地図マニアな日々

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2018年7月11日


「真上から見る」という地図の真理

中心投影と正射投影

私たちが目にする地図の多くは、基本的に現実世界が正射影で表現されたものだ。正射影とはすなわち、地上を真上から写しているということ。「いや、地図なんだから真上から見るのは当たり前でしょ」と言われるかもしれないが、正射影とはその地図上のすべての場所が「真上からの視線」で見られているという意味である。

このことは航空写真と比べるとわかりやすい。地図は多くの場合航空写真から作成されるが、撮影された写真をそのままトレースすれば地図になるというわけではない。
航空写真は、空中のある1点からシャッターを切っている。つまり、写真に写っている地上の姿は、そのシャッターを切った1点から見た形となる。いわゆる中心投影だ。20180710_1

正射投影と中心投影
「みんなが知りたい地図の疑問50」:
ソフトバンククリエイティブ サイエンス・アイ新書
より引用)

上の図にあるように、正射投影ではすべての地点を真上から見ているのに対して、中心投影は空中の1点から全体を見る形になる。このため、写真の中心部分については真上から見た正確な位置や形状が得られるが、写真の中心から離れるのに従って、放射状に位置がずれていくことになる。

航空写真を見ると、高い建物が写真の外側に向かって傾いて写っていることがよくあるが、それこそが中心投影の影響による倒れ込みである。正射投影であれば現実世界と同じように建物の基底部と頂部(根元とてっぺん)は一致するが、中心投影ではその位置がずれることになる。特に高層ビルなどの頂部は大きな位置の違いが発生する。それでも建物などの構造物の場合、地図で取得するのは基底部の形状となるため、位置ずれは平面的なずれに限られるのでまだいい。しかし山など自然の地形ではそうはいかない。

ビルを山に置き換えてみよう。写真の中心から離れた場所に山があるとすると、その山頂は、本来正射影で地図に描かれる場所より外側に傾いた位置に写っていることになる。地図には山頂の位置も正しく描かれなければならないため、中心投影の影響はビル以上に大きくなる。

こうした中心投影による位置ずれを、地図に合うように正射影に合わせて修正した(正射変換したもの)写真がオルソ画像である。この処理により、航空写真ははじめて地図と重なるようになる(※ただし一般的な正射変換はあくまでも中心投影による位置のずれを地図に合わせて修正するもので、画像に写ったビルなどの見た目は傾いたままである。画像の見た目も正射影に修正するには別の処理が必要)。20180710_2

オルソ画像の原理(国土地理院ウェブサイトより )

20180710_3中心投影の航空写真(左)と正射変換された画像(右)
「みんなが知りたい地図の疑問50」:
ソフトバンククリエイティブ サイエンス・アイ新書
より引用)

正射投影の宿命と弱点の克服

正射影である地図には、宿命的な弱点がある。立体関係を正しく表示できないことだ。たとえば、高架で走る高速道路の下を一般道が通っていることは都市部などでは珍しくないが、正射影の場合、下の道路は高速道路に隠れてしまうため、表現することができないのだ。

しかし地図を見ると、本来正射影であれば見えないはずの高架下の道路がしっかりと表現されていることに気づく。高架下の道路を、高架の高速道路からはみ出す形で描くことで、地図を見るものに高架下道路の存在を知らしめているのである。そこには、転位や誇張といった、地図編集のテクニックが存分に使われている。高架下の道路は正射影という地図の宿命のもとでは大きな弱点であったが、同時に地図技術者にとっては、編集の腕の見せどころでもあったわけだ。20180710_5

東京の東池袋付近のオルソ画像と地形図。
高架下の道路が誇張されて描かれている(地理院地図より)

以前は、カーナビなどもこうした高架下の道路には弱かった。下の一般道を走っているのに、ナビの画面上では高速を走っていることになってしまい、次のインターが表示されてしまう、などというパターンは多くの人が経験しているのではないだろうか。現在ではさまざまなセンサーの併用による垂直位置把握はもちろん、ARをはじめとした新しい表現を取り込むことで、こうした課題は克服されている。

正射影の悩みは高さの表現にもあった。地形図では土地の高さは等高線で表現される。2万5千分の1地形図の場合、等高線(主曲線)は10m間隔で描かれ、等高線の間隔が広ければ緩斜面、間隔が短く込んでくれば急斜面という形で地形が再現される。ところが、急斜面になると、正射影では非常に狭い距離の中に描き切れないほどの数の等高線を描き入れなければならないのだ。

2万5千分の1地形図における等高線の太さは図上0.08mmである。これを実距離に換算すれば2mとなる。線と線の間には0.2mの微量の白部(実距離で5m)(※地図マニアな日々:高精度測位時代の地図を考える(5))が必要であることを考慮すれば、等高線で傾斜を表現できる限界は平面距離7mに対して10mの標高差ということになる。これでは急斜面はとても表現できない。

そこで地形図では、こうした急斜面を崖記号で表現している。土崖(ケバ)や岩崖、切土・盛土、擁壁などもこれに該当する。20180710_6

栃木県の奥日光・華厳の滝周辺のオルソ画像と地形図。
急斜面が岩崖で表現されている(地理院地図より)

地図には、正射影であるという「しばり」ゆえにさまざまな制約があった。それを克服するためにさまざまな編集技術が生まれることで、地図編集は進化を遂げてきた。いま、センサーやデータ解析、そしてヴィジュアリゼーションといった技術が進歩し、G空間社会は新しいステージを迎えている中、地図表現もまた新しい時代に入っていくことになる。「真上から見る」という地図の宿命にも、あるいは変化が訪れるのかもしれない。


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執筆者ご紹介  遠藤宏之(えんどうひろゆき)様
地理空間情報ライター(地図・地理・測量・GIS・位置情報・防災)、測量士、GIS NEXT副編集長
著書:『三陸たびガイド』『地名は災害を警告する』『首都大地震揺れやすさマップ』(解説面)『みんなが知りたい地図の疑問50』(共著)他