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どうして0で割ってはいけないのか|0で割れない理由を解説

割り算で子供に「どうして0で割ってはいけないの?」「なんで0で割れないの?」と聞かれたらどう答えますか。

まちがっても「そう決まっているの!」などと乱暴な返答をしてはいけません。

丁寧に答えてあげたいものです。

いい質問だ!

そもそもこの質問はとても自然で大切な質問です。

まずは「いい質問だ!」「おもしろい質問だ!」と褒めてあげましょう。そして、どこがいい質問で、何がおもしろいのかを説明してあげましょう。

例えば、60(km/時)とは60/1(km/時)のことで、1時間で60km進む速さのことです。

すると60/0(km/時)とは0時間で60km進む速さを意味することになりますが、そのような速さは存在しません。

なるほど60÷0を電卓で計算してみると「E」が返ってきます。iPodの電卓アプリで同じ計算をすると「エラー」が表示されます。

0で割る計算には答えが存在しないことが電卓では「E」「エラー」を表しているようです。

error(エラー)とは、一般には誤り、間違い、誤解、過ちといったことを意味します。数学では誤差という意味で用いられる場合もあります。

では60÷0=E(エラー)とは、誤り、間違い、誤解、過ちを意味するのでしょうか。

かけ算で考える

まず割り算とは何かをもう一度考えてみるところから始めてみましょう。

×(かけ算)→ ÷(わり算)
2×3=6 → 6÷2=3

このように割り算があればその前にかけ算があると考えることができます。割り算にかけ算が対応しているということです。

0で割るわり算「3÷0」に対応するかけ算を考えてみます。

かけ算 → わり算
?  → 3÷0=?

すると次のようにかけ算の式を考えることができます。

かけ算   ← わり算
0×?=3 または ?×0=3 ← 3÷0=?

つまり割り算の式の「?」を考える代わりに、かけ算の式の式の「?」を考えてみるということです。
0×?=3とは、0に何をかけたら3になるかということです。

そんな数はない! そうです、3÷0の答え「?」は「ない」です。

しかしこれで終わりではありません。0で割るわり算のちょっと面倒なのはここからです。

0÷0は特別

0を0で割るわり算です。同じようにかけ算の式を探してみます。

かけ算 ← わり算
?  ← 0÷0=?

すると次のようになります。

かけ算 ← わり算
0×?=0または ?×0=0  ← 0÷0=?

かけ算の式の「?」に当てはまる数を考えます。

おもしろことに「?」に当てはまる数はいくらでも見つかります。

かけ算   → わり算
0×0=0  → 0÷0=0
0×1=0  → 0÷0=1
0×2=0  → 0÷0=2
0×3=0  → 0÷0=3
…    →   …
つまり0÷0の答えは「無数にある!」となります。

0で割れる!

以上から「どうして0で割っていけないの?」の問い自体が修正を迫られます。そもそも0で割る計算を考えることはできるのです。

「割ってはいけない」というのは、許されないというニュアンスです。0で割るわり算はそれ以外のわり算と同じように考える(計算する)ことができる(許される)のです!

しかしその結果が他の計算(0で割る計算以外の計算)と大きく異なる、という違いがあります。

答えをまとめましょう。

0以外の数÷0の場合  3÷0=答えなし
0÷0の場合  0÷0=すべての数

a÷0は定義できない

以上が小学校6年生に何とか説明できる解説です。これを大人向けに答えるとどうなるかを続けましょう。

結果は他のわり算6÷3=2、0÷5=0のように答えが一つ決まる計算とは異なります。

「0で割るわり算」は「計算できない」ではなく、「計算(演算)が定義できない」が正しい表現です。

「計算(演算)が定義できる」とは、3+5、6-4、8×3、6÷3のように「答えが一つに定まる」ことをいいます。

a÷0という計算は、答えが2通りになります。a÷0は、答えが一つに定まらない(存在しない)計算です。

これを数学では「計算(演算)が定義されない(できない)」と表現します。これが「0で割ってはいけない」の正体だったのです。

aが0以外の場合は、a÷0は存在しない。 aが0の場合は、a÷0は無数に存在する。 したがって、わり算a÷0は定義されない。

このように答えを返してくる電卓があってもいいと思います。7÷0には「存在しない」、0÷0には「すべての数」と返してくる電卓アプリです。

「計算が定義されない」なんて学校の数学には出てきません。それはそうです、小学校から習う計算のすべては「定義できる計算」だけなのですから。

わざわざ答えが一つに定まらない「定義されない計算」など学校では扱いません。結果として「定義できる計算」だけが安心して教えられます。

ということは、計算(演算)は定義できるかできないかが確かめられていることでもあります。

分数の四則のルールはなぜそれぞれあのように決まっているのでしょうか。実は四則すべてがきちんと「定義された」計算なのです。

だから安心して分数の計算ができます。本当はいちいち説明できるのですが、残念ながら学校でそこまで踏み込むことは容易ではありません。高校数学でもそのことには触れられません。

分数の四則が定義された演算であることの証明はいずれ紹介しようと思いますが、まずは算数の教科書をもう一度読んでみることをお奨めます。

大人だからこそ見つけられる疑問がいくつも隠れています。

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桜井進(さくらいすすむ)様

1968年山形県生まれ。 サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。 (略歴) 東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。 理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。 公益財団法人 中央教育研究所 理事。 国土地理院研究評価委員会委員。 2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。 全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。 著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。 サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

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