ご、ろくで、一人6分の1個。ヤエ子:ちがう、ちがう、ちがう、ちがう。それはかけ算。
タエ子:え〜、どうして。かけるのに数が減るの。
ヤエ子:3分の2個のリンゴを4分の1で割るっていうのは ... ...。とにかく、リンゴにこだわるからわかんないのよ。かけ算はそのまま、わり算はひっくり返すって覚えればいいの。
映画『おもひでぽろぽろ』より
映画『おもひでぽろぽろ』(高畑勲監督・脚本、1991年スタジオジブリ)における主人公タエ子と姉ヤエ子の会話です。
小5のタエ子は考えて理解しようとしているのに対して、姉は計算手順を必死で覚えさせようとしています。
実は算数の教科書には丁寧に分数のわり算の考え方が示されています。ご自身の算数教科書を探し出して確かめてみてください。
算数・数学はその後、大人になっても続きます。大切なのは、小学校の時に計算手順として覚えるしかなかった人でも、大人になったときに考えてみることです。
分数のわり算はひっくり返してかける理由
その1「分母を1にする」
□÷〇=□/〇
□÷1=□/1=□
を認めることを出発点とする考え方です。
□÷7/5=□/(7/5)…(1)
ですが、分母の7/5を1にすることを考えます。
7/5×5/7=1
ですから、(1)の分母と分子に5/7をかけてみます。
□÷7/5
=□/(7/5)
=(□×5/7)/(7/5×5/7)
=(□×5/7)/1
=□×5/7
こうして、÷7/5は×5/7と等しいことがわかります。
その2「単位量」
ペンキの問題で考えてみます。
1リットルで3メートル塗ることができるペンキがあります。このペンキ12/5リットルでは何メートル塗ることができるでしょうか。
考え方はかけ算です。
12/5×3メートル
では、次の問題を考えてみます。
1メートル塗るのに7/5リットル必要とするペンキがあります。□リットルでは何メートル塗ることができるか。
考え方はわり算です。
□÷7/5メートル
分数で割ることがわからないとして、この問題を考えてみます。前半のように1リットル当たりの塗れるメートル数がわかれば、かけ算として計算できます。
そこで、「1メートル塗るのに7/5リットル」を「1リットルで何メートル」に変換してみます。
1メートルを分子の7に注目して7等分します。すると、7等分した1つは1/7メートルが1/5リットルに相当することがわかります。
1/5リットルを7つ集めて(1メートル)7/5リットルということです。状況を図示するとわかりやすくなります。
さて、「1リットルで何メートル」ですから、1/5リットル(7等分した1つ=1/7m)が5つ分として、
1/7m×5=5/7m
となります。
「1メートル塗るのに7/5リットル」必要なペンキとは、「1リットルで5/7メートル」塗ることができるペンキであることがわかったので、□リットルで塗ることができる長さは
□×5/7メートル
です。したがって、次が成り立ちます。
□÷7/5=□×5/7
ペンキの問題は、「1メートルあたりaリットル」の関係を「1リットルあたり?メートル」に言い換えることで、わり算がかけ算に変換されるということです。
単位量の変換 a/1(リットル/m) → 1/a(m/リットル)
わり算 → かけ算
その3「分母をそろえる」
映画『おもひでぽろぽろ』の中で、小学5年生のタエ子はリンゴを使って問題を考えていました。悪くありません。もう少し工夫すればよかったのです。
2/3÷1/4=8/12÷3/12=8÷3=8/3
この考え方のポイントは分母をそろえることです。2/3と1/4の分母3と4の公倍数である12に分母をそろえると、それぞれ8/12と3/12となります。
リンゴを12等分割します。8/12、3/12とはそれぞれ8つ分、3つ分を表します。したがって、
8/12÷3/12=8つ分÷3つ分=8/3
と分数のわり算の答えがわかってしまいます。タエ子のテスト用紙に見える問題を「分母をそろえる」方法で解くことができます。
1/3÷3/10=10/30÷9/30=10÷9=10/9
1/3÷3/5=5/15÷9/15=5÷9=5/9
2/5÷3/7=14/35÷15/35=14÷15=14/15
「分数のわり算はひっくり返してかけ算にする」という計算手順を覚えるのではなく、きちんと2/3の中に1/4がいくつあるかというわり算をしていますし、途中の計算もひっくり返してかけ算にはしていません。
これならばタエ子もまだ納得できたかもしれません。
その上でこの計算を振り返ってみることで、結果的に「分数のわり算はひっくり返してかけ算」になっていることを示してあげられます。
2/3÷1/4=8/3=(2×4)/(3×1)=2/3×4/1
1/3÷3/10=10/9=(1×10)/(3×3)=1/3×10/3
1/3÷3/5=5/9=(1×5)/(3×3)=1/3×5/3
2/5÷3/7=14/15=(2×7)/(5×3)=2/5×7/3
中学生であれば、「分母をそろえる」方法を文字を用いて一般的に説明できるようになります。
b/a÷d/c=(bc/ac)÷(ad/ac)=bc÷ad=bc/ad=b/a×c/d
以上、3つの考え方を紹介しました。
理解された方であれば「私ならこうタエ子に説明してあげる」と思われたのではないでしょうか。
大人になれば、実に多くの多岐にわたる考え方の提示が可能になります。その最大の要因は経験量です。
経験量が小さい子供は、計算手順を覚えて解ければいい、となってしまいます。
分数のわり算の問題 大人版とは
分数のわり算を小学生に教える方法を提案しなさい。
となります。
「問題を解く」「問題が解ければいい」から「問題を考える」「問題を説明するための問題をつくる」へ。
それが大人の数学です。