地図マニアな日々

日本の面積とフラクタルの罠

なぜ国土の面積は減少したのか

国土地理院は国土の面積を集計し公表している。
面積の公表は毎年恒例で、昭和35年から国土地理院が発表するようになったが、明治15年に太政官統計院によって発表されたのが最初とされ、人口統計と並ぶ古い歴史を持っているのだという。

毎年国土の面積を公表するのは増減が起きるからなのだが、そもそも決められた国土の中でなぜ面積の増減が起きるのだろう。
最近では小笠原諸島に西之島という新しい島(自然島)が誕生しているが、こうしたことは非常に稀で、多くの場合は埋め立てによりそれまで海であった場所に土地ができることで面積が増加するパターンである。

かつて日本の都道府県で最も面積が小さかったのは大阪府だったが、1985~1990年の間に香川県が逆転している。
その要因の一つが埋め立てであることは現在の大阪湾の様子を見れば納得できるだろう(他にも陸海の境界が満潮界に改められたことで、香川県の入浜式塩田跡地などが海の扱いになった影響もあるとのこと。そのあたりの変遷はこちらのサイトに詳しい)。

こうした事情もあって、国土の面積は毎年微増を繰り返していた。
しかし平成27年のデータで異変が起きる。初めて国土の面積が減少したのだ。
発表された平成27年の国土の面積は377,970.75km2。前年が377,972.28km2なので、何と1.53km2ほど面積が減少している。

面積の増加については、前述したように理由として分かりやすい。しかし減少となると、なかなか理由が思い当たらない。いったい何が起きたのだろうか。

普通に考えれば、何らかの理由で陸地が海になってしまうケースだろう。実際に2011年の東日本大震災の際には、一時的に海中に没してしまった土地もある。

この時には国土地理院が被災地の通常の地図の更新を停止したが、これは震災による面積の変化が直ちに反映されないように配慮したものとされている。地方交付税の算定に影響を与えてしまう可能性があるからだ。

この話から分かるように、面積の算出は国土地理院の地図から行っている。
そして平成27年に見られたような減少も含めて、面積の変化には実は地図が少なからず影響を与えているのだ。

海岸線のフラクタルな性質

かつて面積の算出には全国を同一縮尺で網羅する2万5千分1地形図が使われていた。
その後国土地理院では図面単位の地形図から、シームレスな地図データベースである電子国土基本図へと基本図の形態を変更した。現在の地理院地図のベースである。

電子国土基本図は地理空間情報活用推進基本法で定義された基盤地図情報がベースとなっているのだが、この基盤地図情報は従来の地形図の体裁をある程度受け継ぎながらも、都市計画区域などでは縮尺レベル(地図情報レベル)を2500としており、従来と比べて大縮尺となっている。
この「地図の縮尺が大きくなった」ことが面積に影響を与えたのだ。

これについては国土地理院が公表している以下の説明図が分かりやすい。

図1:国土地理院ウェブサイトより

縮尺が大きくなると、それまでの縮尺では反映できなかった海岸線の細かい凹凸が表現されるようになる。
この図からは、これまでの縮尺でのざっくりと引かれていた海岸線が、大縮尺の図と比べると海の部分を多く丸めこんでしまっていたことが見てとれる。
このような部分が、大縮尺地図ベースで算出した場合に海となるため面積に含まれず、結果として面積が減少するということが起きることになる。

こうした傾向はリアス海岸などでは顕著だ。
岩手県の釜石市付近の海岸線について、異なる縮尺の地図で見てみよう。縮尺が大きくなるごとに、それまで見えなかった海岸線の凹凸が出現する。そのたびに海岸線の長さは変わる(長くなっていく)ことになる。

図2~6:いずれも地理院地図より

このように、一部分を拡大すると全体と同じように見える複雑な形というのは、海岸線に限らず自然界のいたるところに見られる。このような自己相似性の特徴をもつ図形、形、現象を、フランスの数学者マンデルブロ(Mandelbrot)は「フラクタル(fractal)」と名付けている(1975年に提唱)。

そう、海岸線にはフラクタルの罠が潜んでいる。

海岸線の計測においては、縮尺が大きくなるほど細かい海岸の凹凸が表現されるので、結果として海岸線が長くなってしまうことになる。そうなると海岸線の長さを計測すること自体が実はあまり意味を持たないということにもなる。

地図の性質の一つとして認識しておきたい。

執筆者ご紹介  遠藤宏之(えんどうひろゆき)様
地理空間情報ライター(地図・地理・測量・GIS・位置情報・防災)、測量士、GIS NEXT副編集長
著書:『三陸たびガイド』『地名は災害を警告する』『首都大地震揺れやすさマップ』(解説面)『みんなが知りたい地図の疑問50』(共著)他