人と星とともにある数学 第28回

地図と数学 世界は波でできている フーリエ物語後編

フーリエ級数

前回「フーリエ級数」を次のように紹介しました。

任意の関数は三角関数の無限級数で表すことができる。20180530_1
フーリエ級数

その具体例として直線(1次関数)を例にあげて説明をしました。さらに、上記は次のように言い換えることができることにも言及しました。

任意の曲線は正弦波と余弦波の合成で表すことができる。

しかしながら、このことについて例を挙げませんでした。
そこで今回は、本当に「任意の曲線」、すなわち「どんな曲線」でも①の数式で表すことができることを例を挙げて説明してみようと思います。

本当に「どんな曲線」でも表せるのか?

「どんな曲線」の例として、○○関数でももちろんOKですが、それが①のように表されても驚きがイマイチに思われてしまいそうです。そもそもが○○関数という数式を、わざわざ①という別の(それもわざわざ面倒な)数式に変換することは、結局数式を数式に変換しただけだけなのでダイレクトに変換できる凄さが伝わりません。

そこで元の曲線として、数式ではなくフリーハンドで描いた曲線を準備しましょう。これならば、数式が未知である手書きの曲線を表す数式が得られることになり、驚いてもらえるはずです。

結論を急ぎましょう。次のように手書きの曲線が、長いsinとcosの数式で表されていることがわかります。そして一番下にあるグラフは、その得られた数式をあらためてコンピュータに描かせたものです。手書きの曲線によく重なる様子が一目瞭然です。20180530_2

でたらめに手書きで描いた曲線の数式が、確かに求められているではありませんか。それも三角関数だらけの風景には驚かされます。数学の授業で習うことは、初めに○○関数が天下り式に与えられ、その上で関数のグラフを描いてみましょうという流れです。驚きどころか、しらけムードが漂っています。

ノートに手書きで適当に描いたどんな形でも、三角関数のたし合わせで表されることを目の当たりにしたならば、数学の授業は驚きと感動に包まれたものに変貌することでしょう。

関数をフーリエ級数に表す意味

手書きの曲線を表す数式(フーリエ級数)をいかにして求めるのか、その算出過程をざっくりと眺めていきます。

フーリエ級数と呼ばれる数式①をばらしてみると、次のようになります。20180530_3

サインとコサインのグラフはそれぞれ正弦波、余弦波と呼ばれるように「波」の形をしています。波を特徴づける要素に振幅と周波数があります。sinとcosの式においてその係数a0、a1、b1、a2、b2、a3、b3が振幅を、x、2x、3xが周波数を表しています。

関数f(x)をフーリエ級数①に表すとf(x)の中に、異なる周波数がそれぞれどのくらい含まれているかがわかるということです。波を音波とするならば、音の大きさが振幅(a0、a1、b1、a2、b2、a3、b3)、周波数(x、2x、3x)を表し、係数a0、a1、b1、a2、b2、a3、b3の組み合わせの違いが「音色」を表すことになります。

いかにして係数を求めるのか

手書きの曲線の例に話を戻すと、曲線の形の違いが音色のそれに相当することになります。係数a0、a1、b1、a2、b2、a3、b3を調整することで曲線の形が変化するということです。だからといって、係数a0、a1、b1、a2、b2、a3、b3をあてずっぽうに選んで手書きの曲線にフィットさせることは不可能です。

実は係数anとbnは次の積分計算によって求めることができます。20180530_4手書きの曲線の例では、この計算をコンピューターにさせて係数anとbnをn=10まで求めました。コンピューターで実際に行う計算は数値積分と呼ばれる計算です。①のΣに∞があることからnを大きくしていけば手書きの曲線に近づいていきます。

フーリエ級数の波及

1822年にフーリエは『熱の解析的理論』を著し、どんな関数でも三角関数で表すことができることを主張しました。フーリエの議論は飛躍がたくさんありその厳密性に批判が集中しました。

しかし、そのことで関数がフーリエ級数で表現できるための条件が深く研究されることになりました。フーリエの研究は、関数概念成立にも大きな影響を与え、集合論や測度といった現代数学の根幹を作り出すほどの影響を持ちました。

さらに、フーリエ級数は「フーリエ変換」と呼ばれる新しい手法を生み出しました。関数をフーリエ変換すると、関数に含まれる周波数の成分を得ることができます。オーディオ装置であるイコライザーは、音をフーリエ変換して、そこに含まれる様々な周波数成分を表示しています。現在、フーリエ級数は電気工学、音響学、光学、信号処理、量子力学など波を扱う分野で用いられています。

音はそもそもが波ですが、画像も波と考えることでフーリエ変換で周波数分析できるようになります。画像データを波形データとして捉え直し、フーリエ変換(正確には離散コサイン変換)することで波形の周波数分析を行い、「人間の目で感じ取れない部分を端折る」すなわちJPEGなどの圧縮技術にも応用されています。

「数学はわれわれの感覚の不完全さを補うため、またわれわれの生命の短さを補うために呼び起こされた、人間精神の力であるように思われる」(フーリエ)

20180530_5Jean Baptiste Joseph Fourier(1768-1830)

執筆者ご紹介  桜井進(さくらいすすむ)様
1968年山形県生まれ。
サイエンスナビゲーター®。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。
(略歴)
東京工業大学理学部数学科卒、同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。 東京理科大学大学院非常勤講師。
理数教育研究所Rimse「算数・数学の自由研究」中央審査委員。 高校数学教科書「数学活用」(啓林館)著者。
公益財団法人 中央教育研究所 理事。
国土地理院研究評価委員会委員。
2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て現在に至る。 子どもから大人までを対象とした講演会は年間70回以上。
全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など様々なメディアに出演。
著書に『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。