地図マニアな日々

地図デザインに見る海外と日本の住所表記の違い

日本の住所はややこしい?

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、海外から多くの観光客が日本を訪れるようになった。そんな彼らが必ず戸惑うのが日本の住所表記だ。

世界の多くの国が住所を「通り名+番号」で表記している(従来日本式だった韓国も2014年にストリートアドレスに改めている)のに対して、日本ではいわゆる街区制が採用されている。これが非常にわかりにくいというのだ。

日本の地図やカーナビが「ガラパゴス」と言われるのも、実はこの住所方式の違いによるところが大きい。また、そのことが海外の地図・ナビメーカーが日本市場に参入しようとした場合の大きな壁になっているとも言える。

日本の住所制度は確かにややこしい。外国人に限らず日本人でも混乱をきたすケースがある。その一つの要因が「住所」(住居表示)と「地番」の混在だ。

地番は土地の登記にも使われる表記で、土地の権利を表すためのものといっていいだろう。規則的に並ぶわけではない上に数字も大きくなりがちで、さらに分筆のたびに枝番が増えるなど複雑極まりなく、少なくとも任意の場所を「わかりやすく」表す方法としては不親切であることは間違いない。地番は民有地であれば住居ばかりでなく農耕地や山林といった土地にも付与され、現在でも都市部以外では地番をそのまま住所にあてている例が多い。

一方、都市部では1962年5月10日に施行された「住居表示に関する法律」を基にした住所表記(住居表示)が一般的だ。住居表示はもともと郵便物を配達しやすくすることを目的としており、道路等で区切られた街区に規則的に街区番号を付与し、その中にさらに規則的に住居番号を与えている。これがいわゆる「住所」と認識されているものである。

ただし住居表示が実施されている地域であっても、不動産の登記はそれまで通りの地番が使われるため、住居表示実施地域では住所と地番が並行して別々に存在するということになる。

住居表示はわかりやすい半面、実施に伴い古くからの地名(字名)が改変されてしまうようなケースがあるほか、自治体が住居表示台帳(住民票関係)と土地台帳の2種類の台帳を管理しなければならないことなど難点もある。

また、住居表示を実施せずに地番整理で対応する自治体もある。これは従来の地番を規則正しく整理する方式で、表記は住所表示と似ているが、住居表示法に縛られないことや登記上の地番と住所が一致する形で整理されることが特徴だ。ただし住居表示ほど明確なルールに基づいた規則性はない。ちなみに筆者が住んでいる東京都府中市はこれに該当するので、我が家の住所は整理地番ということになる。

このように、日本の住所表記はさまざまな方式が並立しており、そのいずれもが「地域を面で区切る」形になっている。こうした面単位の住所表記は、土地の登記上用いるの地番がベースになっていることに起因している。海外は任意の場所を線(あるいは点)でとらえるのに対して、日本では面でとらえる習慣があるという違いがある。

ではこうした住所表記の違いによる混乱は、方式を改めることで回避することが可能なのだろうか。率直に言ってそこには大きな疑問がある。というのも、この違いは空間認識の方法の違いに繋がるものであり、それは文化の違いと言い換えることもできるからだ。

地図デザインにも反映

たとえば、日本では場所を示す際に道路名はあまり重視されない。一部の有名な通り名を除けば、多くの人は道路の名前を知らない(あるいは興味がない)。そもそも道路管理上のID的な位置付けである道路番号以外は特に必要性を持たないこともあり、道路名はあくまでも通称名に過ぎないという感覚が一般的だろう(※ただし日本においても街道名は使われる頻度が高い)。逆に、おおまかな場所を示す上で住所の町名や字名は、日本人の空間認識の中でそれなりに役割を果たしている。

こうした違いは地図にも如実に表れる。
海外の地図は道路のデザインが線を太らせた形のものが多いのに対して、日本の地図での道路デザインはいわゆる道路縁が表現されていることが多い。
Web地図のデザインで比べてみると、Googleマップが前者で、Yahoo!地図は後者であることが何となく見てとれる。ちなみにYahoo!地図の前身は日本を代表する地図会社のひとつだったアルプス社である。

Googleマップのデザイン

Yahoo! 地図のデザイン。道路縁が意識されている

こうした地図デザインの違いは、日本と海外の住所表記の違い、ひいては空間認識のアプローチの違いと無関係ではないだろう。
地図において、海外の都市地図では道路名の注記が時に窮屈に描かれており、日本人からするとうるさく感じる。しかし海外の人にしてみれば、日本の地図は町名や街区番号がうるさいということになるのだろう。

パリの地図。通り名の注記が多い(Bingマップ)

渋谷の地図。こちらは通り名が目立たない(Bingマップ)

分かりにくいとされる日本の住所表記だが、ストリートアドレス方式とどちらが優れているかは簡単には論じられない。制度を変更することは簡単ではない上に、変更は人々の空間認識そのものに影響を与えることにもなり兼ねない。個人的には日本は日本の社会に適した方法でやっていくことでいいのではと考えている。

IT全盛の現代であれば、外国人に分かりやすくするには別のアプローチもあるだろう。むしろそうした情報サービス(住所検索やナビゲーション)の充実や街中のサイン等の工夫で、現在の方式のまま分かりやすさを追求することを目指すことも、おもてなしの一つの方法なのではないだろうか。

執筆者ご紹介  遠藤宏之(えんどうひろゆき)様
地理空間情報ライター(地図・地理・測量・GIS・位置情報・防災)、測量士、GIS NEXT副編集長
著書:『三陸たびガイド』『地名は災害を警告する』『首都大地震揺れやすさマップ』(解説面)『みんなが知りたい地図の疑問50』(共著)他

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